
【書籍情報】
| タイトル | 最悪の魔女スズランPart7 災果ての花 雲下の哀哭(上) |
| 著者 | 秋谷イル |
| イラスト | 秋谷イル |
| レーベル | ペリドット文庫 |
| 価格 | 600円+税 |
| あらすじ | スズランとモモハル、ついに世界デビュー。新たな神子がその姿を現す時、人々は大いなる奇跡を目の当たりにする。 時は来た。より強くなるべくシブヤに留学したスズランとモモハルは、ついに正式な神子と認められ人々の前に姿を現すことに。だが、その前に最後の試練として訪れた聖域で彼女たちは『全ての始まり』を知ることとなる。さらには敵か味方か勢揃いする七王たち。思いがけぬ訃報と別れ。そして人々の想像を超える奇跡の数々。今回も驚きと波乱に満ちた物語。けれどそれすら、この先の未来で待つ『決着』のための序曲でしかなく。 初の上下巻となったシリーズ七作目。まずは上巻をお楽しみあれ! |
【本文立ち読み】
最悪の魔女スズランPart7 災果ての花 雲下の哀哭(上)
[著・イラスト]秋谷イル
― 目次 ―
開幕・七王会議
一幕・聖域の試練
二幕・全てを消し去る炎
三幕・新世界へ
四幕・万物の母
五幕・分岐点
六幕・当たり前のこと
七幕・私たちの号砲
八幕・火に入る虫
九幕・暴かれるもの
世界観・キャラ紹介
開幕・七王会議
「待たせたわね」
言いながら入室してきたのは五歳前後の少女。しかし、その見た目に反して態度は誰より堂々としている。
それもそのはず、実年齢は千歳超。この場どころか人類全体で見ても最年長者なのだ。
いつも通り長い髪を左右で一房ずつに結び、服装は青いドレス。自分の席についた彼女は内面の老成を覗わせる切れ長の眼差しで居並ぶ面々をぐるりと見渡し頷く。
「揃ってるわね」
「揃っております」
答えたのはイマリ王ルドベキア。知性と屈強な肉体を併せ持つ偉丈夫。黒髪黒目で褐色の肌。彫りの深い顔の下半分は丁寧に整えられたヒゲで覆われている。
彼らは円卓を囲んでいた。人数は七人。場所はメイジ大聖堂の一室。
円卓を使うのは、この七人の間に序列は無いと示すため。無論建前に過ぎない。実際のところ序列は存在する。
中でも彼女、アイビーは別格。彼女は神と契約して超常の加護を得た最初の神子《みこ》であり、その力で魔王を倒した大英雄でもある。以降千年も人類全体を見守り導いてきてくれた母のような存在。
だからこそ他の六人も敬意を払う。誰も彼女が最後に到着したことに文句は言わない。大物ほど遅れて登場するものだ。
彼らは七王――中央大陸が誇る七大国の王たち。
アイビーは正確には国家元首でなく大陸中央部に広がる広大な『魔法使いの森』の管理者。だが、かの森には多くの魔法使いが暮らしている。もし彼らを束ねて軍としたなら最強の国家となるだろう。軽んじられるはずもない。ゆえに彼女への敬意も含めて七王の一人に数えられている。
そのアイビーが招集して開催された今回のこの七王会議。集まった者たちの大半はまだ議題について知らない。ただ極めて重要な案件とだけ聞かされている彼らへ、彼女は挨拶もそこそこに切り出す。
「新たな神子が+二人+、現れたわ」
「!」
ざわつく一同。この千年で生まれた神子はアイビー含めて五人。初期の三人は同時期に現れたものの、以降に現れ今なお存命中の二人はそれぞれ異なる時代の生まれ。なのにまた二人同時になど、驚きを通り越し作為さえ感じてしまう。
「もしやと思っていましたが、驚きました」
言うほど驚いて見えない細身の老人はトキオ国王ハナズ。長い白髪とそれに負けないほど長く伸ばしたあごヒゲが特徴。優秀な魔法使いでもあり、身につけているローブには多種多様な護符を仕込んである。
稀に見る賢君と称されるルドベキアほどではないが、今までに大きな失策は無く民からの信頼も厚い。年齢は今年七十。もっと老けて見えるのは苦労してきた証だろう。そして、そのくせ目の輝きだけは今もなおしたたか。
「シブヤにいらっしゃいますか?」
「いえ、まだよ。でも当人たちからしばらく大聖堂で修行したいという申し入れがあったわ。本当ならムスカリから話すべき話だけれど手間を省きましょう。よろしいかしら?」
「ご随意に」
「ありがとう」
断るはずがないと思っていたし、やはりハナズは頷いた。
トキオは大国だが、その繁栄には国内に擁する三柱《みはしら》教の聖地シブヤの存在が大きく寄与している。シブヤはトキオの一部でなく自治国という扱いだが、トキオの保護下にあるのも周知の事実。
シブヤに手を出せばトキオが黙っていないし、その逆も然り。彼らはシブヤとの持ちつ持たれつの関係を維持することで実質的に世界最大の宗教組織とその象徴である神子を後ろ盾にしてきた。
