最悪の魔女スズランPart7 災果ての花 雲下の哀哭(下)

【書籍情報】

タイトル最悪の魔女スズランPart7 災果ての花 雲下の哀哭(上)
著者秋谷イル
イラスト秋谷イル
レーベルペリドット文庫
価格600円+税
あらすじスズランとモモハル、ついに世界デビュー。新たな神子がその姿を現す時、人々は大いなる奇跡を目の当たりにする。
時は来た。より強くなるべくシブヤに留学したスズランとモモハルは、ついに正式な神子と認められ人々の前に姿を現すことに。だが、その前に最後の試練として訪れた聖域で彼女たちは『全ての始まり』を知ることとなる。さらには敵か味方か勢揃いする七王たち。思いがけぬ訃報と別れ。そして人々の想像を超える奇跡の数々。今回も驚きと波乱に満ちた物語。けれどそれすら、この先の未来で待つ『決着』のための序曲でしかなく。
初の上下巻となったシリーズ七作目。まずは上巻をお楽しみあれ!

【本文立ち読み】

最悪の魔女スズランPart7 災果ての花 雲下の哀哭(下)
[著・イラスト]秋谷イル

― 目次 ―

十幕・真実と向き合う
十一幕・北限へ
十二幕・魔王ナデシコ
十三幕・やむなき虚構
十四幕・深度と深化
十五幕・悲願
十六幕・災悪の戦い
十七幕・友達
十八幕・鉛色の空の下で

前巻までのあらすじ

オトギリや赤い巨竜との戦いでまたも実力不足を痛感したスズランはモモハルと共に三柱教の総本山があるシブヤへ留学し親許を離れた状態で修行を開始する。
そんな彼女と彼、さらにロウバイ、ノコン、ナスベリを加えた五人はアイビーたち先達の神子三人に導かれ魔法使いの森の聖域に到着。最後の試練を受ける。
その試練とはアイビーが聖域に作り出した巨大魔素結晶を通じて創世の三柱の正体と世界創造の経緯を知り、なおも崩壊の呪いに立ち向かうことができるかを知るためのものだった。
スズランたちは全員合格するが、しかし祖先マリア・ウィンゲイトが神になった経緯を知ったことによりスズランの中に眠っていたマリアの残滓が目を覚ます。一時的に子孫の体を借りた彼女の口からはアイビーたちでさえ知らなかった事実が次々に語られた。
彼女たち始まりの七人の神『始原七柱』の間で意見が対立し、それによって始まった全ての世界を巻き込む大いなる戦い。創世の三柱の残り二柱の正体は全てを滅ぼし得る炎『滅火』の使い手。今なお世界が存続している以上、きっとあの戦争も続いたままだと彼女は言う。
思わぬ収穫まで得たスズランたちは聖域の住民たちに歓待され一夜の宴を共に楽しんだ後、帰路につく。
聖域での体験の余韻に浸り、未来への希望と決意も胸に抱くスズラン。ところがシブヤに戻った途端、予想外の訃報が飛び込んできた。それは大国キョウトの王ラベンダーの急逝と親友クルクマの死の報せ。
深い悲しみに陥りながらも、ついにモモハルと共に正式な神子として人々の前に姿を現す彼女。無気力に陥っていた教皇ムスカリもその姿を見て奮起し、四方の神々まで降臨した歴史に残るお披露目の式典は無事終了を迎える。
式典の後、新たなキョウト王ストレプトを加えた七王全員と対面するスズラン。彼らと協力し決戦に向けての準備を進めて行くことを誓った矢先、またしても事件が起こる。
その日の深夜、メイジ大聖堂内にて暗殺未遂事件が勃発。アイビーらトップクラスの魔法使い数名と戦ってなお七王ハナズとハナビシの暗殺を成功させかけた怪物は死んだはずの親友クルクマ。
正体を知り、知られてしまった彼女たちは一瞬の邂逅の後に再び別離する。
何故? どうして?
何もわからぬ状況に動揺し、衝撃を受け、スズランはその場から動くことができなくなった。

