【書籍情報】
タイトル | 最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part3 |
著者 | 秋谷イル |
イラスト | 秋谷イル |
レーベル | ペリドット文庫 |
価格 | 200円+税 |
あらすじ | 「最悪の魔女スズラン」本編では語られなかったエピソード。スズラン達の日常の物語をお楽しみください。親友ヒメツルの失踪後、彼女の行方を追い続けたクルクマが無事再会を果たすまでの間にあった、ちょっとした出会いのエピソード。そして再会後の一幕を描いた短編も収録。 後半はさらにスズラン、モモハル、アイビー以外の新たな神子が登場。シブヤ大図書館に勝手に住み着いている彼女は読書以外に全くやる気を見せない性格で通称は「ぐ~たらの神子」。今日も専属メイドたちに世話を焼かせつつ自分は読書三昧。でも実は読むことも彼女にとっては大事な仕事の一つで―― 番外編第三弾。こちらを楽しめたら本編もよろしくお願いします。 |
【本文立ち読み】
最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part3
[著・イラスト]秋谷イル
-目次-
前回までのあらすじ
第一話・あの子はどこへ
第二話・北の変人
第三話・待望の瞬間
第四話・ぐ~たらの神子
第五話・ぐ~たらの神子、安らぐ
第六話・ぐ~たらの神子、働く
第七話・ぐ~たらの神子、明かす
第一話・あの子はどこへ
いない、いない、いない。
ここにも、あの場所にも、その前に訪れた街にも彼女はいなかった。
心が挫けそうだ。疲れと罪の意識が足取りを重くする。自分のせいかもしれないと考えるたび、怖くなってたまらない。本当にそうだとしたら、いったいどうやって償えばいいと言うのか。
それでも歩みは止めない。だって立ち止まってしまったら、二度と歩けなくなってしまう。
あるいは狂うだろう。正気を失い、何をしでかすかわからない。もう何年も前の話だが、大きな力を手に入れたのだ。そのせいで、かつては知らなかった苦悩も抱えている。
弱者のままでいたかった、いるべきだったと時々思う。
かつての彼女は弱さを口実に現実を直視せず、あらゆることから逃げ続けていた。
何もできない、できやしないと自分自身に言い聞かせ、希望を持たず諦めていれば楽だったから。
そんなどん底から這い出せたのは偶然の発見のおかげ。あれが無ければ今もまだ言い訳ばかりを繰り返して立ち止まっていただろう。憎たらしい師の庇護下に留まり、緩やかに腐っていく自分を嘲笑し続けたに違いない。
しかし、幸か不幸か自分には力があった。気付かなかっただけで眠っていたのだ、稀有な才能が。たまたまそれを知って希望を持てたおかげで努力する気になった。生まれて初めて自分の意志で学び、研鑽し、唯一無二の技術を身に付けて自信も得ることができた。
なのに、その力のせいで再びどん底に沈んだ。いや、それ以上の深みがあることを知り、そこまで堕ちた。
彼女は大罪人である。善良な人々の命を奪い、その何倍もの人々を傷付けて今なお苦しめ続けている。
しかも金のために。自身が安寧を得るためだけに他者を害した。
許されない。けして許されるはずがない。誰が許してくれても自分で自分を許せない。
そう思っていたのに、ある日、一人の少女が言った。
『貴方、天才ですわね!』
誰に何を言われても絶対無理だと思っていたのに、彼女のそのたった一言で心が軽くなった。おそらくは自分自身に許されるよりずっと。
まるで麻薬のように。彼女の声と笑顔にはあらゆる苦痛と苦悩を消し去ってしまう効果があるに違いない。
あの子は、こうも言った。普段の彼女とは少し異なる大人びた目でこちらを見つめながら。
『どうして? お掃除が上手なのも商売が上手なのもすごいことなのに。胸を張ってくださいな、それは貴方が生きてきた結果で、ここまで頑張って歩いた証でしょう。努力しなければ絶対に手に入らなかったものなのだから、堂々と誇るべきです。でなきゃ私が自慢しにくいじゃないですか、せっかく良い友達ができたのに』
ああ、ああ……会いたい。彼女に会いたい。
そしてまた、あの小生意気な態度で屁理屈をこねてほしい。こっちの言い訳なんてお構い無しで、自分でも気付いていなかった真実を突く言葉を無遠慮に言い放ってほしい。
幾度あの子に救われただろう? 沈んだ心を、かつてどん底だと思っていた場所よりさらに深い闇まで落ちてしまった魂を、どれだけ明るく照らし出してもらえたか。
せめてもう一度、この名を呼んで欲しい。
クルクマ、と。
「ヒメちゃん……」
必ず見つけ出してみせる。溢れ出た涙を拭い、クルクマはひたすら前へ進む。
四年前のあの日、彼女の親友ヒメツルは姿を消した。消息は誰にもわからず手がかりさえ掴めていない。
けれど諦めるものか。あの頃は四本のお下げにしてまとめていた長い赤毛をそのまま風に揺らし、眼鏡の下では執念の炎を燃やす。
四年で大陸全土を何周しただろう? もう数えてもいない。どのみち親友を見つけ出すまで旅は終わらないのだ。
彼女にとってヒメツルは光。あの眩い輝きに照らされていなければ、心中に巣食う邪悪は何をしでかすかわからない。
今この瞬間にだって世界を呪っている。自分から一番大切な存在を奪った者たちを憎んでいる。
破壊したい。全て消し去ってしまいたい。
余計な物が無くなれば、ヒメツルだって見つけ出しやすくなる。
そう考えて、けれどもあの子の悲しむ顔を思い浮かべ、実行前に踏み止まる。まだ辛うじて理性が働いている証。
ヒメツルは今、どこにいて、何をしているだろう? 生きている? 苦しめられていない?
彼女が傷付けられていたら、やはり自分は激昂するだろう。二度と会えないとわかったならば、その時こそ理性を捨てて何もかもを破壊しよう。
だから見つけたい。彼女の無事を望む心と全ての崩壊を望む心。せめぎ合う二つの感情のどちらか一方でも解放しないと苦しくて。
結局は自分のため。二つ名通りの最低の魔女。己をそう卑下しつつ歩き続け、やがて大陸の北端へ辿り着いた。
【続きは製品でお楽しみください】
【最悪の魔女スズランシリーズ本編はこちら】
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【番外編シリーズはこちら】
最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part1
最悪の魔女スズラン番外編 ティータイム&コーヒーブレイク Part2