獣人界の希少種婚 ~犬の王と猫の娘~

【書籍情報】

タイトル

獣人界の希少種婚 ~犬の王と猫の娘~

著者桜咲かな
イラスト佐藤すい
レーベルフリージア文庫
価格400円+税
あらすじ犬の王『ワンダ』と、猫の娘『ニャナ』の純愛物語。

森に出向いた犬獣界の王・ワンダは、猫人の娘・ニャナを発見する。
しかし森で倒れていたニャナは過去の記憶を失っていた。
封鎖された犬獣界で記憶と行き場をなくしたニャナを、ワンダは娶ると言い出して…。

お人好しな犬の王と、天然な猫の娘。
犬人と猫人、希少種どうしの異種族恋愛は成就するのだろうか?

【本文立ち読み】

獣人界の希少種婚 ~犬の王と猫の娘~

[著]桜咲かな
[イラスト]佐藤すい

目次

第一話 迷い猫は拾われる
第二話 保護猫は脱走する
第三話 飼い猫は懐き始める
第四話 犬獣界と猫獣界
第五話 犬獣界の封印解除
第六話 獣人界の希少種婚
後日談 獣人界の王子と王女

第一話 迷い猫は拾われる

頭上に真っ白な猫の耳、そして真っ白な猫の尻尾を持つ娘は、見知らぬ森の中で目を覚ました。
(ここ……どこだろう? 私は、一体……)
ゆっくりと立ち上がるが、記憶がハッキリしない。何が起きたのか。なぜ、こんな場所で倒れていたのか。
(帰らなきゃ……)
状況の把握よりも先に、猫の帰巣本能が働いた。来た道を帰ろうとして後ろを向いた、その瞬間。
「動くな。帰れぬぞ」
誰かの声に呼び止められた娘は、ハッとして正面を向く。そこには高貴な黒衣を纏った男性が堂々と立っていた。その周囲には大勢の武装した兵士。娘は、いつの間にか取り囲まれていた。
「え、あなたは……? 何者ですか……?」
「それはこちらのセリフだ。捕らえろ」
貴族の男性が感情もなく命じると、兵士たちが娘を拘束する。
そのまま娘は、どこかへと連行された。

※ ※ ※

娘は、薄暗い小さな個室に一人で監禁された。
部屋とは言っても、ドアや扉はなく鉄格子だ。外には見張り番らしき兵の姿が見える。
(ここって、牢屋……だよね?)
裏口から入ったのでよく分からないが、ここは大きな城の地下牢であるようだ。
家具も何もない牢の床に座り、娘はこれまでを思い返す。……いや、思い出せない。
自分の服を見ると、白いドレス。肩にかかる長い髪は銀色。そして白く長い尻尾が生えている事に気付いた。
その時、静かな地下牢で、何者かの足音が響いてきた。こちらに向かって歩いてくるようだ。
(あ、あの人……私を捕らえた、貴族の人)
娘の牢の前で足を止めた男性は、無言で様子を伺ってくる。黒髪に黒衣に黒の瞳、そして頭上には黒い獣の耳が立っている。見た目は二十歳くらいだろうか。
その秀麗な顔立ちと気品に思わず見とれながら、娘は男に問いかける。
「あの、あなたは誰ですか? なんで私を?」
すると男は相変わらず感情のない瞳で口だけを開く。
「それはこちらのセリフだと言ったであろう。貴様は何者だ」
「え、わ、私……?」
その時、娘は自分の名前すら思い出せない事に気付いた。なかなか答えない娘に苛立った男は、黒の瞳を細めて問い詰めてくる。
「見たところ猫のようだが、スパイか?」
「え、私、猫なんですか?」
思わず拍子抜けするような返答を返す娘に嘘はないようだ。男はため息をついた。
「貴様の頭に猫の耳があるではないか」
「え、あ、本当ですね!」
娘が自分の頭に手で触れてみると、フワフワとした獣の耳の感触があった。そして、目の前の男にも獣の耳が……。
「という事は、あなたも猫なんですか?」
それを聞いた男は、今度はキョトンとして目を丸くした。
「何を言うか、我は気高き犬だ」
「私が猫で、あなたが犬……?」
「はぁ……もう良い」
男はもう一度ため息をついた。
「記憶喪失か。スパイではないようだな。己の名も分からぬのか」
「うーん……『ニャナ』。そんな名前だった気がします」
「では、ニャナ。我はこの犬獣界の王、ワンダ」
「えっ、王様……!」
ニャナには過去の記憶がない。だが推測するに、ここは犬の獣人が住む世界で、猫の獣人である自分が迷い込んでしまったのだろう。
スパイの容疑で捕らえられたという事は、犬人と猫人は敵対しているのだろうか。
「あ、あの、私は、どうしたら……」
急に不安になったニャナは、鉄格子の向こう側のワンダに涙目で訴えた。相変わらずワンダは無表情だ。
「残念だが、貴様はもう帰れない」
この言葉が意味する過酷な現実を、この時のニャナはまだ知らなかった。

※ ※ ※

牢屋から出されたニャナには、城内の一室が与えられた。
(好きに使っていいとワンダさんに言われたけど……いいのかな?)
家具はシングルベッドと小さなテーブルとクローゼットくらい。狭くて簡素だが、埃も汚れもない綺麗な個室だ。
壁に掛けてある鏡に自分を映して、ニャナはようやく自分の姿を知る。
(長い銀色の髪と瞳、白い猫耳……これが私……)
記憶のないニャナには、鏡に映る十八歳くらいの娘が自分自身だという実感が湧かない。
その時、部屋のドアがコンコンと数回ノックされた。驚いたニャナは反射的に大きな声を上げる。
「にゃぁっ!? ど、どうぞ!」
そっとドアを開けて入ってきたのは、黒いスーツ姿の二十歳くらいの女性。茶髪のボブヘアに、頭には茶色の犬耳。
「失礼致します、ニャナ様。私はワンダ様の側近、テリアと申します」
テリアは真顔で丁寧に頭を下げて名乗った。先ほどまで牢屋にいた侵入者への対応にしては丁寧すぎる。
「は、はい、テリアさん、ですね。よろしくお願いします……!」
「緊張しなくても大丈夫ですのよ。ワンダ様がお呼びですので、お部屋までご案内致しますわ」
テリアはビジネススーツを纏った真面目なキャリアウーマンに見えるが、口調はまるで貴婦人のようだ。

 

【続きは製品でお楽しみください】

 

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