幻の伝統料理

【書籍情報】

タイトル幻の伝統料理
著者横尾湖衣
イラスト
レーベル詠月文庫
価格200円
あらすじ貧しい暮らしをしている母娘。母親は、いつも我慢させている娘に美味しいものを食べさせてあげようと、ある料亭を見つけて出かけました。
その料亭はとても立派で、出てくる料理は美しい上にどれも美味しいものばかりでした。
母娘はその料理を堪能しますが、妙な風習にも出くわしました。料理を食べ終わると、娘はトイレ行きました。そのトイレを出ようとしたとき、娘は女将たちの話を偶然聞いてしまいます。その話を聞いた娘は……。

他二編収録。

【本文立ち読み】

幻の伝統料理
[著]横尾湖衣

目 次

― 目次 ―

 

片吟神事《かたぎんしんじ》

あれは風薫る五月の、ある晴れた日のことでした。
とても気持ちの良い日で、私はふと散歩にでも出かけてみたくなりました。そうして、ふらっと散歩に出かけたのです。目的もなく出かけたものですから、気の赴くままに歩いて行きました。
空を見上げますと、ゆっくりと流れてゆく一欠片の雲がありました。私はその雲と同じように流れてみようかなと思いました。
雲を見上げながら歩いて行ったものですから、どこをどう歩いて行ったのか、自分でも全く見当がつきませんでした。だから、ふとどこまで来たのかと気になり、周りを見てみることにしました。
立ち止まって辺りをぐるっと見回してみますと、とても懐かしい景色が広がっていました。そこは、昔住んでいた海沿いの町でした。
「なんでこんな所を歩いているのだろう?」
私は思わずそう呟いてしまいました。
何が何だか、私には訳がわからなかったのですが、取りあえずそのまま散歩を続けてみることにしました。

しばらく歩いて行きますと、いつの間にか神子行列に混じって私は歩いていました。「あれ? こんな所に神社なんてあったっけ?」と、以前住んでいた町の記憶をたぐり寄せてみましたが、思い当たる記憶はありませんでした。
「知らなかった。こんな所に神社があったんだ」
そういえば、私という人間はこんなに小さかったでしょうか? 私は視線が低いところにあるのに気がつきました。なぜ気がついたかと言いますと、私の前を歩く女の子の頭が目の前にあったからです。大人である私は、このくらいの年齢の子どもなら、普通は頭を見下ろしているはずなのです。それが目の前にあるということは、その子の身長がやけに高いか、それとも私が低くなったかのどちらかしかありません。
私は周囲子の子をチラチラと見ました。私の隣を歩く子も、私の前を歩く数人の子も、私のすぐ前を歩く子と背の高さはそれほど変わりませんでした。だから、自分の手を見てみました。幼い手になっていました。どうやら私が幼くなったようです。「こんな不思議なこともあるもんだ」と、私は自分の手を握ったり開いたりしてみました。「普通に動くから、まあいいかぁ」ぐらいで、私は気にも留めませんでした。
そのまま私は神子の女の子たちの列に交じり、前を歩く女の子たちの後をついて行きました。ついて行きますと、小さな洞窟が見えてきました。どうやら祠のようです。その祠の前で神子の女の子たちは立ち止まり、縦二列に整えて並びました。
祠の洞窟の奥の方から、ペンギンの姿が見えてきました。ペンギンが祠の外に出てきます。続いて、そのペンギンに先導されてきた神子の男の子たちが次々と出て来ました。
二列に整列している女の子たちの間を、ペンギンと男の子たちが一列になって通り抜けて行きました。そのペンギンと男の子たちは、その先にある石の階段を下りていきます。
石段を下りた先には海がありました。ペンギンが引き連れている男の子一行は、そのまま海の中に進んで行きました。男の子たちは膝の辺りまで海の中に入りました。
膝の辺りまで入ると、男のたちは一塊になって立ちました。その男の子たちの周りを、ペンギンが円を描いて泳ぎました。ペンギンは円を三周描くと、陸の方に向かって来ました。
そのペンギンの後に続くように男の子たちも、一列になって陸に戻ってきました。ペンギンはそのまま社殿に向かいます。

 

続きは製品でお楽しみください

 

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