今のところシブヤに常駐している神子は一人だけだが、この上さらに新たな二人が加わればトキオの地位と安全は盤石なものとなる。この場の全員がそう悟った。かように神子は大国間のパワーバランスすら左右してしまうもの。
直後、また別の王が挙手する。発言の許可を求めたわけでなく、単に注目を集めるための動作。
(相変わらずの目立ちたがり)
アイビーがそう思った瞬間、+彼+とも+彼女+とも呼び難いその王は粘つくような眼差しを彼女に向ける。
「修行のためと仰りましたね。つまり新たな神子のお二方は、今後永遠にシブヤに留まり続けるわけではないと?」
「察しが良いこと。その通りよラベンダー」
その王の容姿は女性的で、不自然に鮮やかな色の長い翠髪をまっすぐ垂らしている。
実際の性別は男。整った顔になで肩、細い腰、長い脚。何も知らない相手にはまず確実に女と思われる風貌だが間違いなく男である。しかも、かつてはルドベキアのように屈強な姿だった。
ところが王に即位してから徐々に変わり始め、今や見た目だけは完全な美女。言葉遣いや仕草も女性的になっており、以前の彼の面影は野心に満ちた眼差し以外何も無い。
名はラベンダー。治める国は西の大国キョウト。元は茶色だったはずの瞳も今は色付きのグラスチックを入れて青くしてある。
アイビーは二人の神子に関する説明を続けた。
「あの子たちは郷土愛が強いの。特に『七人目』がね。一人前の神子と認めてもらって故郷で暮らすことが目標の一つ」
「まあ、可愛らしい」
妖艶な笑みをこぼすラベンダー。声も以前に比べて高い。
だが一転して眼差しを鋭くすると以前の彼を思わせる低い声を喉仏のある喉から発した。
「+タキアですね+?」
「本当に察しのいい子ね」
「さほどのことも……簡単な推理でございます」
今度はホホと謙遜しつつ扇で口元を隠す。直後、彼以外の面々もどういう推理か察した。
「そうか、去年のあの光の柱」
「あれか……」
昨年の夏、タキア王国内で発生した天を衝く青い光の柱。あの想像を絶する光景は全世界から目撃されていたし、いまだ記憶に新しい。あれほどの奇跡、たしかに神子の仕業と考えるのが自然である。
「実際そう噂する者たちもいました。けれどもタキア王には心当たりが無く、国内にそれらしい者も見つからないという話でしたね」
調べたようだと声には出さず察するアイビー。別にキョウトだけの話ではあるまい。ここに居並ぶ王たちの半数はタキアに密偵を送り、あの一件について調べていたはず。
もっとも、事件直後にスズランとモモハルのことを知ったタキア王はアイビーによって厳重に口止めされていたし、ココノ村の情報もできる限り漏洩を防いでおいた。
だからこそ、今ここで+初めて+二人の神子の所在地を知った者は素直に感動する。
「なんと、タキアですか! では我がミヤギの同胞ですな!」
嬉しそうに目を輝かせた彼女はこの場で最年少の王。齢二十の若さで王位を継いだばかりのミヤギの女王ユリ。
銀髪に緋色の瞳。女でありながら男物の服を好み、若獅子を思わせる血気盛んな気勢を発する彼女は『立てば芍薬、座れば牡丹。口を開けば全部台無し』と評される残念美人だ。
顔は本当に良い。でも中身はヤンチャ小僧。男勝りかつ活発で正義感と行動力を煮詰めて濃縮し詰め込んだような性格。突飛な行動の数々に家臣たちは日々悩まされていると聞く。
右目には百合の花が描かれた黒い眼帯。これも別に失明したわけでもなんでもなく、お洒落のつもりで付けているらしい。祖先に同様の眼帯を付けた『独眼竜』と称される王がおり、その肖像画を見て憧れたのだそうな。
ちなみに母親はイマリから嫁いだ女性でルドベキアの妹。つまり彼の姪でもある。
「タキアの子なら我が国としても大切にせねば! 大陸北方はみな友にございます! 伯父上、これはお会いするのがいっそう楽しみになってまいりましたな!」
「そうだなユリ。だが、声はもう少し落としなさい」
「あっ、失礼しました」
たははと笑って頭をかくユリ。じゃじゃ馬娘として有名な彼女も同じ七王で敬愛する伯父の言うことなら素直に聞く。
ちなみにミヤギは四百年前、キョウトに率いられた西部連合軍を同じ大陸北方の国々と手を組び撃退した。その時の王が独眼竜フジ。
彼の呼びかけで結束して以来、北方の国々は仲間意識が強い。ユリが喜んでいるのもそのためだ。同じ地方のよしみで神子に取り入り美味い汁を吸おうなどとは微塵も考えておるまい。
アイビーは内心で嘆く。先代ミヤギ王はこの世を去るのが早すぎたと。この娘の素直さと義侠心は買っているものの、正直者に過ぎる。こんなことで本当にこの先の苦難を乗り越えられるだろうか?
