お転婆伯爵令嬢は幼馴染の聖騎士に溺愛されていることに気が付いていません!3、謁見は波乱万丈です!篇

【書籍情報】

タイトルお転婆伯爵令嬢は幼馴染の聖騎士に溺愛されていることに気が付いていません!3、謁見は波乱万丈です!篇
著者鋼雅 暁
イラスト庚 あき
レーベルアプリーレ文庫
価格400円+税
あらすじアップルヤード伯爵令嬢アリシア。彼女の特技は剣と馬とダンスと勘違い、そんな彼女もめでたく聖騎士に! 目的地は王城、国王に謁見するだけなのに、アリシアが行くところ行くところ騒動が起きる。際どい装束の変な人たちも現れてどうなる、アリシア(と、リオン)!?
ドタバタラブコメ、分冊版3冊目!

【本文立ち読み】

お転婆伯爵令嬢は幼馴染の聖騎士に溺愛されていることに気が付いていません!3、謁見は波乱万丈です!篇

[著]鋼雅 暁
[イラスト]庚 あき

目次

6,一気に王都へ……行ける?
7,いざ、謁見
8,アリシアの危機
書き下ろしSS

6,一気に王都へ……行ける?

おおむね、嫌な予感、というものはよく当たるのである。
たとえば三年前の豊穣祭の時――嫌な予感がした。
白いドレスに身を包んで豊穣の女神に扮したアリシアを見た瞬間、リオンは自分の嫌な予感が的中したことを悟った。紫の髪に菫色の瞳、形の良い丸い頬を紅潮させたまばゆい光を放つ少女アリシアはまさに、女神だった。彼女の美しさに魅了された観光客が、パレードに押し寄せ大混雑、急遽騎士ギルドに応援要請をかけたくらいだ。
さらに、観光客がアリシアの美しさを方々で吹聴してまわったため、町への観光客が格段に増えた。
町の収入が増える、と喜んだ伯爵とアリシアを前に、リオンは頭を抱えた。アリシア狙いの不届き者も増えたのである。
が、どこか抜けている父娘はそのことに気付いていない。
「アリシアは美しいレディって自覚してほしいんだけど……。アリシアには無理だよねぇ……」
夜な夜な、アリシアを口説こうとする『悪い虫』を蹴散らしながらリオンは大きなため息をついたものである。
「なんか、嫌な予感がするなぁ……」
リオンの呟きにアリシアが首を傾げる。そんな仕草も愛らしく、嫌な予感などどこかへ吹っ飛んでしまうリオンである。
「なんでもないよ、アリシア」
「そう? ならいいの」
菫色のドレスを身にまとった令嬢アリシアと、聖騎士リオンが舞踏会の会場に踏み込むと、すぐにテレジアが駆けてきた。
「アリシアさま、ドレスがとってもお似合いです。騎士姿のときから、なんてお美しい方なのかと思っていましたけれど……まぶしいほどですわ」
「恐れ入ります。テレジアさまも、黒い御髪と赤いドレスのコントラストがとても素敵です」
アリシアがにっこり微笑むと、テレジアが首まで真っ赤に染めて照れた。
「アリシアさまに褒められた……嬉しい、ありがとうございます……!」
「腰から裾への細かな刺繍は――アルストロメリアですね。キレイ。今、この村に咲いていないのが残念です」
アリシアの言葉に、テレジアのみならず、周囲にいたヌヌスの民が嬉しそうな顔になった。リオンにも、ヌヌスの民にとってアルストロメリアという花がとても大切な花なのだ、ということはすぐにわかった。
リオンが意外そうな顔で「アルストロメリアってどんな花だい?」とアリシアに聞く。
「えっとね、ユリの仲間のお花なの。赤とか白、ピンク、黄色……カラフルなお花を咲かせるの。そのお花が長くもつからプレゼントにも喜ばれるのよ」
ね! と、アリシアが言えば、はい、と、テレジアが頷く。
「でね、リオン。花言葉も素敵で『持続』『未来へのあこがれ』色によっては『凛々しさ』『気配り』とか……」
「ああ、なるほど」
花言葉は、ヌヌスの民そのものをあらわしているといってもいい。
「アリシアさま……アルストロメリアは、我が民族が『一族の花』と定めている花でございます。村の紋章としても使っています」
「まぁ! そうでしたか」
「多くの貴族の方々にお会いしてまいりましたが、アルストロメリアをそこまで詳しくご存じだった方は、アリシアさまがはじめてです。嬉しゅうございます」
「わたくし、令嬢らしいお稽古事はほとんど避けてきたのですけれど、お花をアレンジして活けるのが大好きなのです。その時に、自然とお花を覚えました」
アリシアの趣味の一つが生け花だった――ことを、リオンは記憶のかなたから呼び起こした。
「――そういえばいつも、アップルヤード伯爵邸の玄関やホール、食堂、あちこちに立派な花があったっけ」
「ふふ、わたくしが活けたものなのよ」
誇らしげに、だが少しはにかんだようにアリシアが微笑んだ。その笑顔に、リオンは惹きつけられた。
着飾ったレディの計算された笑顔――とは違う。
まばゆい、眩しい――内側から溢れる笑みだろうか。目が自然とアリシアに吸い寄せられる。そう、アリシアには人を惹きつける天然の魅力が備わっている。今回の旅路で、それに磨きがかかったのではないだろうか。
しまった、とリオン思ったときには遅かった。
「レディ、一曲踊っていただけませんか?」
松明に引き寄せられる虫のごとくに男たちが寄ってくる。
「……不覚……」
「リオン?」
リオンは、たちまち騎士の顔つきになった。そのリオンが門番のごとく張り付いていると察した男たちは、ただちに作戦を変更した。テレジアに紹介を頼み、接近することにしたのだ。テレジアも即座に事態を察したが、立場上、正式に手順を踏んでレディの紹介を頼まれたらいやとは言えない。苦肉の策で、アリシアとリオン、二人に男を紹介するという形をとった。
「こちらは、騎士団ギルドのマスター、ファインダー氏です」
「よろしくどうぞ! 綺麗なお姫さまにお会いできて光栄です」
アリシアの手を握ったままのマスターの手を、テレジアがやんわりと外した。
「マスター、酋長の護衛をお願い致します。酋長があまりお酒を召し上がらないよう、気を付けておいてくださいな」
「はい、お嬢さま」
マスターはちらちらとアリシアに熱い視線を送りながら去っていく。
「リオン副団長、アリシアさま、こちらは隣国から避暑にいらしているファンベル王子と部下のイズー大佐です」
二人が交互にアリシアと握手をしたあと、リオンとも握手をした。
ちょうどワルツが流れ始めて、ダンスホールの中央に酋長が進み出た。あ! と、テレジアが慌てたように二人を見た。
「いけない! 我が国の舞踏会では主賓に最初に踊っていただく仕来りなのです。アリシアさま、リオン副団長――お願いしてもよろしいでしょうか」
喜んでお受けいたします、と、二人は声をそろえて即答した。外交儀礼上、断る、などという選択肢はないのだ。
背筋を伸ばしたアリシアの手を取ったリオンが、恭しくエスコートする。
「ほほう……絵画のよう、とはこのことかな……」
と、酋長も思わず目を細める。
ぴったりと寄り添った二人は、異文化の地であっても息の合ったワルツを披露する。
「アリシア――」
「なぁに?」
「いつも以上に、うまいよ。そしていつも以上に綺麗だ」
「リオン、ちょっといつもとテンポが違って大変だわ」
「そうだね、ターンを小さくして……次は一歩をもうちょっと外にしてみよう。……あとで、神々からの特別なご褒美を……」
かぁぁぁ、と、アリシアが真っ赤になった。それでもステップは止まらない。
「リオン――」
「ん? なんだい?」
「そ、その……」
「アリシア、しっかり顔を上げて。多くの人が君を見ているよ。どこの国のどんな奴がいるか、わからない。気を緩めてはいけない」
はっとして顔を上げたアリシアは、口角を持ち上げて笑顔を作った。そのままフロアに視線を送る。

