最悪の魔女スズラン part5 彼女の行く先 春舞う花道

【書籍情報】

タイトル最悪の魔女スズランPart5 彼女の行く先 春舞う花道
著者秋谷イル
イラスト秋谷イル
レーベルペリドット文庫
価格600円+税
あらすじオサカでの修行から半年。復活したロウバイに連れられ、今度は南の大国イマリで難題に挑むことになるスズラン。さらに今回は両親やモモハルたちまで同行。ついに彼も神子として試される時が来た。相変わらず脳天気なお子様なのに大丈夫? しかもロウバイには他の思惑もあるようで……。
スズランとモモハルの成長を示し、聖実の魔女ロウバイの過去と願いも語られる第5巻。シリーズはついに折り返し、クライマックスへ向けて走り出す。

【本文立ち読み】

最悪の魔女スズランPart5 彼女の行く先 春舞う花道
[著・イラスト]秋谷イル

― 目次 ―

開幕・彼女の思い出
一幕・南への航路
二幕・イマリ
三幕・彼女の告白
四幕・降臨
五幕・聖実の館
六幕・後継者
幕間・モミジがんばる
七幕・試験開始
八幕・修業の成果
九幕・本当の試練
十幕・直剣、嵐を破る
十一幕・彼女の真意
十二幕・彼女の後悔
十三幕・彼女の花道
閉幕・春風吹いて

 

世界観・キャラ紹介

一幕・南への航路

中央大陸西部の沖合を一隻の白い小型船が滑るように駆け抜けて行く。その姿を目の当たりにした漁師たちは口笛を吹いて称賛した。
「ヒュゥ、すげえ速さの船だ」
「波は穏やかだが、風も弱いのにな」
「風と潮を完璧に読んでる。乗ってる奴らの腕がいい」
若者たちが語り合っていると、年配の船長が舵輪の前から口を挟む。
「あれは『賢者の船』だ」
「は?」
「けんじゃ……って、なんスか?」
「イマリの大賢者って聞いたこたねえか? ずっと南にある大国の王に仕えるお方だ。高名な魔女だぞ。時々あの船で海を渡って来られる」
魔女と言えば空飛ぶホウキだが、彼女は船を好むことで有名。急ぎの用でもない限り海路で移動するらしい。
「見かけても失礼の無いようにしろ。あの方はアイビー様の愛弟子でもあられる」
「アイビー様の?」
「はあ……そりゃ尊いお方なわけだ」
最初の神子アイビー。彼女の経営する会社がオサカを拠点にしていることもあって西部の人々はとりわけ強い畏敬の念を抱いている。なれば当然、彼女の弟子にも敬意を払う。
元海兵の船長が遠ざかっていく船に向かって敬礼すると、船員たちも作業の手を止めて彼にならった。
やがて船長は呟く。
「久しぶりだな……」
以前はあの船をよく見かけていた。だが、ここ一年ほどは全く見かけなかった。そのためロウバイの身に何かあった可能性を案じていたものの杞憂に過ぎなかったらしい。
(船旅を楽しむゆとりも無いほど、お忙しかったのだろう)
安心した彼は漁の再開を促す。
「網を上げろ! あの船を見ると縁起がいいんだ! また大漁にちげえねえぞ!」
「おう!」
てきぱき作業を再開する漁師たち。
不思議なことに本当に豊漁となり、彼らは『賢者』に対する畏敬の念を深めた。

