最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part5

【書籍情報】

タイトル最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part5
著者秋谷イル
イラスト秋谷イル
レーベルペリドット文庫
価格200円+税
あらすじモモハルとノイチゴの祖父母、ついに帰還。父方母方どちらも曲者揃いの彼等は通称ココノ村四天王。齢六十を数えたとは思えないパワフルな老人たちにスズランでさえたじたじに。天才料理人サルトリの息子サザンカは今度こそ父に勝利し、親たちの旅立ちを止められるのか?
さらにココノ村にはもう一人、年齢を感じさせない老人がいた。その名はツゲ。鍛冶屋のツゲさん。ふとしたことからスズランと交流を持つようになった彼は将来のことを考え、彼女に重大な秘密を明かす。そこには意外な出会いも待ち受けていて――
例によってぐ~たらの神子シクラメンのエピソードも収録。本編に続いてこちらも折り返しか、それとも本編より長く続いてしまうのか。こっちの予定は全く決めてない息抜きのために書かれた思いつき短編集第五弾、よろしくお願いします!

【本文立ち読み】

最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part4
[著・イラスト]秋谷イル

-目次-

前回までのあらすじ
第一話・ココノ村四天王
第二話・すごい祖父母
第三話・料理対決
第四話・鍛冶屋のツゲさん
第五話・地下遺跡の秘密
第六話・おかえりなさいませ
第七話・ぐ~たらの神子、助言す

 

第一話・ココノ村四天王

それはスズランとモモハルが八歳になる年の春――つまり才害の魔女ゲッケイとの戦いが起こる夏の少し前の出来事だった。
「げっ!?」
宿の一階にある食堂。客のいない時間帯を見計らい休憩していた銀髪灰眼の大男こと宿の主人サザンカは、さっき届いたばかりの手紙を見て驚く。金髪碧眼の美女で彼の妻のレンゲは眉をひそめつつ振り返った。
「なによ急に大声出して」
「お、オヤジたちが帰って来る!」
「え? ほんと?」
近付いて手紙を覗き込むレンゲ。なるほど、近いうち久しぶりに戻ると書かれてある。
「いいことじゃない」
「そりゃそうだが……クソッ、まだ準備できてねえのに」
左手でゴンゴン自分の額を叩き、悔しげに呻くサザンカ。なるほどとレンゲは納得した。
「勝てそうにないわけね」
「いや、勝つ。今度こそオヤジをギャフンと言わせてやる」
サザンカは闘志を燃やし、自身を奮い立たせた。レンゲは気付かれぬよう軽く嘆息する。
(空回りしないといいけど。お義父さん相手だと、いつもムキになるんだから)

ココノ村には+最強の四人組+が存在する。いわば四天王。村長も最長老のウメでさえも彼らには敵わない。
そしてその四人とは、サザンカとレンゲ、二人のそれぞれの両親なのである。つまりはモモハルとノイチゴの祖父母。
サザンカの父サルトリは天才料理人。頭こそ禿げてしまったが長身でスマートな体型。顔立ちもハンサム。若い頃は、それはそれはおモテになったそうな。
性格も見た目に反して小心者の息子サザンカとは正反対。優男でありながら豪快で向こう見ず。村から出て行く者などまだ少なかった時期に親の反対を振り切って飛び出しチョウカイの街の名店で修行。持ち前のセンスと料理に対する情熱であっという間にその店の主人すら追い越し
料理長の座に就任。
ところが、そんな成功を収めながらも満足できず。当時まだ領主の座を継いだばかりの若きホウキギ子爵を新作料理『カウレ』の魅力で虜にすると開店資金を出資させ故郷に凱旋。宿屋兼食堂の『ケンエン亭』を開いた。
故郷に錦を飾った彼は反対した家族やどうせ上手くいかないと馬鹿にした連中を宿の二階から見下ろし、ドヤ顔で言ったそうな。
『どうだ、一国一城の主になったぞ!』

