【書籍情報】
タイトル | 10のタカラモノ |
著者 | こぐまあぴぽ |
イラスト | かきぶた |
レーベル | フリチラリア文庫 |
価格 | 800円+税 |
あらすじ | 街で求人を目にし、高条件に飛びついて希望ファームに入社してきた男、ライチ。 働いていくにつれ、最初は気付かなかった希望ファームへの違和感を徐々に感じ始める。 そんな日々の中、周囲から孤立していた牛人の10(いお)と出会う。 小さく痩せ細り、寂しそうな瞳の10が、辛い過去の経験から酷く傷付き孤独を抱えた自身とどこか重なって見え、甲斐甲斐しく10の世話を焼くようになる。 希望ファームで産まれた、牛と人間のハイブリット10。彼はずっと、この狭い世界とそこに関わる人間の全てが嫌いだった。とある年の春、突然やって来た青年ライチと出逢うまでは。 ライチは10に生まれて初めての物を沢山くれた。優しさ、温かい気持ち、美味しいビスケット、10という名前。 ライチが来てから、10の毎日が輝き出した。今日はライチと何をして遊ぼう?10はそれまで憂鬱だった朝を迎えるのが楽しみになっていた。ライチを想うと胸が高鳴る。10の初めて覚えた恋心だった。 そんな10を揺るがすある事件が起こる──。 歪んだ環境に振り回され、翻弄される二人の運命は。 喪失感を胸に抱いて生きる青年×大きくなれない小さな大人の牛人の純愛BL。 |
【本文立ち読み】
10のタカラモノ
[著]こぐまあぴぽ
[イラスト]かきぶた
目次
登場人物紹介
第一章 10
第二章 芽生
第三章 大切
第四章 約束
第五章 成長
第六章 憎悪
第七章 希望
第八章 ライチ
第九章 哀傷
第十章 再生
第十一章 純愛
第十二章 雲行
第十三章 愛情
第十四章 想人
第十五章 告白
第十六章 10のタカラモノ
第一章 10
無機質なコンクリートの壁。高い天井。冷たい床に響く二人分の足音。
チカチカと電球が切れかかった薄暗い明かりの廊下を進むと、牛達が生活している部屋に通される。けして広いとは言えない、狭い空間を格子で仕切られたそこは牢獄のようだ、と男は思った。
男の名はライチ。作業服に身を包んだ、上背があり、オリーブ色の短い髪に薄い眉毛、鋭い目つきが特徴の青年。
彼は今日付でこの牛舎に配属された新人社員だ。
「今日からお前にはここの牛舎を担当してもらう」
1から10まで番号が振り分けられた檻の中には、様々な雄牛が暮らしている。
図体が大柄な牛。見るからに強そうな闘牛。食欲旺盛なよく太った牛。働き盛りの乳牛。
──そして皆、揃って同じ服装をしていた。首には重たそうなカウベルがぶら下がり、上着はノースリーブで、胸の上部までしか布がなく、乳房が丸出し。下半身は下着と変わらないような際どい紐パンにTバック。晒された臀部にはそれぞれ振り分けられた番号の焼印が押されている。
彼らの世話をすることが、ライチの仕事の中心となる。
希望ファーム。ここの施設の主軸は二通りあり、闘牛場で勝ち抜く為の屈強な戦士の育成。そしてミルクを生産する乳牛の管理。雄牛のミルクは希少価値で、雌牛に比べて年間で絞れる量が少ないのもあってか、市場では高値で取引が行われている。
闘牛。乳牛。そのどちらにもなれなかった雄牛の行く末は食肉──。
無愛想な指導員に連れられ、一番奥に位置する部屋まで案内されると、ライチはそこで思わず足を止めた。
「……子牛?」
「ああ、10番か」
10と番号が振られた部屋には、見るからに小さく、ガリガリに痩せ細った子牛がちょこんと座っていて。
「こいつは見ての通り痩せっぽちで、闘牛にも乳牛にもなれない出来損ないだから雑に扱っていいぞ」
指導員は鼻で笑うかの如く、^10^番と呼ばれる子牛に酷く冷たい目を向けた。