!PB

十幕・真実と向き合う

「申し訳ございません、止められませんでした」
スズランを監視していたロウバイが遅れて現場に駆け付け、追跡から戻ったばかりのアイビーに謝罪する。謝られたアイビーはため息混じりで頭を振った。
「しかたない。私も気付かれるとは思ってなかった」
建物を覆っていた結界に加え、スズランたち親子の寝ている寝室にはさらに外界の物音を遮断する仕掛けを施しておいた。魔法でなく錬金術によるものなのでスズランの感知能力にも引っかからなかったはずだし、モモハルにだって無効化することはできない。
加えてロウバイによる監視。これだけの保険をかけておいてなお外の戦闘に気付いたということは、おそらく――
「アルトラインの仕業でしょう」
「アルトライン様の?」
「彼とはあることで意見が対立していてね。ひょっとしたらクルクマのことも支援しているかもしれない」
「それは……」
神と神子の間の事情を知らぬロウバイには、どちらが正しいのか判断しかねる。
ただし、仮にそうだとすると疑問が一つ。
「何故スズランさんに彼女の正体を教えたのです?」
アルトラインがクルクマの味方だとした場合、あれは悪手にしか思えない。クルクマとスズラン、両者の心に深刻なダメージを与える。
そもそも神が七王暗殺を支援するだろうか? 人間の考えなど及ばぬ深謀遠慮があったとしても、神々がそのような作為を持つとは考えたくない。
「さあね……」
アイビーはつまらなそうに返して、それから居心地悪そうに萎縮したままのクチナシを睨む。
「わからないと言えば貴女もよ。どうして仕留めなかったの?」
問い詰められた彼女は手話で回答。
『殺すのはちょっと……』
「わかってる。だとしても戦力になるから呼んだの。貴女なら殺さずに無力化することもできたでしょ」
さっきの遠隔斬撃は衝撃を当てるだけの+峰打ち+。おかげでクルクマは逃げおおせた。ナスベリたちに捜索を命じてあるものの、あの怪物相手では取り逃がすかもしれない。
「まったく……頭の痛い話だわ」
不甲斐ないのは自分もである。足を怪我した相手に時間遅延まで使用したのに追いつけなかった。スズランの登場に動揺し攻撃の手を止めてしまったことも痛恨の極み。
怒るアイビーを見てクチナシはますます小さくなる。
『すみません……』
一方、ロウバイは微かな違和感を抱く。
師は目的を果たすためなら冷徹になれる人だ。必要であれば命を奪うことも躊躇するまい。
だとしても、いや、だからこそクルクマに対する反応は過敏に思えた。普段の冷静さを失いかけているように見える。たしかにクルクマは危険な存在で七王まで狙った以上放置できない。けれど歩み寄る余地はあるはず。
少なくともクルクマ自身は今なおスズランのためをと思って行動しているだろう。なのに説得や捕縛を選択肢に入れる素振りは無し。
(まるで怯えているような……)
考えすぎかもしれないが、そう感じる。クルクマはもしかすると七王だけでなく、アイビー個人にとって大切な何かを脅かそうとしているのではないか。
ロウバイは探りを入れる。
「クルクマさんの目的は、七王暗殺だけでしょうか?」
彼女の犯行動機。それについてアイビーに問えば隠された事情を知る糸口くらいは掴めるかもしれない。
そう期待したが、やはりアイビーは甘くなかった。らしき情報は一片も漏らさず回答する。
「七王暗殺は目的でなく手段に過ぎない。説明したでしょう、奴はヒメツルの狂信者なの。ヒメツルとその娘スズランを害する可能性がある者は徹底的に排除しようとしているだけ。他にもまだそんな馬鹿がいるとするなら、たしかに標的になるかもしれないわね」
「でしたね……」
クルクマにとってスズランは親友《ヒメツル》の実子であり愛弟子。しかも救世の神子。大切に思うあまりこの母子に対し崇拝に近い感情を抱き、今回の凶行に及んだのだと聞いている。
気持ちは理解できなくもない。ヒメツルとの面識は無いが、スズランにはたしかに人を強く惹きつける稀有な魅力がある。神子という神聖な存在なのも事実。害しようとする者に敵意を抱く方が自然とすら言える。我が子のように可愛がるほど傾倒していればなおさら。
