うちのパグさん ~主にパグの日常~

【書籍情報】

タイトルうちのパグさん ~主にパグの日常~
著者横尾湖衣
イラスト猫田苺
レーベルアプリーレ文庫
価格200円
あらすじ犬のいる生活、犬との生活は、癒やされたり発見があったり面白い。
その犬の中で、ぶさかわと評判のパグ。
パグ犬ヨシノブとその主である菊岡花菜の、ちょっとコミカルでのほほんとした何でもない日常――。

【本文立ち読み】

うちのパグさん ~主にパグの日常~
[著]横尾湖衣
[イラスト]猫田苺

目 次

●目次
一、自己紹介
二、朝の寝起きの一場面
三、巡回警備という名の宝探し
四、昼間は居留守を決め込む
五、お散歩でおねだり
六、夜のひと時とお任せモード

 

二、朝の寝起きの一場面

今日は月曜日。いつもと同じように、目覚まし時計よりも早くパグ時計が動いた。いわゆる腹時計というやつ。
「うーん、もう。ヨシノブ、やめて。くすぐったいよ」
この家の主、世帯主である菊岡花菜《きくおかはな》は愛犬ヨシノブのベロベロ攻撃で起こされる。ペロペロとなめて起こしてくれるのなら可愛いが、ヨシノブの場合はベロベロである。
しかも、手とかじゃなくて耳だ。鼻息も吹きかかかる。でも眠いし、起きるにはまだ早い。夜明け前だ。花菜は掛け布団を引き寄せ、横を向いた。「もう少し寝かせてね」と無視する。

花菜は無視してもう少し寝たかった。が、なかなか起きないとみたヨシノブが、花菜の長い髪の毛の上に石地蔵のような重さで座った。
「い、痛い。ヨシノブ、どいて。わかった。わかった、もう起きるから」
そう花菜が言うと、ヨシノブが満足そうにベッドの上からピョンと飛び降りた。これでまた寝ようとすると、ヨシノブがベッドの上に飛び乗ってくる。しかも、お腹の方を目がけて。花菜はヨシノブ・アタックを受けないうちに、起き上がった。
「ヨシノブ、おはよう」
花菜はゆっくりベッドから立ち上がった。部屋の入り口のドアで、ヨシノブが花菜の方を向いて待っていた。

花菜がドアの方に歩き、ドアを開けると、ヨシノブがクルッと向きを変えた。
「あー、ヨシノブ。もう階段の入り口まで、セルフで歩いて行ってよ」
そう花菜が言うと、ヨシノブは「やだ! ぼくを持たせてあげるんでしゅよ」というふうに、花菜の足に背中を預けてきた。
「ダメだこりゃ。持ち上げろっていうこと?」
花菜がヨシノブの脇の下に両手を差し込むと、ヨシノブは持ち上げやすいように体勢を整えた。
「ヨイショ」
かけ声をかけて、花菜は愛犬を持ち上げた。持ち上げるとき、ヨシノブは後ろ足をバネする。だから、持ち上げるときは一瞬楽になる。
しかし、たまに勢い余って花菜のあごに頭付きしてしまうこともある。だから、花菜は手を遠くに伸ばして上に持ち上げてから、体の方に引き寄せることにしていた。

ヨシノブの頭はかなりの石頭だ。この頭で、勢い余って窓ガラスを割ったことがあるほど。さすがにガラスを割ったことは学習したのか、窓ガラスを割るほどのアタックはなくなった。それでもたまに郵便屋さんなどを見ると、すごい勢いで窓の方へ走り出して吠える。
窓ガラスは透明なので、ヨシノブの目にはわかりにくいのかな? 吠えるのに必死になって、鼻スタンプがいくつも窓ガラスに押されている。お蔭で週末はいつも窓拭きだ。
そんなことを思い浮かべながら、花菜はヨシノブを抱きかかえながら階段を下りていった。
階段を下りると、ヨシノブがバックキックをして飛び降りるので、花菜は階段を下りきる前にヨシノブを遠ざける。
ヨシノブの脚力、これもまたすごい。六人掛けのダイニングテーブルを動かすほどの力がある。こんな脚力のバックキックをお腹に入れられたら、しばらく動けなくなる。
「この犬、凶暴につき……、取扱注意!」という、ラベルが欲しい。というより、首からぶら下げておこうかな?
そういうことを思いながら、花菜がヨシノブを降ろそうとすると、ヨシノブの方からつるんと飛び降りていった。体操選手のように上手に着地をする。そして、何事もなかったかのように、スタスタと足早にキッチンに向かって行った。

* * *

朝が来た。ねぇねぇは、いちゅもお寝坊しゃん。だから、ぼくがちっかりちないと。
「ねぇねぇ、朝でしゅよ!」
ぼくはねぇねぇの首筋に鼻息をかけた。
「起きない。じゃあ、これはどうでしゅか」
今度は顔をなめてみる。あまり反応がない。だったら、こっちの方がいいかなぁと、ぼくはねぇねぇの耳をなめた。ついでに、鼻息も吹きかけてやる。
「起きろ! 起きろ!」
力一杯なめる。力を入れてなめるので、鼻息も荒くなっちゃう。ねぇねぇが、動いた。もう少ち、でしゅね。
「うーん、もう。ヨシノブ、やめて。くすぐったいよ」
「えっ? 横を向くでしゅか!」
だったら、とっておきのお地蔵しゃん攻撃だ!

 

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