お姉さまデザイナーのお気に入り

【書籍情報】

タイトルお姉さまデザイナーのお気に入り
著者竹薗水脈
イラスト
レーベル文庫
価格300円+税
あらすじ友梨佳は短大を卒業したばかりの20歳のOL。彼氏との初デートを楽しみにしていたのに、ホテルで服を脱がされた上にちっぱいを理由に振られてしまう。

雨まで降ってきて、気分は最悪! そんな友梨佳の目の前に、ユニセックスな服装に身を包んだセクシーなお姉さまが現れる。彼女の名は早乙女雅といって、有名な下着メーカーのデザイナーだった。

雅に誘われて温泉旅館を訪れた友梨佳は、湯船に浸かる雅に見惚れて転びそうになり、雅と裸で抱き合うことに! 胸のドキドキが止まらない!

【本文立ち読み】

お姉さまデザイナーのお気に入り
[著]竹薗水脈

 

両手首を頭の上で押さえつけられ、腹の上にのしかかられる。
(どうして、どうしてこんなことになってしまったの?)
「いや……やめてっ!」
柊友梨佳は、半年ぶりに出会った恋人を見上げ、悲痛な叫びを上げた。
友梨佳の恋人――速水和斗は思い詰めた顔をして、無我夢中で友梨佳の前開きのワンピースのボタンをはずしている。手足をばたつかせても、速水の体はびくともしない。速水の双眸から、はっきりとした情欲の炎が見て取れた。
(怖い!)
友梨佳は唇を噛み締め、ぎゅっと目をつむった。

* * *

速水と付き合い始めたのは、半年前の同窓会がきっかけだった。
成人式の後に居酒屋で開かれた高校のクラス会で、晴れ着に身を包んでいる人がほとんどだった。友梨佳もレンタルした振袖《ふりそで》で参加した。
友梨佳は会場の隅でちびちびとお酒を飲みながら料理を口に運んでいた。親しい友人は皆、遠方に進学しているため、欠席だった。
友梨佳は、当時短大の二年生で、年が明けても就職先が決まらずに焦っていた。両親は二年生に進級した四月に仕事の都合で引っ越している。家に帰っても一人で、誰にも話を聞いてもらえない。
(みんな楽しそうなのに、私だけ独りぼっち)
たくさんの人がいるのに、友梨佳は孤独だった。
「柊、久しぶり。振袖《ふりそで》似合ってるよ」
泣きそうになっていた時に、声をかけてくれたのが速水だった。
「良かったら、二人で抜け出さない?」
速水が連れて行ってくれたのは、すぐ近くのカラオケボックスだった。
素面《しらふ》のままだったら、男の人と二人でカラオケなんてありえない。お酒を飲んでいたため、友梨佳は少し大胆になっていたのかもしれない。
「私、もう少しで短大卒業しちゃうのに、まだ就職先が決まらないの」
堰《せき》を切ったかのように、不安な気持ちが溢れ出す。注文したビールが、さらに友梨佳を饒舌《じょうぜつ》にさせた。
「焦ったって、いいことないよ。きっと大丈夫だから。元気出して」
「速水くん……ありがとう……」
温かな励ましの言葉に、胸の奥がじんとする。
「俺で良ければ、愚痴くらいならいつでも聞くから。連絡先交換しよう」
スマホの機能を使って、速水の連絡先を登録する。
「ありがとう。嬉しい」
画面に表示された速水の番号を見るだけで、友梨佳は救われた思いがした。
それからというもの、友梨佳は毎日のように速水とラインのやり取りをするようになった。
「またお祈りメールが届いちゃった。もう二月なのに、どうしよう」
週末の夜、友梨佳は速水と通話していた。
『まだ二月だよ。卒業まで二ヶ月近くあるんだから、柊なら、きっと決まるから』
「不思議。速水くんと話してると、本当に大丈夫な気がしてくる」
『だから大丈夫だって』
電話の向こうで、速水が微笑みを浮かべているのがわかった。
ふと友梨佳の心に、申し訳ないという思いが芽生える。
「ごめんね。私たちただの同級生なのに、こんなに愚痴聞いてもらっちゃって」
『……え?』
友梨佳には、速水が驚いている理由がわからない。
「速水くん、どうかした?」
『いや、ごめん。認識の違い。てっきり、付き合ってるものだと思ってたから』
今度は友梨佳が驚く番だった。
「どうして?」
本当は「なんで?」と聞きたいところだが、それだとニュアンスが強すぎる気がして、「どうして?」にした。
『カラオケって、密室じゃん? 同窓会抜け出して、二人だけでカラオケがオッケーだったら、そういうのもオッケーなのかなって、勘違いしちゃって』
速水は歯切れの悪い返事をする。速水が言う「そういうの《・・・・・》」が、友梨佳には見当も付かなかった。
「ちょっと待って。速水くん、私と付き合いたいの?」
『そうだけど?』
速水の返事が軽い気がして、友梨佳は困惑する。
(今のって、告白? 私、告白された? 男の人に初めて告白されたのに、全然ときめかない。付き合うって、こんなもの?)
友梨佳が黙ったままでいると、速水が口を開いた。
『柊、今付き合ってる奴いる?』
「いないけど」
友梨佳は二十歳になった今でも、誰とも付き合ったことがなかった。
『だったら、俺と付き合わない?』
「は?」
開いた口がふさがらなかった。何が「だったら」なのか、友梨佳の理解を超えている。
『柊、俺のこと嫌い?』
「ううん。嫌いじゃないよ。ちょっとびっくりしただけで。愚痴聞いてもらって感謝してるし」
『じゃあ時間できたら、また会ってくれる?』
「もちろんいいよ」
結局、速水のペースに乗せられてしまい、なりゆきで付き合うことになってしまったように思う。それでも、電話で愚痴を聞いてもらえる存在ができて、友梨佳の心は晴れやかだった。
速水に励ましてもらったおかげで、三月も末になってから、ようやく就職先が決まった。感謝の気持ちを伝えたかったけど、四月から仕事が始まったため、二ヶ月経ってからやっとデートの約束ができたのだ。

【続きは製品でお楽しみください】

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