【書籍情報】
タイトル | 激愛 わたしを選んで 最終章 僕は佐穂さんと結婚します |
著者 | 時御翔 |
イラスト | |
レーベル | レグルスブックス |
価格 | 200円+税 |
あらすじ | 実業家の娘・百目木佐穂、高校生。運命が動き出した光堂家のパーティーでは波乱が続いていた。我が子の幸せを願う親心も動いていた!?――シリーズ最終話。 |
【本文立ち読み】
激愛 わたしを選んで 最終章 僕は佐穂さんと結婚します
[著]時御 翔
目次
■神樹の心意黒幕の真意
●9
福望は、父の傲慢さは実に目に余る、と顔を背けながらつぶやいた。その怒りは鼻息が荒れるほど興奮気味に、この場で投打してやりたい衝動にかられていた。
それゆえに、佐穂の愛の言葉に慟哭していた。
周囲の敵意ある女子ですら、佐穂の言葉にかしこまったような顔で感動していた。自分たちにそこまでの覚悟と暮らしの不自由さがあって幸せになれるかどうか、その自信のようなものが欠落していたことに気づいた。
それに福望の理想の家庭像の低さに目を背ける態度をしているのもまた事実で、自分たちの暮らしてきたランクをさげてまで福望という男についていこうとは思っていない。
それが真実で事実でもあった。
「ちっ、偽善者どもが……」春が吐露するように候補者の女子を揶揄した。
佐穂はそんな春の吐き捨てる姿に詫びないとならない。あとで精いっぱいの謝罪と感謝を述べようと思う。
嫉妬したのは佐穂が福望の真意を覗けずに、勝手な判断や思い込みで春を一番に好きだと思ってしまったことだ。
佐穂と春、そして福望は幼少の頃の幼馴染み。佐穂だけの記憶が薄らいでしまい、あの頃の思い出をなつかしむために春という一人の個体を護ろうとしたのは福望が一番好きな佐穂の親友だからだ。
身体能力の面でライバルであるが、花嫁として迎えいれるような感情を持ち合わせていないことは、佐穂が信じなければならないことだった。
だから、一歩前に出て自分の気持を候補者や神樹、福望自身に聞いてもらう機会だと思って声を張りあげたのだ。
一粒の勇気が実ったのは、あの日――福望と一夜を過ごしたからだろう。今日のために枯れずに残されていたのだ。
「それでどうするおつもりですか、神樹様――」
佐穂一人にいい恰好をさせておくのは腹を立てる美夜は、自分こそがこの場のヒロインでなければならない。
それが彼女がこれまで躾られてきた環境である。
神樹が美夜をえらび、福望は佐穂をえらぼうとしている。そして、蚊帳の外になってしまったほかの候補者の容赦ないギラついた厳しい眼光のなかで、光堂家の花嫁は決定されなければならない。
春のことは勝手に神樹が下調べをして、もしやその可能性もあると推察しただけのこと。
早とちりもいいところだった。
「そうだな」神樹が独断で決めようとしても納得できる者は多くはない。
ほとんどが光堂家に不信感を抱いていた。
何を目的としてこのような不始末を解決しようというのか。候補者の女子への配慮、そして気遣いが失われている。
彼女たちを侮辱し、いや、その家族にも不快な思いをさせている。
神樹はどのようにして、この混乱を沈めようというのか。
玲美は冷たい目で烏合の衆の一人となって夫を見据えていた。助けるつもりは微塵もない。
小さな罵声が処々に火の粉が舞うように飛んでいる。
「福望様も納得していない。というより心に決めている相手がいるようだし、それがこの齋明寺 美夜ではないと、本人の顔をみたらわかります。とっても侮辱されたようなもの……いったいいかがお考えがあるのですか? 本当にこの場で婚姻の儀をするおつもりですか――神樹様が何を考えているのかわかりませんことよ」
光堂家頭首を目の前にしても動じないプライドの高い女。
美夜はすでにこの出来レースを最後まで走りきるかどうかは、光堂家親子の返答しだいと考えている。
それは同時にほかの候補者も同様の構えであった。
「んー」顔は自身満々の笑みを絶やさずにいる神樹だが、即答できないのは図星をつかれたからだ。
「そうだな――少々ご歓談といこう、わたしも話どおしで喉が渇いた。皆の者も一時の潤いに浸かり気を休まれよ」
そういって神樹は壇上から降りた。
「父さん! せめて美夜さんの問いに答えてからでも――」
神樹はそそくさと舞台裏への扉を開き出ていってしまった。あとに続くのは柘浦だった。
「コバンザメめ――」福望は憤慨していた。
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【シリーズ一覧】
激愛 わたしを選んで 第一章 幼き日の恋慕
激愛 わたしを選んで 第二章 変わらぬライバル
激愛 わたしを選んで 第五章 光堂家の思惑、引き裂かれる思い