山暮らしには馴染みの薄い潮風が吹く。この季節にはまだ冷たいそれを浴びつつ、大きな帆を見上げる少女が一人。
「はぁ……本当にすごい」
漁師たちが見た船の甲板にスズランは立っていた。上は青いシャツで下は白いズボン。珍しくスカートでないのは風を警戒していたから。でも予想より弱かったその風にセミロングの髪を揺らされつつ、引き続き頭上の光景を見上げる。
「どうやったらあんな風に……」
「そんなに凄いのかい?」
問いかけて来たのは養父カズラ。いつもどおり焦げ茶の髪に整髪料をつけて丁寧に整え、服装も白シャツ黒ズボンに茶のジャケットで紳士的に決めている。
娘の視線を辿り同じ場所を見上げてみた彼の目には特別なものは何も映らない。風を受けて広がった帆とそれを支える柱があるだけ。
いや、不思議なことが起きているのはわかるのだが、どのようにして行われているかまではわからないのだ。魔力を持たない者に魔法使いと同じ光景は見られない。
スズランの目に映っている景色。それは何百本もの魔力の糸が船中に張り巡らされ、熟練の船員たちさながらに船を操る光景。正確で精密でなおかつ有機的。船全体が一個の生命体になったかのよう。あれらの糸は筋肉で神経で血管。
信じがたいことに、あれを為しているのはたった一人の魔女。だからこの船には船員が乗っていない。
「ロウバイ様は想像以上だよ……」
昨日からずっと眺めていてもまだ飽きない。あの糸は繰糸魔法という術で生み出されている。最近になってスズランも覚えた魔法。
同じ術を使えるからこそよくわかる。自分とは練度が段違い。別次元と言った方がいいかもしれない。
術者の名は『聖実の魔女』ロウバイ。善の三大魔女の一角に数えられ、七大国の一つイマリに仕える側近。王の信頼厚く近隣諸国からも頼られ慕われている彼女を、人々は『イマリの大賢者』とも呼ぶ。
賢く人気者なだけでなく戦っても強いらしい。実際、技量の面だけを見ても匹敵するのはゲッケイとアイビーくらいだと思う。これで全盛期には遠く及ばないと言うのだから参ってしまう。
差を見せつけられため息をついていると、そのロウバイがたおやかな笑みを浮かべて近付いてきた。
「スズランさんなら、努力次第でわたくしより優れた使い手にもなれましょう」
蜂蜜色の髪と青い瞳を持ち長身でグラマラスな体型。見た目は妙齢の美女である。白を基調に金糸で装飾が施された華麗なデザインの法衣を着ている。敬虔な三柱教徒でもある彼女は故郷の大司教も兼ねていたのだとか。なので三柱教上層部にも顔が利く。
ちなみに、どう見積もっても二十代後半のその容姿に反し、実年齢はすでに六十近い。
とはいえ、見方によっては生後間も無いとも言えるだろう。今の体は本来の彼女のものでなく、錬金術によって培養されたホムンクルスなのだから。すなわち人工生命体である。
――昨年夏、スズランの宿敵『才《さい》害《がい》の魔女』ゲッケイの罠にかかって傀儡と化したロウバイはココノ村を攻撃した。その時の戦いで本来の体は失われてしまい、代わりの体をビーナスベリー工房とスズランの親友クルクマが協同で造り出したのである。
霊魂はゲッケイの支配に抵抗し続けたことが幸いしてココノ村近くの森に留まっていたそうで、スズランとモモハルの資質を測るべく訪れたアイビーが見つけ出し回収した。
魂を新しい肉体に定着させ目覚めさせる段階ではスズランも協力している。彼女の祖先マリア・ウィンゲイトは魂を司る神で、神子の彼女はその力の一端を操れるのだ。
(生前のお姿は知りませんけど、アイビー社長曰く外見の再現は完璧にできたとか)
陶器のように滑らかで白い肌も聞いた者の心を和ませる柔らかい声も本来の肉体そのままだそうな。元の彼女の細胞をホムンクルスの素体に埋め込み同化させたおかげ。
けれど魔力だけは再現できなかった。魔力は魂から生まれる力なのでロウバイの霊魂を定着させたこの体でも魔力量や回復速度は同じ。反面、出力は大幅に低下している。ゲッケイですら匙を投げたというこの問題は工房の技術者たちにもやはり解決できなかったらしい。
スズランには、その事実こそ最も恐ろしい。再び操船に使われている数百の魔力糸をちらっと見る。
(弱っていてこれですもの……)
出力が大幅に低下したと言っても、元が強いので並の魔法使いの三倍程度はあるそうな。そして制御の難しい魔力糸を数百本同時に操作して複雑な作業をこなす技量。ついでに会話までしてのける。自分ならあの十分の一の数でもお喋りする余裕など無くすだろう。それほど繰糸魔法は難しい。
もし戦うことになったら……想像して唾を飲むスズラン。今の弱体化した彼女でさえ正直勝てる気がしない。
緊張した面持ちの少女に対し、ロウバイは変わらずたおやかな笑みで応じる。
「そう身構えないでください。たしかに簡単な試練にするつもりはありませんが、だからといって敵でもないのです」
「それは……わかっていますけど……」
スズランは過去に二回ロウバイと対峙している。一度目はゲッケイの傀儡として動いていた時。二度目はホムンクルスの肉体を得て復活した直後。繰糸魔法を伝授してもらいたくて教えを請うた。
初対面では敵対関係だったし、二度目の時にも疑いの目を向けられ心の中を覗かれる試験を受けた。しかも短期間で繰糸魔法を習得するならこれしかないと精神世界の中で厳しくしごかれ、軽いトラウマになっている。優しげな風貌でありながら、この賢者は実は厳しい。
――ロウバイ側もそんなスズランの心情を酌んで距離を置いていたのだが、そろそろ頃合いと見て話しかけたところだ。出港から二日、故郷へ着くまでに少しばかり打ち解けておきたい。
「波が穏やかで風向きも良好。この調子なら、あと二日でイマリに着くでしょう。それまでにもう少し互いを理解しませんか?」
「スズ、お父さんもそうすべきだと思うよ」
同意するカズラ。昨年夏から秋にかけてのオサカへの遠征とは異なり、今回の旅には彼とカタバミも同行している。その方がいいとロウバイに招かれたからだ。
さらには彼らだけでなく――
「ロウバイ様、お昼の支度ができました」
「スズとおじさんもきて!」
「さめちゃうよ!」
レンゲにモモハルにノイチゴ。宿屋の一家が船室に繋がる扉を開けて手招きする。今回は彼らまで一緒。
理由は+モモハル+。スズラン同様、彼もついに『神子』として試される時が来た。
行き先はロウバイの故郷イマリ。砂と岩に囲まれた過酷な環境でありながら大陸七大国の一つに数えられる国。
今回は、その王に神子と認めてもらうことを目指す。