「雑に扱うって……」
「適当にクズ飯食わせて食肉になってくれるよう太らせてくれりゃいいからさ」
面倒臭そうに言い放つと「ほら、次は寮を案内するからついて来い」と先輩指導員は歩き出した。
ライチはその背中を追うギリギリまで、^10^番のどこか寂しそうな瞳から目が離せなかった。
◇◆◇
まだ宵闇の薄墨も名残りのある早朝、けたたましい音に叩き起こされる。
「……っ! ……アラーム、なんでこんな時間に? ……そうだ、仕事か……」
見覚えのない景色に辺りを見回しながら、寝ぼけ眼を擦り頭を働かせる。ここは寮の部屋。今日から新しい日々の始まりだ。頑張らなくては。
共有の洗面所で歯磨きと洗顔を済ませ、早速ライチの牛舎での仕事が開始された。
「おー、おはよう。やる気あるねぇ」
第一牛舎の手前、待ち合わせの場所。集合時間を過ぎても何の連絡もないことに不安になり出した頃、昨日案内してくれた職員とはまた別の、剽軽な雰囲気を醸した先輩職員が、欠伸を噛み殺しながらやっと現れた。
「……おはようございます」
遅れたことに悪びれもしない先輩の態度に疑問を抱きつつ、ライチは自己紹介もそこそこに挨拶を済ませる。
「じゃあ適当に教えるから、俺の後でやってみて」
「わかりました」
1番と番号を振られた牛舎に入り、先輩職員が先導して牛の世話の見本を見せる。この雄牛は乳牛で、ふくよかな体つきをしていた。
豊かな乳房についている乳首を先輩が乱暴に掴んで搾る。牛は苦痛に顔を歪め、性器の先端からミルクを出した。
「おい、暴れんなって。新入りくん、こいつがバケツひっくり返さないように押さえつけといて」
「は、はい」
ライチは必死にミルクを溜めるために置かれたバケツを押さえる。
「バケツじゃなくてこいつを押さえとけよ。まあいいや、じゃあ次君がやって」
「はい。……」
先程先輩が搾った力は強すぎたんじゃないだろうか。ライチの脳裏に牛の苦しそうな表情が過る。
なるべく牛が痛みを感じないよう、出来る限り優しく搾った。
「……! 出た」
バケツの中にミルクがとぷとぷと流れ込む。強くやらないとミルクが出ないのか、とも考えていたがそうではなかったようだ。
牛が嫌がっていないことにライチは、なんだか少し安堵した。
「もっと強く搾っていいよ。まあでも、初めてならこんなもんかな……あとよろしく」
先輩は一人で納得して、どさりとその場に腰を下ろすと煙草に火をつけ、朝の一服といったところか。後の搾乳は全てライチに任せ、すっかりサボり態勢だ。
(なんだこの人……だいたい牛舎は禁煙じゃないのかよ)
もやもやと浮かびあがる不満を押し殺し、ライチは先輩に言われた通りに、黙々と教わった業務をこなした。
その後も各舎を回り、先輩は一通りの仕事をライチに気怠げに教えていく。
最後の牛舎に辿り着くと、「今教えたことが全てだから後は一人で出来るよね」と言い残して先輩は欠伸混じりに消えて行った。
「……10番か……昨日の……」
10番と記された檻の前で、ライチは昨日の記憶を反芻する。そうだ、ここはあの小さな子牛の部屋だ。
「入るぞ……」
一声かけて、鍵を開け、柵の中に入る。
そこにはカーテンの影に身を隠し、恐る恐る隙間からこちらの様子を伺う子牛の姿があった。
「……そんな警戒するなよ、お前が怖がるようなことはしないから」
ライチはそんな子牛の姿を見て、眉を下げる。先程まで1番から9番の牛舎を回ってきたが、ここまであからさまに怖がる様子を見せたのは、この子牛だけだ。
まだ幼いから人馴れしていないのか……なんて思っていたが、子牛の姿をまじまじと見てみると、他の牛達に比べて髪はボサボサ、身体は何故か泥だらけに傷だらけで、ろくに世話をしてもらっていない様子にみえた。
「お前……なんかボロボロだな。ちゃんと世話されてるのか……?」
