最悪の魔女スズランPart4 冬の始点 孤独の終点

【書籍情報】

タイトル最悪の魔女スズランPart4 冬の始点 孤独の終点
著者秋谷イル
イラスト
レーベルペリドット文庫
価格600円+税
あらすじ スズランとモモハルの修行も一区切りついたココノ村。ある日、村の周辺の森に一人の少女が降り立った。彼女の名前はクルクマ。パッと見は、新米行商人だが、彼女の正体は――『災呈の魔女』。彼女とスズランの友情、ゲッケイの弟子になった経緯が徐々に明かされる。『最悪の魔女スズラン』シリーズ本編第四幕、開幕!

【本文立ち読み】

最悪の魔女スズランPart4 冬の始点 孤独の終点
[著・イラスト]秋谷イル

― 目次 ―

― 目次 ―

開幕・寄り道
一幕・冬の始点
二幕・凍える季節
三幕・野心の芽生え
四幕・卑小の女王
五幕・奇襲攻撃
六幕・秘密兵器
七幕・羽ばたく傀儡
八幕・外道の入口
九幕・奈落の底へ
十幕・太陽との出会い
十一幕・鮮やかな世界
十二幕・大きな木のおうち
十三幕・黄金時代の
十四幕・最果ての花
十五幕・流星の傷痕
閉幕・結末への一歩