(まあ、ルドベキアがサポートしてやれば平気かしら。スズランたちもこの子のことは気に入るだろうし)
年齢が近いし裏表の無い性格なので信頼もされやすい。馬が合うのは確実。武人としての実力も申し分無し。
そして表裏が無いという意味では、彼も――
「+強いのか+?」
アイビーと目が合った途端、+その男+は粗野な物言いで問い質してきた。相手が神子でも全く遠慮が無い。
真っ赤な髪に赤みがかった金色の瞳。爛々と輝くその両目はいつでも狂気と戦意を帯びている。
カゴシマ王ミツマタ。戦闘狂だらけで有名な南の軍事大国カゴシマの中でも特に強く闘争を望む狂犬のような男。
実際にこの男は即位してからしばらくの間、手当たり次第に強国への攻撃を繰り返していた。
侵略ではない。カゴシマは元々肥沃な土地で、自分たちの領土以外になんら興味を示さないのである。ただ戦いたいから侵攻してくる、そういう迷惑な国。命をかけた闘争こそ彼らにとって最大の娯楽。
だが、ここしばらくはおとなしい。同じ南部の雄イマリが周辺諸国と手を組んで『鉄壁同盟』を結成したからだ。カゴシマは闘争こそ好むが負けるのは嫌う。挑むからには必ず勝つつもりでやる。だから今は同盟を崩す機会を窺っているともっぱらの噂。あのオトギリの暴走も彼らの行動を阻む抑止力になっていた。
雌伏の時が長く続いている分、欲求不満に違いない。当然新たな神子にも興味を示すと思っていた。
まあ、ある程度の情報なら与えてもいいだろう。冷静にありのままを伝えるアイビー。
「強いわよ。しかも二人とも幼く、まだまだ伸び代がある」
「ほうか。そいつぁ楽しみじゃ」
次の獲物を見つけた喜びからミツマタは獰猛な笑みを浮かべる。彼は本当に強者と戦うのが好きでたまらず、強ければ相手は神子でも誰でも構わない。アイビーも何度挑まれたことか。負けても全くへこたれないからなおいっそうたちが悪い。
「これが終わったら相手してあげる。だからあの子たちのことは放っておきなさい。まだ子供なのよ」
「わかっとるわかっとる、心配性じゃなアイビーさんは。俺《おい》もそこまで考え無しじゃなか。ワラシに無茶なことはせん」
「どうだか。貴方、いざとなったら本気で斬りかかるでしょう」
「そりゃあ本気でやってもいいとわかればの話じゃ」
手加減不要な相手なら文字通り殺す気で挑む。否定せず目をギラギラさせるミツマタ。戦闘に関する彼の勘は鋭い。アイビーの態度や言葉の端々から、新たな神子の実力は全力で挑むに値するものだと感じ取ったようだ。
面倒な上に危険な男。とはいえ、だからこそ頼もしい。アイビーにはこの男を遠ざけるつもりは無い。むしろ味方にしておかねば。
「まあ、当人たちが了承したら自由になさい。ただし正式に二人を世に出した後。それまでは手出し厳禁」
「承知。カカッ、楽しみが増えた」
「ほどほどにしろ」
釘を刺すルドベキア。スズランとモモハルに手を出せば、自分がまず黙っていないと目で語りかける。
その鋭い眼差しを受け、またしても察するミツマタ。
「ルドベキア、その神子らを知っとるな?」
「え? そうなんですか伯父上」
「ああ、余はすでに会っている。ロウバイの紹介でな」
元々彼は新たな神子二名の正式な神子認定を後押しする立場。知己であると否定する意味は無く素直に認めた。
するとハナズが眉をひそめる。
「ロウバイ殿? 彼女は今年の春に引退したと聞いたが」
「ええ、それも二人の神子のためです。今あやつはタキアでその子らの教育係を務めております」
「あら、そういうことだったのね」
ラベンダーも納得顔。イマリの大賢者ロウバイの突然の勇退には彼を含め誰もが驚かされていた。その真相が今ようやくわかったのだ。
「た、たしかにロウバイ様なら適任でしょうな」
と、卑屈な態度で追従したのは禿頭の老人。名はハナビシ、オサカの商業組合長。
