月灯りの絆 君と永遠に(五)守の覚醒

 


【書籍情報】

タイトル月灯りの絆 君と永遠に(五)守の覚醒
著者かにゃん まみ
イラスト尾張屋らんこ
レーベルフリチラリア文庫
価格350円+税
あらすじ女宮殿の最高峰南女宮殿に上り詰めた瑠璃は守を奪取することに成功する。二人は愛し合いもう心は決して離れることはない。そんな折、女宮殿に相次ぐ連続殺人事件が起き、その陰には見知らぬ異形たちが存在した。
瑠璃たちも襲われそうになるが、異形の者たちは瑠璃に敬意を表したため、瑠璃が宮殿の軍に疑われることに。しかし本当の首謀者は違うところに音もなく近づいていた。

【本文立ち読み】

月灯りの絆 君と永遠に(五)守の覚醒
[著]かにゃん まみ
[イラスト]尾張屋らんこ

目次

登場人物紹介
月灯りの絆 君と永遠に(五)守の覚醒
おまけSS ムーンの呟き

登場人物

登場人物

瑠璃(るり)
月の最下層の住民だった。地球で両性とわかり、女宮殿に。そして宮殿の最高地位の南女宮殿へチャレンジする。

神咲守(かみさきまもる)
生物学者。植物を愛する温厚な性格で、人を差別しない。博愛主義者。周囲からは変わり者扱いされている。
瑠璃と結ばれてから体に異変を感じているが……。

神咲隆二(かみさきりゅうじ)
弟の守を愛している。その愛は幼い頃守に求愛されたのがきっかけらしい。

如月(きさらぎ)アキト
空手家。如月流の継承者。瑠璃の側近で、瑠璃を愛している。成績は普通だが、武道においては右に出るものがいない。

如月(きさらぎ)ツグミ
アキトの兄。子供の頃の事故で負った大怪我の影響で如月流の跡継ぎを断念、以後勉学に励み優等生になる。瑠璃の側近だった。

キリカ
神咲家の末っ子だった。無口で真面目な性格。礼儀正しい。瑠璃の側近。文武両道、フェンシングが得意。

ミュート・モンロー・ファミル
信仰深い。元、神咲家の使用人。料理人。瑠璃の側近。

霧宮魅来(きりみやみく)
南女宮殿にいる上級女性。守を愛しているが、自分の思うようにならない上に、瑠璃という存在が現れて瑠璃を憎むようになる。

李(り)・白蓮(はくれん)
魅来の側近。魅来の意思を常に尊重している。本人に自覚はないが、彼女を愛している、女性を崇拝している。

新城昴(しんじょうすばる)
女宮殿直属の軍の中佐、南宮殿の最上級の女性に仕える、第一側近で、女性に対し忠誠を誓っている。
宮殿にて起きている謎の殺人事件を追及し、彼の言う殺人犯=悪鬼を探すため血眼になっている。

ファルス・デ・ミール
女宮殿直属の軍の大佐。上級女性のエレナ・ラシールの命令で、霧宮魅来の側近である隆二に霧宮の研究所の事を調べさせていた。
しかし、ある日その彼が行方不明になる。

エレナ・ラシール
ファルス大佐が仕えていた上級女性。かつて表向きには霧宮魅来を慕っていた。

鏑木桜(かぶらぎさくら)
宮殿の女性。瑠璃の親友。明るい性格だが泣き虫。写真家としての才能がある。

久道雅人(ひさみちまさと)
マリカの側近。マリカが以前瑠璃にお世話になった。瑠璃たちに常に協力的。文武両道で、剣道が得意。

上松(うえまつ)マリカ
東女宮殿の女性。北女宮殿の頃、瑠璃に少し意地悪をしていたが、今は反省し、瑠璃に協力をしている。

海倉誠一(うみくらせいいち)
両性である瑠璃の担当医。

ミライト・レイ
守の親友。長い間イギリスに渡っていた。医者だが、博識で生物学者兼科学者でもある。

SAEKA(さえか)
ミライトの作ったアンドロイド。笑うことを知らない。

花卉奈(かきな)
女宮殿の女帝の総称。誰がなってもこの名前で呼ばれる。

カエデ
女帝様の側近の一人。だが、その正体は……。

月丘忠志(つきおかただし)
過去に霧宮家の研究所にいた。ワープ構造を編み出した比類なき天才。ただ、十数年前から失踪したままである。

 

南女宮殿へ向けて

古典柄の着物を優雅に着こなした女性が、縁側に現れた。
髪は濃い目の黒に近い紫。やや鼻が高く、西洋系が少し混じっている色白の美しい女性だ。
彼女が人目に触れられないのは、暗殺者を避けるためでもある。
彼女はこの世で誰よりも有名であるが、誰よりもその姿を知られていない。
女帝になる女性を知る者は一握り。夫となる者や、彼女が厳選した特別な側近達で、彼らは女帝に仕えつつも、他の上級女性の側近の一員として身を潜めている。
髪にはサファイアやアメジストの髪飾りが施されており、後ろ髪は編み込まれてあった。
彼女は今、一国一城の主として、自分が統治している女宮殿を見下ろしていた。
この日本国を彼女は誰よりも愛している。

彼女の住まいは宮殿全体を一望できる高層にあった。
ほぼ楕円形の宇宙船であるが、外観上部は開かれ、外観はまるで透明なカプセルのようだ。
宮殿からワープターミナルを通じて供給エネルギーが送られてきている。
宮殿からも見上げられ、一見目立つように感じられるが、この場所は衛星から常に監視されており、何か危険が迫れば察知しやすくもある。
島のような宇宙船の中央に佇む彼女の住まいは、広い庭園のある和風の低層住宅である。
室内の畳の青々としたイ草の芳しい香りは、彼女の心の安らぎでもあった。