世界観・キャラ紹介

開幕・寄り道

丸い眼鏡をかけ長い赤毛を四本のお下げにした、見た目の年齢は十五歳前後のそばかす顔の少女。チェック柄のシャツにオーバーオールを重ね着しており、今はさらにコートとマフラー、そして手袋を着用。
背中に背負ったザックの中身は主に着替え。斜めがけした肩掛けカバンには軟膏や数種類の薬草といった《《商品》》を収納。財布など肌身離さず持っておきたい小物は腰のポーチに仕舞い、ベルトには護身用のナイフを鞘ごと二本固定してある。
いかにも年若い新米行商人という出で立ちだが、その正体は災《さい》呈《てい》の魔女と呼ばれる伝説的な暗殺者だ。師ゲッケイや親友ヒメツルと並び悪の三大魔女の一角に数えられている怪物。
そんな彼女、クルクマという名の魔女は空飛ぶホウキでの長距離移動中、今回の旅の目的地である大陸北端の岬を訪ねる前にココノ村の近くの森へ降り立った。
季節は初冬。東北地方のこのあたりではすでにホウキも飛び辛くなっている。この掃除用具の姿の半精霊生物は寒さに弱く、寒冷地帯では本領を発揮できない。
魔法で温めながら飛ぶことも可能ではあるものの、彼女の魔力でそれを行うと徒歩での移動と変わらない速度になってしまう。魔力の出力限界値には個人差があり、複数の術を同時に使えば当然一つ一つに割ける魔力は少なくなるからだ。
ヒメツルのような強大な魔力の持ち主なら全く気にする必要の無い問題。実際、彼女はどんなに寒い場所でも平然とホウキを乗りこなせる。
しかしクルクマの魔力は弱い。平均的な魔法使い以下。おかげで昔から多くの者たちに馬鹿にされてきた。家族でさえ――
いや、そんなことはどうでもいい。昔を思い出し、暗くなりかけた気分を切り替える彼女。ここでホウキから降りたのは飛行限界が来たからでも感傷に浸るためでもない。
「ほら、行きな」
そう言ってホウキの柄に吊り下げ運んできた虫かごを開ける。中からは数十匹の昆虫が飛び出し、彼女の『生物を操る術』によって導かれ四方へ散っていった。
あらかじめ彼らのための巣穴を作っておいたので、何割かは生き延びてこの地で繁殖してくれるだろう。
これでよし。後はここへ来るたびにバランス調整を行うだけ。彼女は師ゲッケイと戦って以来、定期的に同様の処置を実施している。
ココノ村周辺の自然環境を守るためだ。あの戦いで大量の虫を師と戦うための駒として操り、使い潰してしまったので、代わりの虫たちを運んできて穴埋めしたのである。でないと生態系が狂って深刻な事態に陥るかもしれない。村の主要産業である農業にも影響が及ぶだろう。
――ひいてはヒメツルを、今はスズランとして第二の人生を歩んでいる親友を悲しませてしまう。それだけは絶対に避けたい。
(まあ、まだ安心はできないけどね。春になったら様子を見に来て、元の状態に戻れるよう調整しなきゃ)
虫や動物を操れば容易い。以前にはココノ村の茶畑で大量発生した蛾の幼虫を駆除したこともある。この技は農業にだって大いに役立つのだ。
「……」
むしろ、そんなことにだけ使っていれば良かった。
どうして自分は、あの時――
「!」
再び過去を振り返るクルクマだったが、近付いて来る足音を聞き取ると反射的に木の陰へ隠れてしまった。
しかもその際、小枝を踏んで音を立てる。
(馬鹿っ^!!^)
別に隠れなくても良かった。これでは余計怪しまれる。
「ん?」
同じように枝や枯れ葉を踏んで近付いて来た老人が物音に気が付き顔を上げる。ココノ村のクロマツだ。スズランの家の隣で暮らす好々爺。彼がここにいることには何の不思議も無い。山菜でも採りに来たのだろう。
クロマツは警戒しつつ音の発生源、クルクマのいる場所を睨む。
「誰かおるんか?」
こんなところで出くわすとしたら獣か同じ村の住人。もしくは後ろ暗い事情のある者だけ。そう思ったのだろう。
クルクマは少し迷ってから正直に名乗り出ることにした。木陰から出て、なるべく自然に見えるよう愛想笑いを浮かべる。
「すいません。驚かせてしまいましたか」
「ありゃ、 クルクマさん?」
驚きはしたものの、顔を見るなり警戒を解くクロマツ。数年かけて築き上げた信頼関係の賜物である。
とはいえ、ここからの展開次第ではその信頼も損なわれる。クルクマは相手からさらに問われる前に自ら釈明を始めた。
「実は、こっそり調査してまして……」
「調査?」
「ほら、蜘蛛の化け物と戦った時、私の雇った助っ人がここらの虫を武器にしてかなり死なせてしまったじゃないですか。あれのせいで環境に悪い影響が出てないかと気になってしまって」
「ああ、なるほど」
素朴な村の老人はあっさりこの言い訳を信じてくれた。まあ本当のことを言っているので、疑り深くともここで気付かれることはまず無い。
上手に嘘をつくコツは真実を織り交ぜること。そして気付かれたくない部分のみ注意を逸らし、気付かせないこと。疑う余地すら無く、そもそも疑惑を抱かせない。この二つを実行できれば大抵の人間は騙せる。
「それでまあ、時々こっそり様子を見に来ていたんです」
「ありがたいことです」
素直に感謝してくれるクロマツ。こちらとしては罪悪感で少しばかり胸が痛む。もちろん顔には出さないけれど。
「ふむ……虫か……」
彼はアゴに手を当て、ふむと目線を上げて考え込んだ。自分なりの見解を述べてくれるらしい。
「そう心配されずとも、大丈夫じゃないですかの? たしかに一時は虫を全く見かけなくなりましたが、秋口あたりからはいつも通りになっていたように思います」
「おお、そうですか。なら夏の間に繁殖して増えたんですね」
「でしょうな。虫っちゅうのは逞しいもんです。ちょっとやそっとのことでいなくなったりしませんよ」
「それを聞いて安心しました」
実際には自分が別の地域から連れて来た虫を放したからなのだが、もちろん秘密にしておく。虫を操ったと知られれば、そのままあの時の+助っ人+の正体まで露見してしまう。そうなることだけは絶対に避けたい。
「では、私はそろそろ」
ボロを出さないうちに立ち去ろう。そう思って暇を告げると予想通りに引き留められた。
「そう言わず村にも寄っていってください。皆、クルクマさんが来るのを楽しみにしとります」
「はは、私としてもそうしたいんですけど……」
想定済みの反応なので、あらかじめ考えておいた回答を返す。
「実は、これからホッカイまで行かないといけなくて。大事な商談なので早目に到着しておきませんと」
スズランには会いたいが、今はしょうがないという雰囲気も醸し出す。
実際には、そうでもないのだけれど。
「なるほど、用事がおありでしたか。いや、クルクマさんなら当然ですな。大陸中を回って商いをしておられるわけだし」
「そうなんですよ、なかなか暇が無くて……」
「ううむ」
残念そうなクロマツ。村の老人たちの中でも、彼には特に気に入られているような気がする。
直後、クロマツは背中のカゴからキノコを三本鷲掴みにして差し出してきた。なんのキノコかわかったクルクマはギョッと目を見開く。
「ならせめて、これを持って行ってくだされ」
「いやいや、いただけません」
よりにもよってカニタケではないか。タキア王国南部のこの地域でしか採れない貴重なキノコだ。滅多に市場に出回らない珍味として結構な高値で取引されている。彼にとっては貴重な収入源だろう。
なのにクロマツは頑として譲らない。
いや、頑として《《譲ろうと》》する。
「いいから。ワシらはアンタに大変世話になっとる。このくらい当たり前の礼です」
「そうですか……?」
困った。あまり強く突っぱねても相手の顔を潰してしまう。
結局彼女は三本とも受け取った。聞けばクロマツは毎年数本だけ手元に残しておき乾燥させて汁物のダシに使ったりしているらしい。この三本はそのための分なので誰も困らないという。
「ありがとうございます。美味しくいただきます」
「できれば干してから使ってくだされ。焼いても蒸しても美味いが、乾燥させるとさらに味わい深くなる。干したのを戻して茶碗蒸しに入れるのも絶品ですぞ」
「わかりました。では、また今度。お返しも持ってきますね」
「おお、楽しみにしとります」
ここらじゃ手に入れにくい海産物でも贈ろうかな――そんなことを考えつつ再びホウキに乗って飛び立つクルクマ。空中は地上より格段に冷えているが、もう少し北までなら辛うじて飛べるだろう。
下を見ると、クロマツが手を振りながら見送ってくれていた。

