【書籍情報】
タイトル | 月灯りの絆 君と永遠に (一)運命に抗う月の男娼【改訂版】 |
著者 | かにゃん まみ |
イラスト | 尾張屋らんこ |
レーベル | フリチラリア文庫 |
価格 | 350円+税 |
あらすじ | 近未来を舞台にした長編SFファンタジー。守と瑠璃の恋愛を中心に、隆二と守、アキトと瑠璃の恋愛。その他もあり。 全編通して思い通りにならない想いが多いですが、純愛がテーマです。 BLが中心ですが、同性同士の恋愛に限らず、男女の恋愛もあります。 それぞれの立場の人間が自分の想う人との恋愛成就のために、必死で画策し、ある時は目的のために裏で組んだり人を利用したり……。それらはとても不器用で滑稽ですが、純粋でひたむきでもあります。 |
【本文立ち読み】
月灯りの絆 君と永遠に (一)運命に抗う月の男娼【改訂版】
[著]かにゃん まみ
[イラスト]尾張屋らんこ
本書は2020年2月に夕霧文庫より配信された『 月灯りの絆 君と永遠に (一)運命に抗う月の男娼』を改稿したものです。
登場人物
第一章 月と少年
第二章 アンドロギュノス
第三章 愛しい人よ
登場人物
瑠璃(るり)
月の最下層の住民。地球に憧れている。ドーム内でとある事故が起き、守に地球へ連れてこられた。
神咲守(かみさきまもる)
地球に住む生物学者。植物を愛する温厚な性格で、人を差別しない。博愛主義者。周囲からは変わり者扱いされている。
神咲隆二(かみさきりゅうじ)
弟の守を愛しているが、その愛は幼い頃からの経験により複雑骨折しているため、わかりづらい。
ミュート・モンロー・ファミル(みゅーと・もんろー・ふぁみる)
信仰熱い。神咲家の使用人。料理人。
久実塚来人(くみつからいと)
神咲家の使用人。温厚な性格。
霧宮魅来(きりみやみく)
南女宮殿に住む上級女性。守を愛しているが、自分の思うようにならない上に、瑠璃という存在が現れて瑠璃を疎ましく思うようになる。
李(り)・白蓮(はくれん)
魅来の側近。彼女の意思を常に尊重し、女性を崇拝している。
如月(きさらぎ)アキト
空手家如月流の継承者。成績は普通だが、武道においては右に出るものがいないほど強い。
如月(きさらぎ)ツグミ
アキトの兄。子供の頃の事故で負った大怪我の影響で如月流の跡継ぎを断念、以後勉学に励み優等生になる。
神咲(かみさき)キリカ
神咲家の末っ子。無口で真面目な性格。礼儀正しい。文武両道、フェンシングが得意。
海倉誠一(うみくらせいいち)
瑠璃の担当医。
宮殿の奥深く。生い茂る森の中庭。
二人だけが知っている秘密の白いベンチに、少女と青年が寄り添い座っている。
「ずっとこうしていたい……」
少女は、青年の肩に寄りかかっている。
彼女はエメラルドの瞳で、愛しい側近服の青年の顔を見上げた。
ブラウンの髪の青年は彼女の肩を抱き寄せ、綺麗なブルーの髪の毛を撫でた。
「ずっと一緒だよ」
「本当に?」
「僕らは決して離れない運命なんだ」
髪と同色のブラウンの瞳の青年が、彼女にまっすぐ視線を向ける。
「たとえ誰かから引き離されても?」
「あぁ、僕らはどんなことがあっても必ず巡り合う。そして結ばれる。そこから世界が変わる。それは必然なんだ」
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第一章 月と少年
22世紀に人類は月との間に巨大スペースコロニーを完成させる。
そしてそこから月へ進出し、月には幾つものドームが建った。
移住計画も進み、華やかな月の時代が訪れた。誰も彼もがこぞってフライトし、月はにぎわった。
それから150年程経った2300年。
月での生活が定着すると、人類はその先の星、火星への移住計画に熱気を帯びる。
しかし宇宙開発の発展の代償なのか、人類は別の問題を抱えていた。
出生問題で、女性が産まれにくくなっていた。
あまりの激減に、女性は希少になり、非常に大切な存在になっていた。
女性を奉る精神が勢いを上げ、女性なしでは人類は滅亡することに人々は危機感を募らせる。
今、地球は女帝を中心とした宮殿を設け、各国に点在している。
大勢の男性達は女性の補佐的存在になっていた。
生まれて男とわかると、まず遺伝子を調べられ、能力別に階級がつけられる。
両親の優秀な遺伝子を受け継いだものは、地球や女宮殿で女性の側近として残ることができる。
さらにその中から、知性や体力が高く、家柄の良い選ばれた男が女性と結婚することができた。
逆に両親のマイナス部分ばかりを受け継いだ者や、劣勢遺伝とみなされたものは宮殿外の街や地球外通告を受け、月へ送られる。
女性のプライバシーもあり、優秀な人間以外は親の名は教えられなかった。
男に生まれた以上生き方の選択はできない。
女性の数が減った原因ははっきりとはわかっていない。
女性の人口を増やすため、優秀な遺伝子を残すために、男たちの間には激しい差別階級ができていた。
なりをひそめた月にはかつて建造された巨大なドームがそのまま残されており、それらは地球の制度と同様にドームごとに階級が設けられていた。
下のドームの者は上のドームの者に従う決まりになっていた。
ドームは一番目から六番目まで存在している。第六ドームというところに一人の少年がいた。そこは一番階級も低く、環境も良くないところである。
そこは月にある複数の丸いドームの中で、特に朽ちかけたところだった。内部は薄汚れた町だ。
コンクリートの固まりだらけの殺風景な景色の中に、ひとりの少年が佇み、虚空を睨みつけていた。
(俺は捨てられるために産まれた。貶められ、劣情に溢れた人間の慰めだけのために弄ばれる。心も体も氷塊の人形。
関心がなくなると遊び飽きられて、冷たいコンクリートのごみ置き場に捨てられる。
そして誰からも忘れられる)
何の因果かこの慈悲のない場所に彼はいる。
彼らの住むドームには当然女性はおらず、彼は女性の顔も姿も見たことがない。
女性の情報は、ゴミ山に偶然紛れ込んできた何年か前のモノクロの本に、今にも消え入りそうに薄く印刷された本だけだ。
(全くあいつらは、一番だの二番だのつけるのが好きだ。どうせやつらは俺たちに『お前らは最低な身分の人間だぞ』と言いたいのだろう。俺たちだって好きでここにいるわけじゃないのに……)
少年は唇を噛み締めた。
少年だってこんな最悪な状況にいつまでもいるのは嫌だった。
彼はそのために、懸命に金を自分のマネーカードにためこんできた。
それはもっとも彼が毛嫌いしている方法だ。
しかし、彼はこれでしかお金を貯める方法を知らない。くやしいけれど子供の頃からこれしかできなかった。
そうしなければ彼には飢え死にしかなかった。
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