りんご守の一族

【書籍情報】

タイトルりんご守の一族
著者横尾湖衣
イラスト猫田苺
レーベル詠月文庫
価格200円
あらすじネコ社会に投げ込まれた子犬ハル。自分だけが違うということでいじめられ、悩みます。ある日、ハルはフジタさんに出会いました。フジタさんはりんご園の主です。フジタさんはハルの新しい家族になりました。そのフジタさんのりんご園で、ハルはりんごと子ネコたちと一緒に成長していきます。

【本文立ち読み】

りんご守の一族
[著]横尾湖衣
[イラスト]猫田苺

目 次

「りんご守の一族」
◆嫌われ者のネコの子
◆りんごの花の咲く季節
◆りんご守の一族

「パグと女の子」

 

「りんご守《もり》の一族」

 

◆嫌われ者のネコの子

雪国の冬は、もちろん真っ白。どこを見ても雪が積もっていて、りんご畑も真っ白です。りんご畑をよく見ると、あちこちもこもこと盛り上がった雪の塊が見えます。そのこんもりと盛り上がった雪の塊に見えるのは、りんごの木です。りんごの木は、まるで白いモンスターのようです。
そんなりんご畑の中に、ぽつんと小屋が建っていました。もちろん、この小屋にも雪は積もっています。小さい建物なので、雪に埋もれそうです。
その小屋の中には、ネコたちが住んでいました。そのネコたちの一匹が、春に近い季節にお母さんになりました。ミャアミャアと可愛らしい声が、いくつも聞こえてきます。
しかし、その子ネコたちの中で一匹だけ鳴かない子がいました。実は、この子はお母さんネコが産んだ子どもではありません。誰かが夜中にやって来て、こっそり置いていった子でした。
お母さんネコは、大きなお腹を寄せて今にも死にそうなその子を必死に温めました。そしてミルクをあげました。そうやって元気になった子です。お母さんネコの子どもより数日大きい子は、弟ネコや妹ネコたちと一緒にすくすく大きくなっていきました。

***

雪がとけて、春になりました。りんご畑にある小屋に住んでいたネコたちが、体を動かしに外に出てきました。もちろん子ネコたちも小屋の外に出てきました。はじめて見る外の世界に、子ネコたちはわくわくしています。
その子ネコたちの中に、誰かに捨てられたあの子もいました。他の弟妹たちと一緒に、元気にじゃれ合っています。他のネコたちと違い、耳がたれていました。黒いたれ耳が可愛らしい子で、おもしろいことにお口まわりも真っ黒でした。

春の陽射しは、ぽかぽかして気持ちいいです。りんご畑の下草たちも、すくすく生長していきます。やわらかい緑のクッションの上で、子ネコたちはゴロンゴロンと気持ちよさそうに寝転がりました。黒いたれ耳の子も一緒です。
足元に生える短い草ですが、小さい子ネコたちにとっては頭が緑の中に埋もれてしまうほどです。子ネコたちは、隠れん坊をして遊びました。
「いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう。もう、いーかい?」
オニ役になった黒いたれ耳の子が聞きました。なぜなら、黒いたれ耳の子は、みんなのお兄ちゃんだからです。
他の子ネコたちは、隠れる場所を探すのに必死で、誰も返事をしませんでした。黒いたれ耳の子は、もう一度大きな声で言いました。
「もう、いーかい?」
今度はあちこちから声が聞こえてきました。
「まだだよぉー」「もう少し待ってぇ」
たれ耳の子は心の中で、また十秒数えました。
「もう、いーかい?」
「もぉいいよ」
そう答える子ネコたちの声が、あちこちから聞こえてきました。たれ耳の子は、弟ネコと妹ネコをさがし始めました。クンクン、クンクン。たれ耳の子は、鼻でにおいをかいで探します。「あっ、コトラのにおいはこっちだ」「このにおいはマダラだ。マダラはあっちだな」においがする方向へ、たれ耳の子は風のように走ります。そして、次々と弟ネコと妹ネコを見つけていきました。
最後に見つかったのは、タマとハナでした。タマとハナは特に仲良しで、一緒に隠れていました。
「チェッ、つまんねーの」
タマが言いました。そして、タマは他の兄弟たちの顔を見回しました。
「みんな、だらしないなぁ。あーあ、ばかばかしい。もうやめ、やめだよ、やめ!」
そうタマは言うと、おとなしいハナを連れて小屋の中へ入っていきました。たれ耳の子は、しょんぼりとしてタマとハナの後ろ姿を見つめました。

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