ふと、静かな庭園の石畳に背の高い武装した側近が歩いてきた。
大柄で、瞳も髪の色も赤い。そして彼女の前で止まるとその場で跪き頭を垂れた。
「カエデか」
「はい」
カエデと呼ばれた者は頭を下げたまま言葉を続ける。
「花卉奈さま、明日の南宮殿への試験。合計十五名の入殿希望者がおります」
「そうか」
「これが十五名の名簿と側近達の名です」
花卉奈は渡されたデータに映る青い髪の少女の顔を見つめる。
「……カエデ。もしかしてこの女性は……。いや、なんでもない」
花卉奈は庭園の見える廊下に、着物の裾を引きずりながら歩いていった。
地上のように美しい庭園には池があり、ししおどしの音が時折聞こえ、池の中には大きな鯉が何匹も群れをなして泳いでいる。
「花卉奈さま、それでは明朝お迎えにあがります」
カエデはそのままお辞儀をすると、その場を後にした。

当日。
南宮殿を目指す者達が様々な想いを重ね、その日を迎えた。
南に入るには今までの成果と、試験、容姿、人間性などが問われる。そして女帝さまによる面接もある。
瑠璃はシンプルな服を着て会場に向かった。
俺はここに来るために生まれたと瑠璃は思う。
それまでの試練が人より多かった。ただそれだけの事だ。
不運に見舞われた事を不幸だと思わない。瑠璃は辛い想いをしたからその分強くなれた。

隆二は魅来の昇級試験の側近四名の中に選ばれている。
「女如きに利用され、また己もその女を利用する……か」
鏡の前で身支度を整えると、隆二は守の様子を見に行った。
薄暗い牢屋に乱れた服のまま、守は夕べ行われた隆二との狂乱の一夜に、体の気だるさから逃れられずにいた。
隆二の長い指が、守の頬にそっと触れる。
はだけた胸元へそのまま移動させ、一番感じやすい突起に触れると、守の体がひくりと反応する。
夕べのほてりから覚めることなくその体は濡れている。
隆二はその体から離れがたい素振りでそっと守の顔を起こし、唇に軽く吸い付くようなキスをした。
「戻って来たら、またお前の中を存分にかき回してやる」
重い扉は、鈍い音をたてながら閉められた。
「……瑠璃、待っている」
鎖で繋がれた守は乱れた髪をそのままに、ドアの一点を睨んだ。

病院から戻ったアキト達を、心配顔の瑠璃達が桜のルームで待ち望んでいた。
桜の飼っている猫のアースが、瑠璃の膝に乗ってすっかりリラックスし、あくびをしている。
二人から改めてツグミの解雇処分の話を聞くと、みんなは重い気持ちになった。
しかしこれを受理しなければ、ツグミの言うように先には行けない。
(皆で一緒に行きたかった)
瑠璃は自分の無力さに唇を噛む。重苦しい状況で、更に深刻な事態にキリカが気づいた。
「ツグミさんが解雇されてしまったら、側近の規定人数が足りない。兄さんが入るにしてもそれは南宮殿に入ってからの事だし……」
桜も口を尖らせる。
「うちも試験受ける申し込みしてしもうたからな。そういう事ならうちが棄権して側近貸してもええと思ったんやけど、瑠璃に反対されてなぁ」
「当たり前だよ。絶対桜は受けなきゃ駄目だよ」
「瑠璃と一緒に受けるとなると、うちの側近の上位四人、一人でも欠けると、うちが南行きやばいっちゅう感じで、貸せなくなってしもうた。けどな、その事なら心配なくなったで。な、瑠璃」
「うん」
しばらくすると部屋のインターフォンが鳴り、桜の側近と供に見慣れた二人が入って来た。
「マリカさまと久道くん?」
以前に比べマリカは穏やかだった。心身ともに何かが変わったようだった。その傍にいる久道も増々凛々しくなっている。
「お久しぶりです、瑠璃さま」
「マリカさん」
「一時的にうちの久道が瑠璃さんの側近になります。瑠璃さんが南女宮殿に入ってから守さんが晴れて側近になれば、久道はまたこちらに帰ります。そうすれば人数的にも問題ないし、側近はあちらに入って落ち着いてから増やせば問題ないですわ。いかがでしょうか?」
「でも~久道さんに南に入れるだけの資格が……」
ミュートが不安そうな顔をする。
「あら、久道は学年でもトップクラスの成績で、剣道も全国大会で優勝した事がありましてよ。何か文句ありまして?」
「……ございません」
マリカに素直に頭を下げるミュートに、その場にいる皆は笑った。
「僕とマリカさまが話し合って決めた事だ。瑠璃さん達の力になりたい」
「マリカさん、久道くん。ありがとう」
「ん~、アキト。妙に静かで不気味やな。いつもなら真っ先に突っ込み入れてくるやないの。あんたは何も異論はないの?」
ソファの端に座っていたアキトはそのまま軽く頷いた。
【続きは製品でお楽しみください】

 

【シリーズ一覧】

 月灯りの絆 君と永遠に (一)運命に抗う月の男娼【改訂版】

 月灯りの絆 君と永遠に (二)白薔薇の呪縛、兄に溺愛、蹂躙された弟の悲劇

 月灯りの絆 君と永遠に (三)隆二の愛執で監禁される守と、瑠璃に想いを寄せるアキト

 月灯りの絆 君と永遠に(四)守と瑠璃、逃亡と固く誓った愛

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