何か特別な事情でもあるのか、と^10^番のカルテを改めて見返す。ふと、ある項目の所でライチは目を止めた。
「……お前、子供じゃないんだな」
年齢の欄には三歳と記載がされている。これは人間でいうと二十歳程度だ。
「……」
ライチの問い掛けに返事をする訳もなく、牛は身体を縮こませながら目を逸らす。
「……そうだ」
声を掛けても手応えが無く、どうしたものかと考えていたところ、ライチは空腹を凌ぐ為、ポケットに忍ばせていた飴玉の存在を思い出した。
「お前甘いの好きか?」
ゴソゴソとそのカラフルな包み紙にくるまれた飴玉をポケットから取り出すと、牛に見えるように差し出す。
「……?」
牛は差し出された飴玉が気になったのか、警戒しながらもゆっくり、ゆっくりとライチの方へ近寄ってきた。
「食べてみるか?」
「……」
まだ初対面のライチを信用しかねているのだろう。牛は応答せず、訝しげな視線を送るだけだ。
「毒なんか入ってねぇよ」
ライチは包み紙を剥がすと飴玉を自ら口に放り込み、もう1つ新たな飴玉を取り出す。
牛は一瞬考える素振りを見せた後、更に少しだけライチに近付きじっと見詰めてきた。
「ほら、食え」
もう1つの飴の包み紙も外し、慎重に牛の口に入れてやる。
「……!」
小さな口いっぱいに広がる初めての甘さに牛は驚いて、ただでさえ大きな翠色の瞳をまん丸に見開き、キラキラと輝かせた。
「気に入ったか? 甘くて美味いだろ」
新鮮で無邪気な反応を見せる牛の様子に、ライチは自然と笑みがこぼれる。
そんなライチの笑顔を目にして、彼のことを嫌な人間ではないと判断した牛は、ライチがここにいることを許可したようだ。その証拠に、先程よりもリラックスした表情を浮かべている。
「お前、良い子だな」
少しばかりテリトリーに入れてくれたことが嬉しかったライチは、牛を撫でようと手を伸ばす。牛は一瞬身体を強ばらせたが、撫でる手を弾こうとはしなかった。
優しく一定のリズムで頭を撫でる手に、牛は目を細める。
「よしよし。……ん?」
牛の髪の毛には、泥の塊がべったりと付着していた。やはり満足に世話をされていないのではないか──。
「髪、汚れてるな。ブラッシングしたら落ちるか?」
ちょっと待ってろよ。と一言置いて、仕事道具が入った鞄からブラシを取り出し牛の髪を梳いてやろうとした、その時。
「うー……!」
牛はふるふると首を横に振って、異常に嫌がる素振りを見せる。
「どうした? ブラッシングは嫌なのか……?」
頭を撫でた時は嫌がらなかった牛が、ブラッシングだけ拒否反応を示すことにライチは疑問を抱く。
「ブラッシングが嫌なら……風呂に入るか」
各牛舎には一つずつ小さな風呂の設備がついている。ライチは風呂の扉を開け、手招きして牛を誘う。
「おーい、風呂入ろうぜ。……風呂も嫌なのか」
「……」
牛は僅かにこちらに来たものの、風呂の入り口を跨ぐのすら躊躇している。
「なぁ、さっぱりして気持ちいいぞ。入らねえか?」
ライチは蛇口を捻り浴槽にお湯を溜めると、袖を捲った腕で濡れるのも厭わず、水面をぐるぐるとかき混ぜた。
「汚れたままじゃ気持ち悪いだろ?」
「……!」
自らの頭に水をつけ髪を梳かすライチを見て、牛は決心したかのように風呂場に足を踏み入れる。
「よく来た……! 自分で服脱げるか?」
「ん!」
牛はライチの問いかけに頷き、申し訳程度に身を包んでいる布を無造作にその場で脱ぎ捨てる。
全身見事にすっぽんぽん。生まれたままの姿を晒した牛は、ライチの手で洗われる覚悟を決めたようだった。
「よーし、俺が責任持ってきれいにしてやるからな!」
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