サザンカの母イヌタデはサルトリの幼馴染。狭い村なので同世代なら全員幼馴染だが、この二人の関係は他とちょっぴり異なっていた。名に犬と猿が入るからでもないと思うが、とにかく仲が悪かったのである。
『やかましい! この気取り屋の猿ヤロウ!』
『キャンキャン吠えてうるせえのは手前だろうが犬っころ!』
文字通り犬猿の仲。顔を合わせれば必ず口論が始まり、男と女でありながら時には殴り合いに発展することも珍しくない。
もちろんサルトリは手加減したが、イヌタデは常に本気なので彼には生傷が絶えなかった。
けれども実のところサルトリにとって、打てば響く性格の彼女は理想の女性だった。
――というのは本人も街に出て幾人もの女性と交際した末に気付いた事実なのだが、とにかくそこからの行動は早かった。
彼が名店の料理長の地位を捨てて戻って来たのは、実はこの翠髪翠眼で背の低い勝ち気な幼馴染を手に入れるためだった。子爵に出資させて宿屋を建てている間、彼はしつこくイヌタデを口説き続けた。その度にやはりケンカになったが絶対に諦めなかった。自分のような男について来られるのは彼女だけだと思っていた。
で、口説かれているうちにイヌタデもその気になってきた。あるいは元から憎からず思っていたのかもしれない。本人はそこのところずっと誤魔化し続けているため定かでないが、とにかく彼女はイヌタデの求愛を受け入れて宿が完成する直前に婚約した。宿の名が『ケンエン亭』になったのは、この二人が結ばれた証である。
かつて犬猿の仲で衝突してばかりだった彼と彼女は、今ではおしどり夫婦として知られている。

手紙が届いてから数日後、サルトリとイヌタデが戻って来た。食堂の裏口を開けて連れ立って入って来る。
「よう、戻ったぞ」
「来たなオヤジ」
眼光鋭く睨みつけるサザンカ。しかし母イヌタデが小さな体で大きなカバンを背負っていることに気付くと慌てて駆け寄って行く。
「オフクロ、こんなんオヤジに持たせろよ」
と、代わりに荷物を持ってやると母は呆れ顔で息子の顔を見上げた。
「まずは『おかえり』だろ」
「あ、ああ、ごめん。おかえり」
父に対して反抗的なサザンカも、この母親には頭が上がらない。気の強さは若い頃から全く変わっていないのだ。
「おい、俺も大荷物を持ってんだぞ」
重そうなリュックを「よっこらせ」と床に下ろすサルトリ。サザンカはフンと鼻を鳴らす。
「なに言ってやがんだ、客でもない男に親切にする必要は無えってのがアンタの教えだろ」
「そうだっけか? なら付け足しとこう、親父様は別。息子ならしかと孝行しやがれ」
「うるせえや」
言い返しつつも不承不承の体で父のカバンも拾い上げ邪魔にならない場所まで移動させるサザンカ。サルトリは笑った。
「図体のでけえ息子がいると便利だ」
「そういう言い方はおよし。だからケンカになるんだよ」
ペシッと尻を叩いて叱るイヌタデ。そんな二人のためにレンゲは水で湿らせた手拭いを持ってきた。手渡しつつ訊ねる。
「あの、うちの父さんと母さんは?」
「そっちにいるじゃないか」
目で店内の一角を示すイヌタデ。レンゲはまたかと眉根を寄せて振り返る。
視線の先では本当に両親が座ってくつろいでいた。
「レンゲ、こっちにもおしぼりくれ」
「茶も飲みたいねえ」
「はいはい」
いつ入って来たのかわからなかったが、いつものことだ。サザンカの両親同様、この二人も+ただもの+ではない。

【続きは製品でお楽しみください】

 

【最悪の魔女スズランシリーズ本編はこちら】

【番外編シリーズはこちら】

 最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part1

 最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part2

最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part3

最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part4

 

Follow me!

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました