【書籍情報】
タイトル | 神様は願いを叶えてくれない |
著者 | 如月一花 |
イラスト | あさぎ ぐんじょう |
レーベル | フリージア文庫 |
価格 | 400円+税 |
あらすじ | 茜は厄を背負い天界から堕ちた元神様。運よく智明の部屋に転がりこむことが出来たが、智明にタヌキ呼ばわりされる。智明の情けで食べたご飯により、茜は美人の女性へ変貌。智明との同居生活がスタートする。しかし、智明は立て続けに不運に遭遇することに。 |
【本文立ち読み】
神様は願いを叶えてくれない
[著]如月一花
[イラスト]あさぎ ぐんじょう
目次
神様は願いを叶えてくれない
空を舞う、というよりは、落下しているという方が正しいだろう。
このままどこへ落ちるのかと思いつつ、今までしてきた事がどうして間違いだったのか心に問う。
けれど、やはり『神様』としては失格だ。
こうして沢山の厄を身にまとい、地上に落ちている。
これが結果だ。
(でも、まあいいっか)
人間の世界は好きだから。
楽天的な私は地上に近づくにつれ、思考や言語が人間らしくなり面白かった。
とはいえ、やはり神様としての記憶はある。
面倒なことだと思いつつ、なぜか楽しみである。
汚らわしい、厄介な、面倒だ、それが人間であるが、その世界に堕ちるときなぜこんなに楽しみだと感じるのか、それは不思議だった。
落下速度は増すばかりで抵抗出来る力もなく、どうしたものかと思いながら、そのまま目を閉じ眠ろうと思った。
自分に神としての力はもうない。
このまま落下すれば、霊体として地上に舞い降り、神社で貧乏神にでもなるかもしれない。
どうせ人間どもには私は見えないのだから、本意ではないがそうなるとしよう。
ふわふわと大気に包まれながら、微かに見えた屋根を見てふと目を瞑る。
ぶつかるということはないが、一瞬の躊躇くらいはあった。
しかし目を開けると、どこかの部屋だった。
ベッドに机、他には何もない。
綺麗な部屋だ。
他に部屋はないのかとウロウロしてみるも、部屋はその一室しかなかった。
ドアを開けたら台所と玄関があり、左手には風呂場。
何もない部屋だ。
そう思いながら、私はベッドで寝てしまった。
空き地に放り出されるより、安心感があったからかもしれない。
神様とて、いきなり野宿は辛い。犬猫は気が付くだろうし、発情期の犬なら私を見てきゃんきゃん啼いて止まないかもしれないだろう。
寒いという概念は無い筈だけれど、気分的に寝具に包まりたいという気持ちになった。
ここの家主は一晩貧乏神と共にするわけだが、どうせ何も起こりはしないだろう。
それに、そもそも自分は何になったのかも、自分でも分からないのだから。
とにかく眠ってから、近くの神社に戻ることに決めた。
異様な眠さと共に瞼を閉じた時、扉が開いた。
足を鳴らし、自分の前で立ち止まったように思う。
けたたましい人間だと思いつつ、私は顔を上げずに目を閉じていた。
色々とあって、それなりに疲れているのだ。
「誰だ! お前!」
驚いて顔を見ると人間の男がいた。
どうして私の事が見えているのだろうと、しばらくその男の言葉の意味が分からない。
すると、男は更に言った。
「どっから入ってきた! 鍵はどうやって開けた? 子供だから、大家に頼みこんだか?」
(子供?)
不意の言葉に違和感を覚えつつ、気だるさに負けて目を瞬かせるだけだ。
それに、罵声を浴びせられて余計に疲れてきてしまう。
男はかなり警戒しているようで、私に近づくこともせず、大声を浴びせるのみだった。
これだから人間は――汚いとか、厄介とか面倒とか言われてしまうんだぞ、とそいつに言いたくなる。
のそっと顔を上げてみれば、眉間に皺を寄せて不快そうに腕組をして仁王立ちだ。
(まったく……美女を前に優しさを知らないとは……さすがに私も怒りたくなるわ)
元神様なのに、たかが人間にこんな扱いを受けて腹立たしい思いになった。
しかも、美人で名を馳せた神であり、恋を成就させるのが使命。
その女神を前にして、一ミリとも優しさがない。
人間から散々頭を下げられ、拝まれたが、あれはなんだったのだろうか。
呆れてしまって、目の前の気が立った男になんと言えばいいのかも分からないで、ぽかんと口を開けてしまう。
「とっととベッドから降りろ!」
言うなり男は勢いよく私に詰め寄り、脇を抱えられ、ベッドからずり下ろされた。怠い体を男に無理やり立たせられた。
(おや? 足が短い)
思った感覚よりも足が子どものように短く、そして、視界に入る着物は絹の赤い反物でもなく、たんなる襦袢だ。
おかしい――。
そう思って抱えられていると、立たされて自分の背が男の腰程度しかないことに気が付いた。
(どうして?)
戸惑っていると、男からジャンパーを着せられる。そしてそのままどこかへ行こうとする。
手を力任せに引かれて、思わず思い切り引っ張った。
「どこへ行く?」
「警察だよ」
男はそれしか言わなかった。
ぶっきらぼうな奴だと思ったが、会話まで成立していることに自分の存在がなんなのか、さっぱり分からなくなる。
神ではない存在になって、人間になってしまったのだろうか?
それに、警察とはなんだろうと、必死に考えてみる。
(確か、動物を売り買いする所だったような)
首を捻りながら、私は唸った。
男は怪訝な顔をして、私を睨んでいた。
美人でないにしても、女性相手に睨むなど酷い男だ。
(まさか……私は男に……なった……?)
「何をさっきからぼんやりしてる。さっさと警察だ」
「私は動物じゃない。神様だ。警察なんて必要ない! いい加減にしないか」
「この子は頭まで狂ってるのか?」
ため息交じりに言うと、男は私の腕を思い切り掴むと、引きずりながら玄関を出た。
「いやだ。何をする!」
「それはこっちのセリフだ。お前は何をしに部屋に入ってた!」
「眠っていただけだ。それに――」
(なぜ、私が見える? なぜ腕を掴める? なぜ、会話が成立する?)
頭の中がクエスチョンマークだらけで、答えがすぐに出てこない。
確かに自分が神ならざる何かになったはずだが、人間に見える程度まで堕ちているとは思えない。考えたくないが、人間になってしまったのだろうか。
天空に浮遊していない、人間を見下ろしていないのがその証拠。
それに、姿かたちはまだ確認できないが、美人のそれではなく、私は子供らしい。
(一体……どうなっている?)
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