しばらくするとホウキの調子が目に見えて悪くなった。ここいらが限界だと見極めて地面に降りる。
左右を針葉樹の森に挟まれた一本道が、ずっと北に向かって続いている。アオモリの外れを通る街道。徒歩なら目的地まで一週間かかる位置。途中の街で馬車に乗れば三日まで短縮できる。
「ごくろうさま」
ちゃんと労ってからホウキを異空間へ帰す。空飛ぶホウキは言葉も理解できる高度な知性と自我を持つ生物なので、ぞんざいな扱いをしていると見限られてしまう。さすがにスズランのように名前を付けて可愛がるほど強い愛着は抱いていないが、感謝の気持ちは忘れないようにしたい。
ちなみにスズランのホウキは『ホッキーナ』という名前だそうな。
(そういえば……あのホウキってちょっと特殊なんだよな)
ホッキーナ、元は別の魔法使いと契約していたらしい。詳しい経緯こそ教えてもらえなかったものの、かつて|スズラン《ヒメツル》はたしかに『力ずくでぶんどってものにした』と言っていた。
本来、空飛ぶホウキは契約した主以外の何者の命令にも従わない。契約を破棄するにしても自らの意志によるもので、他者が強制解除することは不可能。
なのにホッキーナはスズランを新たな主として受け入れ、命令に忠実に従っている。
彼女の魅力にはホウキでさえ抗えない。そういうことではないかとクルクマは解釈した。自分のホウキだってスズランさえ望めばあっさり鞍替えするだろう。
ちょっと悔しいが、もしそうなったとしても彼女は怒らない。誰だって自分とスズランを天秤にかけられたらスズランを選ぶ。彼女自身も絶対にそうする。
ああ、まただ。また昔の記憶が蘇って来る。一人でいると、どうしてもあの頃を思い出してしまう。
「まあ、いいか……」
どうせしばらくは一人旅。たまには嫌な記憶を掘り返して陰鬱な過去に浸るのも良い。
(アンタだって、あーしの一部だしね……アカネ)
クルクマはかつて、そんな名前の少女だった。
アカネ。それが彼女の本名で本来の立場。大陸南部にあった小国の有力貴族の娘。つまり御令嬢。
なのに、その立場にあることを幸せと思ったことは一度も無い。
そして、ただの一度も生まれに感謝できずにいるうちに、さらなる苦境へ突き落とされた。
それが彼女の始まり。災呈の魔女ホオズキが生まれ、クルクマと改名し、ヒメツルと出会って暖かな春が訪れるまでの長い冬の最初の記憶。

【続きは製品でお楽しみください】

【シリーズ既刊紹介】

最悪の魔女スズランシリーズ本編『part1三悪集いし小さな村』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『 part2 夏の雪解け 秋への旅立ち』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『part3 故郷を想いて歩む秋 三つの試練と再会の紅葉』

 

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