仮にカタバミがラベンダーの企てを知ったとすると、クルクマ同様に激しい怒りを示しただろう。
カタバミとクルクマの違いは、スズランの敵を攻撃して排除する力があるか否か。そしてその攻撃により相手の命まで奪う意志があるか否かのみ。
そこまで考察し、ロウバイは確信する。やはり師は事情を隠しているようだと。
(人は庇護の対象を脅かされた時ほど攻撃的になるもの。アイビー様のこの反応も誰かを守りたい気持ちの表れ)
それはいったい誰か? スズラン、あるいは――答え次第では自分も全力でクルクマの排除に手を貸す。そしてその逆にアイビーを敵に回すこともありえなくはない。考えにくいことではあるが間違っているのは師の方という可能性も考慮すべき。
いずれにせよ事情を確認しておきたい。そう考えた彼女は再び質問を投げかけようとする。
「アイビー様」
「船を用意なさい」
こちらの言葉を遮り、そう指示を出す彼女。端的過ぎて意味がわからなかったが、すぐに理由も語られた。
「貴女の船で行きたいところがある。目的地に着いたら話してあげるわ、+私が誰を守っているのか+」
「……はい」
やはり師の方が一枚も二枚も上手。探りを入れたことを見抜かれ素直に頭を下げるロウバイ。話してくれると言うのであれば、その時が来るまで待とう。ここで食い下がっても逆に口を閉ざされかねない。それに、できれば彼女を信じていたい。
師弟の会話が途切れたところへ今度はクチナシが質問。
『あの人、また来ますかね?』
「おそらく来ない」
即答するアイビー。ロウバイもその推論を支持する。
「スズランさんに正体を知られたことで、彼女も激しく動揺しています。少なくともこれまで以上に慎重にはなるでしょう」
それに勘の良いクルクマなら待ち伏せを食らった時点で今回の仕掛けに気付いたはず。
「ハナズ様が潔白であることにも勘付いたでしょう。誤情報を流した時と同じ方法で真実を伝えれば狙われる理由は無くなります」
ストレプトのようにラベンダーの近くに身を置いていた者でも、計画に荷担していなかった、あるいは直接関与していなかった者たちは暗殺の対象になっていない。クルクマにも最低限の分別はあるようだ。
「もちろん、念のために大聖堂でしばらく保護しますが」
相手の手口を把握した以上、次は簡単に侵入させない。アカンサスとシクラメンも引き続き協力してくれるはず。
『ハナビシさんは?』
「あの方は引き続き狙われるかもしれません。しかし、やはり可能性は低いでしょう」
「言っては悪いけど、あの子は小者よ。単体では囮として弱い。だからハナズに協力してもらったの」
オサカの商業組合長という立場はラベンダーの計画を引き継ぐこともできなくはないが、しかし困難という微妙なポジション。ハナズの潔白を知った時点でハナビシもおそらく抹殺対象から外れる。
もちろん彼も当面は三柱教の保護下。というより、これからしばらく監視される立場が続く。
「高齢だから収監するかどうかは未定。でも、少なくとも司法の裁きは受けてもらう。そうしたらいよいよ手を出す意味は無い」
反三柱教組織の人間や七王は法で裁くことが難しい。だからクルクマ自ら手を下してきた。
ゆえに、きちんと罰を受けることが確定したなら不要な危険を冒してまで狙いはしまい。そうするメリットが無くなるのだから。
『メリット……』
「なに?」
『今回のことも、ここまでする意味はあったんでしょうか?』
「そうね……」
頷くアイビー。クチナシの言いたいこともわかる。クルクマにとってあの二人の命は罠の可能性が高い場所に飛び込んでまで狙うほど価値があったのかと。
実際のところそこまでの価値は無かっただろう。自ら手を下さずとも掴んだ情報をこちらへ流せば済む話。ハナズが本当に黒だったら処罰はこちらで行っていた。
ラベンダーだってクルクマが殺さずとも良かった。アイビーとて彼の計画は掴んでいたのである。ただ彼は七王の一人で、どのような方法で対処しても社会への影響が大きく、最もダメージが小さくなる選択肢とタイミングを見極める必要があった。
――そう、だからアイビーにとっても今夜クルクマがやって来るかは賭けだった。少し考えればわかる。あからさまな罠だと。