王ではない。しかし商人たちが自治独立を勝ち取った都市国家オサカでは商業組合長こそ名目上の首長。だからこの場所にいる。
当人はいつも居心地が悪そうだ。あまりにも場違いだと、そう感じるのだろう。
――実のところ、オサカを七大国の一つに数えるのは間違いだとする意見も多い。同じ都市国家ならシブヤの方がよほど格が高いと。他にも匹敵する大国はいくつかある。
しかしオサカに隣接するキョウトがそれらの声を跳ね除けた。オサカは元はキョウトの一部で、独立を許したと言えどいまだに密接な関係を保っている。言ってみれば主と下僕。言いなりになるオサカが七大国の一つに数えられていれば、このような七王間の話し合いの場でキョウトの発言力を高められる。
キョウトもオサカも一票は一票。票の重みは同じものとして扱うのが原則。ゆえに実質二票を有するキョウトは優位に立ち回りやすい。
結局のところキョウトがオサカの独立を許したのはこのための布石で、アイビーもそれを知っている。だから彼女は自分の経営する会社の本社を置く街でありながら、その代表として選ばれたハナビシのことは信用も信頼もしていない。
(まあ、過半数はすでに握っている)
予想通りミツマタは新たな神子二人の『実力』に食いついた。今の彼の胸中は二人への期待に満ちているだろう。
ユリもルドベキアが認めれば認めるはず。ならば、この時点で自分を含めた四人が賛成票を入れる見込み。ハナズもおそらくこちらに付く。
読めないのはラベンダー。彼が反対票を投じればハナビシも高い確率で従う。それでも多数決で決める方向に話を持っていければ決着は付くものの、三柱教が七王全員の合意を求めてきた場合にはこじれる可能性が高い。
なにより、まだこちらは肝心な情報を二枚伏せている状態。これらを明かさず話を進めれば後に遺恨を残してしまう。
(ここからが本番ね)
気を引き締め直し、アイビーはコンコンと机を叩いた。その音に反応して振り返る六人。
彼女はいよいよ真相を明かす。まずは軽い方から。
「ロウバイを教育係にした理由はね、あの子が優秀な教師であるという以外にもう一つあるの。六人目も七人目も正しく育って欲しいのは同じだけれど、七人目には特に注意が必要」
「というと……?」
ユリに問われた彼女は一度深くため息をつき、たっぷりと間を置いてから告白した。
「七人目は捨て子で、今はタキアの若い夫婦に育てられている。けれど実母が誰かは明らかだわ。あの子は『最悪の魔女』ヒメツルの娘」
「えっ^!?^」
声を発したのはユリだけ。元々知っていたルドベキアは冷静でハナズとハナビシは表情から察するに言葉を失っている。
逆にミツマタは身を乗り出してきた。ますますもって七人目の神子に強い興味を抱いた証。
そしてラベンダーは――よくわからない。驚いているようにも、そう見せかけているだけにも見える。
「なんと……あの小娘に子供が」
キョウトはかつてヒメツルに大恥をかかされた。だからここに居並ぶ面々の中で最も大きな恨みを抱いているはず。
(どう出るかしら?)
ラベンダーのみならず、ルドベキアと自分以外全員が反対に転じてもおかしくない情報。けれどアイビーは畳み掛けるようにもう一枚の手札を切る。
「これも、皆に知ってもらわなければならない。たとえあの子が最悪の魔女の娘だとしても、私たちにはあの子に頼る以外、生き残る道は無いのだと」
◇
【続きは製品でお楽しみください】
【シリーズ既刊紹介】
最悪の魔女スズランシリーズ本編『part1三悪集いし小さな村』
最悪の魔女スズランシリーズ本編『 part2 夏の雪解け 秋への旅立ち』
最悪の魔女スズランシリーズ本編『part3 故郷を想いて歩む秋 三つの試練と再会の紅葉』
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最悪の魔女スズランシリーズ本編『Part6 崩壊告げる銀霧の災竜 天執断ち切る無口な剣』