――が、ほんの一瞬、違和感を覚えた。

纏わりつくような視線。まるで観察されているかのような、いやな視線が二つある。
しかしそれを、リオンに報告すべきかどうか、迷った。一瞬でその視線は消えたからだ。
(リオンは何も感じていないのかしらね……?)
いつもと変わらない凛々しいリオンに、レディたちが見惚れている。
「あ、あの」
「アリシア、素晴らしいワルツだったよ」
「リオンのエスコートが完璧だったからよ」
「もう、きみの姿にときめいてしまって……どうしよう? 食べてしまいたいくらいだよ」
「またそんな冗談を……」
「半分本気さ――あとで、アリシアの部屋に行くよ」
「はーい」
ふふ、と微笑みあう二人の姿に会場の温度がほんの少し、上がった。

***

そのころ、舞踏会の会場から二つの黒い影が飛び出してきた。二人はともに小柄で、ころんとした体形をしている。が、その体つきからは想像できないほど俊敏に動く。
「おい、フフ、見たか! あのパラディンたち!」
「見たとも、クク! 俺は女の方を調べて、情報を陛下に持ち帰るぞ」
「合点承知、俺は男の方を調べて、王妃さまにお知らせするぞ!」
フフとククの二人は、楽しそうに笑った。
「国王陛下は美女が好き」
「王妃さまは美男が好き」
公然の秘密であるが、王都で評判の美男美女はあらかた王と王妃のお気に入りである。そのため、国王夫妻の直属の部下である彼らは美男美女を探して国中を旅をしているのだ。
「ふふふ……」
「くくく……」
フフとククの二人は、不気味な笑い声を残して近くに停めてあった馬車へと乗り込んだ。

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