【書籍情報】
タイトル | 最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part2 |
著者 | 秋谷イル |
イラスト | 秋谷イル |
レーベル | ペリドット文庫 |
価格 | 200円+税 |
あらすじ | 「最悪の魔女スズラン」本編では語られなかったエピソード。スズラン達の日常の物語をお楽しみください。 スズランの天敵モモハルの力の秘密に迫る短編。衛兵隊長ノコンの就任エピソードも収録。面白かったら本編シリーズもよろしくお願いします。 |
【本文立ち読み】
最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part
[著・イラスト]秋谷イル
-目次-
本編のあらすじ
第一話・モモハルの謎
第二話・モモハルの不思議
第三話・ついに解明
第四話・スズランの決意
第五話・ホウキギ子爵の依頼
第六話・村の秘密
第七話・苦悩する傭兵
第八話・衛兵魂
第一話・モモハルの謎
――雑貨屋の若夫婦に引き取られてから二ヶ月が過ぎた。大陸東北部のここタキア王国には早くも秋の気配が訪れつつある。
今日もまた雑貨屋の店内でベビーベッドに寝かされているスズランは、風に運ばれて窓に貼りついた一枚の赤い葉を見つめ、懐かしの我が家を想う。
(モミジ……今ごろ、どうしてますでしょう……)
彼女は以前、喋って動けて家事までこなす不思議なカエデの巨木を家にして暮らしていた。名はモミジ。枯れかけていたところを救ってあげたら慕われるようになり、居住の許可も得たのである。
ああ……あの快適で安心できる我が家へ帰りたい。でも流石にこの状態では難しい。なにせハイハイだってまだできない。
(こっちは今日も退屈)
毎日ゴロゴロ寝てばかり。あまりにできることが少ないせいか、時の流れを遅く感じる。一日一日ものすごく長いのだ。これが非常に辛い。
とはいえ養父母は善良な人たちである。他の村民も優しく、今のところ大切に扱ってもらえている。正体が露見しない限り、このまま平穏無事に成長していけるだろう。
ホウキにしがみつける年齢になれば、脱走することも可能だと思う。魔力は失われておらず、魔法を使えることも確認済み。
契約したホウキも呼び出せた。ただし異次元に帰す前に養母に見つけられてしまい、今は掃除用具入れに放り込まれている。空飛ぶホウキだとは露見していないものの、下手なことをすると悟られかねないので当面はそのままにしておくしかない。
とにかく、あのホウキにしっかり掴まって飛べる年齢になるまではここから逃げられない。
――それに、動けない理由は他にもある。スズランはため息をつきつつ頭を動かしてすぐ隣を見た。
普通のベビーベッドには無い追加の柵が中央に設置されている。その向こうにいるのは金髪碧眼で薔薇色のほっぺが愛らしい、もう一人の赤ちゃん。
彼女《ヒメツル》を赤子《スズラン》にした犯人、眼神《がんしん》の神子モモハルだ。
スズランの左手は、そんな彼の右手にしっかり握られている。こうしないと大人しく眠ってくれないので、しかたなくそのまま我慢中。
(私がいないとお昼寝一つできないなんて)
なんと手間のかかる子か。眠くなってくるとぐずり出し、スズラン無しでは泣き止まない。だからお昼前には必ず雑貨屋の方へ連れて来られる。
こっちにしてみればいい迷惑。彼から引き離されて、ようやく静かに眠れるようになったばかりだったのに。
でも人の好い養父母は笑顔で引き受けてしまう。モモハルの両親、宿を経営する夫婦とは幼馴染で親友なのだそうだ。
ここや宿の食堂にいると村民たちの話し声が聞こえて来る。おかげで事情にだいぶ詳しくなれた。暇潰しにもなってありがたい。
まず、ココノ村は貧しい農村である。数年前に何かあったそうで若者たちはこぞって都会に出て行ってしまった。そのあたりの詳しい経緯まではまだ知らないが、まあ、娯楽も何も無いこんな田舎から出て街で暮らしたいと思うのは当然のことだと思う。
スズランもここから出て行きたい。都会に住みたいとは思わないが、やはりモミジのところへは戻りたいのだ。彼女が心配だし、あの家こそが自分の居るべき場所だと思っている。
ただし、そのためにはまず成長し、隣でスヤスヤ眠っているこの神子の謎も解き明かさねばならない。
彼女はまだ、彼がどんな能力を持っているか知らない。神子には『加護』が与えられており、魔法より強力な力を行使すると聞く。その詳細を知りたい。
モモハル以外の現存する神子は三人。たしか、それぞれ植物操作と時空操作。完全記憶と完全写本。構造解析と特性強化の加護を持っていたはずである。
モモハルも神子である以上、絶対になんらかの加護を受けている。現に自分は謎の光を浴びて赤子にされてしまった。だからその謎を解明した上で逃走を図る必要がある。対策も立てず迂闊に動けば、また手痛いしっぺ返しを食らう可能性が高い。
(何年も堪えた後で、また赤ちゃんに逆戻りしたら泣きますわ)
年齢を操作できる以上、老婆にだってされかねない。いつかは老いるものとわかっていても、十代二十代の若さでしわくちゃになってしまうのは、やはり嫌だ。もうしばらくは若者でいたい。
(いったいどんな力ですの? 見ててあげるから使ってみなさいな。今のままじゃ情報が少なすぎます)
じっとモモハルを見つめる。でも混じりっけなしの本物の赤ちゃんは静かに眠ったまま起きる気配が無い。
そのうちに、養父が上から覗き込んだ。
「スズ? 眠くないのかな? ずっとモモハル君を見つめてるけど、やっぱり気になる?」
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【最悪の魔女スズランシリーズ本編はこちら】
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【番外編シリーズはこちら】
最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part1