【書籍情報】
タイトル | 最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part1 |
著者 | 秋谷イル |
イラスト | 秋谷イル |
レーベル | ペリドット文庫 |
価格 | 200円+税 |
あらすじ | 「最悪の魔女スズラン」本編では語られなかったエピソード。スズラン達の日常の物語をお楽しみください。 最悪の魔女ヒメツルはいかにしてココノ村の雑貨屋の娘になったのか。何故スズランと名付けられたのか。本編では語られなかったエピソードを今ここに公開。こちらの番外編と共に本編シリーズもよろしくお願いします。 |
【本文立ち読み】
最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part1
[著・イラスト]秋谷イル
-目次-
プロローグ
本編のあらすじ
第一話・君に夢中
第二話・待望の手紙
第三話・彼女の事情
第四話・領主の計らい
第五話・運命の出会い
第六話・最初の贈り物
エピローグ
第一話・君に夢中
赤子になってから五日後、またしても同じ天井を見上げている自分にヒメツルは落胆した。
(夢じゃない……)
家を出てからの出来事が全て夢だったら良かったのに。繰り返し同じことを考えては後悔に苛まれている。
ここは大陸東北部タキア王国。その南の国境沿いにある農村。
そのはずである。地図にも載ってるかどうか怪しい小さな村なので名前は知らない。興味も無い。
(帰りたい……)
自分の居るべき場所は我が家のある魔法使いの森か、もしくは華々しい大都会だと認識している。だって世界一の美貌と魔力を兼ね備えた魔女なのだ。こんなところに封じられていては世の損失だろう。
ここでは美味しい物など食べられないだろうし本も満足に読めない。自由を取り戻したら絶対に出て行ってやる。
(どのくらいで歩けるようになるのかしら?)
半年? 一年? いや、そもそもよちよち歩きができるようになった程度では脱走など難しい。大人は赤子の何倍も早く動く。
もちろんホウキを呼べば飛んで逃げることは可能。人目が無いタイミングを見計らって確認してみたところ今でも魔法は使えるとわかった。ホウキを呼び出せることも実証済み。
しかしハイハイすらできない現状ではホウキの柄にしがみつけない。舌が回らず呪文詠唱もできないので魔法とて単純に魔力の塊を撃ち出す魔力弾が精一杯。彼女は魔力こそ強いが技量の面ではまだまだ未熟なため無詠唱魔法なんて高等テクニックは使えないのだ。
(魔力弾か……身を守るのには使えますけど、別にここの人達のせいでこうなったわけじゃありませんし、倒して逃げるのは流石に……)
加減も難しく、下手に攻撃すると殺してしまいかねない。強行突破は危険。罪も無い人達を傷付けることは嫌だ。明確な敵対者ならともかく。
よって、今は耐えるしかない。逃げるにしても、もう少し大きく成長してからでないと。
ふう……軽くため息。もう何度も同じ思考がループしている。当面の間は逃げられない。それはわかっているのに、どうしても考えてしまう。
何故なら――
「うーう、うーう!」
(うるさい)
隣では今日も眼神の神子がはしゃいでいる。どうしてこんなに活発なのか不思議でならない。普通の赤子はもっと大人しいと聞く。
ヒメツルとて新生児に詳しいわけではないが、彼の出産に立ち会っていた産婆の説明に耳を傾けたところ、赤ちゃんは首が据わるまで四ヶ月ほどかかるそうだ。
首が据わるとは、首や肩の筋肉が発達して自分で頭の重さを支えられるようになった状態を指す。そうなるまでは極力赤子の首に負担をかけないようにしなければならない。だから授乳のため抱き上げる時も神子の母親は自分の腕を枕にして息子やヒメツルの頭を支えてくれる。そうしないと危険なのである。
そして当然、首が据わるまでは絶対安静。赤子の身で出来ることはひたすら眠るか天井を見上げながら思索することだけ。
(今の私は自分の頭も持ち上げられないほどか弱い。それはもう事実として受け入れています。でも、それならこの子はなんなんですの……?)
「うう、ううー!」
納得いかない。隣の神子はもう手足をバタバタ動かしている。その事実にヒメツルはそこはかとない敗北感を覚えた。
【続きは製品でお楽しみください】
【シリーズ本編はこちら】