それでも彼女はやって来た。
「結局のところ未練たらたらなのよ」
『スズちゃんへの?』
「そう。ひょっとしたらモモハルやあの子たちの家族にも会いたかったのかもしれない。式典に潜り込んだ本当の理由はそっちでしょう」
クルクマは自ら彼女たちの元を去ったが、それはスズランたちを大切に思うがゆえの行動。アイビーはそう見ている。
ついに罪の意識に耐えられなくなった結果だ。愛する人々を欺き続け、人殺しの身で寄り添うことの罪悪感に押し潰された。
「つまるところ、ハナズとハナビシは式典を見るついでで殺されかけたわけ」
『ついでって……』
そんなことで人を殺せるものかと顔をしめかるクチナシ。彼女はまだ若い。そのような人間を見るのは初めてなのかもしれない。
だが、いる。買い物に出たついで。知り合いを訪ねたついで。夕食を作るついで。そんな理由で人を殺せる者たちは実際に存在する。
クルクマの師ゲッケイのように倫理観や共感能力の欠如した化け物は、どの時代にだって必ず一人はいた。千年前にもゲッケイ以上に悍ましい怪物が存在したとアイビーは直接見て知っている。
クルクマの場合、不幸なことに彼らほど異常ではない。なのに殺せてしまうから余計にタチが悪い。周囲を欺くにはそちらの方が都合が良いのだから。
「これまではヒメツルやスズラン、崇拝の対象にした少女たちへの信仰を言い訳にしてきた。でもついに罪悪感に耐えきれなくなり、信仰対象にまで正体を知られた。立ち直れるかも怪しいわ」
さっきのクチナシの質問に戻る。答えは、おそらく来ない。スズランにまで素顔を知られてしまったクルクマは、少なくとも彼女の目が届く範囲へは二度と姿を現さない。
――かもしれない。無論ただの推測。外れる可能性もある。
アイビーとしては外れてほしくないが、怪物相手に希望的観測は危険だと長い人生で学んできた。常に最悪の事態を想定しなくては。
「警戒は続けてもらう。クチナシ、取り逃した罰。もうしばらくここに留まりハナズとハナビシを守りなさい」
『アイビー様は?』
「行く場所がある。スズランとモモハル、ナスベリとロウバイも連れて行くわ。何かあったらアカンサスかシクラメンを頼りなさい。ムスカリにも同じことを言っておく」
『わかりました』
それ以上の追求はせず頷くクチナシ。彼女は今回の戦いでクルクマの+クセ+を学習した。この天才なら次はおそらく単独で勝てる。そこに周囲の協力もあれば大聖堂の守りは万全。
「ですが、アイビー様」
「ええ、少しばかり時間が必要ね」
見上げるロウバイとアイビー。クチナシもその視線を追う。
空中にはまだスズランが無言のまま留まっていた。クルクマが去った方向を見つめ、静かに考え込んでいるように見える。
「あの子のために、出発は五日後とする」

【続きは製品でお楽しみください】

 

【シリーズ既刊紹介】

最悪の魔女スズランシリーズ本編『part1三悪集いし小さな村』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『 part2 夏の雪解け 秋への旅立ち』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『part3 故郷を想いて歩む秋 三つの試練と再会の紅葉』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『Part4 冬の始点 孤独の終点 』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『part5 彼女の行く先 春舞う花道』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『Part6 崩壊告げる銀霧の災竜 天執断ち切る無口な剣』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『Part7 災果ての花 雲下の哀哭(上)』

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