――数日前、ココノ村を訪れたロウバイはスズランの家のリビングに通され対面する形で席に着くと、驚くスズランとその家族に対し来訪の目的を語った。
「アイビー様より、スズランさんの指導役を仰せつかりました」
「アイビー様から?」
「ええと、失礼ですがアイビー様とは、どのようなご関係で?」
ロウバイは有名人だが、イマリという国は大陸の反対側にあり、スズランの養父母カズラとカタバミは魔法使いの世界についても詳しくない。そのため彼女の言葉に疑いを抱いた。
しかし「失礼しました」と言ってロウバイが改めて詳しく身分を説明すると、二人とも表情が変わった。
「イマリの大賢者って……あなた、もしかして……」
「うん……」
「?」
眉をひそめるスズラン。どうやら両親はロウバイについてなんらかの知識を持っていたらしい。ただ、聞いた話のその人物と目の前の女性が結び付かなかっただけのようだ。
(若々しいお姿ですしね)
年齢固定化処置を施した魔法使いにはよくあること。ロウバイもその点は気にせず確認を取る。
「本題に入っても、よろしいでしょうか?」
「あ、すみません」
「よろしくお願いします」
恐縮した面持ちで頭を下げる両親。何か引っかかるものを感じつつもスズランは二人にならって説明に耳を傾ける。
要約すると、こんな話だった。
アイビーたち先達の神子三名は、すでにスズランとモモハルを新たな神子と認めている。教皇以下三柱教の中枢に近い高僧たちも同じ。
よって近い将来、三柱教は新たな神子の出現を公表し、世に広く知らしめるつもりでいる。
「もちろん、ココノ村での生活をお望みでしたら、そのようになさってください。神子の行動を決める権利は神子自身にしか無いのです。ただ、いつまでも秘密のままにしておくことはできません。アイビー様が気が付いたように、秘密はいつか必ず漏洩する」
であれば早いうちに人々に知ってもらい、不安を解消しておいた方が合理的だ。正式に神子と認められ三柱教の後ろ盾を得れば、スズランとモモハルを狙う不埒な輩への牽制にもなる。昨年の事件のようなことは二度と起こさせない。
ここまでの説明を聞いて両親は喜んだ。
「心強いです」
「うん。三柱教に守ってもらえるなら安心ね」
ところがロウバイは、+ただし+と続ける。
「モモハルさんはともかく、スズランさんの存在を公にするに当たっては大きな問題があります」
「ああ……」
「それは、はい……」
また不安気な顔に戻る両親。二人も、そしてスズランもそこが問題視されることは知っていた。
スズランはヒメツルの実子――ということになっている。実際には娘でなく当人なのだが、どのみち大差無い。彼女へ恨みを抱く者はいまだ多く、その血を引く子が神子だと公表しても素直には受け入れられまい。必ず強い反発を招く。
戦争すら起きかねない。それほどヒメツルが残した禍根は大きく根が深いのだ。
「だからこそ根回しが必要となります」
「根回し……ですか?」
神子や教皇まで認めているのに、これ以上どこの誰を説得したらいいものか。眉をひそめたカズラにロウバイは提案した。
「七王を味方につけましょう」
「えっ!?」
「し、七王?」
耳を疑う両親。無理も無い、七王と言えば七大国の王。神子や教皇に次ぐ権力者。それぞれが周辺諸国と密接な関係にある束ね役で、場合によっては三柱教以上の発言力を有している。
一方スズランは、ついに来たと背筋を伸ばす。
(あれから半年。社長の厳しい性格を考えると、むしろたっぷり時間をいただけましたね……)
彼女はオサカでの修行中に同じ話を聞いている。七王を抱き込むこの企みはロウバイでなく共通の師アイビーの発案。
(たしか、ロウバイさんの国とミヤギは味方につく公算が高いと……)
七大国と呼ばれているが、その一つは実際には国家でなく多数の魔法使いを擁する『魔法使いの森』のことである。なので、その森の管理者アイビーもまた七王の一人に数えられている。
彼女で一票。予想通りイマリとミヤギが支持してくれれば、その時点でさらに二票。だから最低でもあと一人をこちら側に引き入れ過半数の票を獲得したいと言っていた。
そして、この計画の要になるのがイマリ王だとも聞いた。公明正大で文武両道。極めて高いカリスマ性を誇る彼は他の七王からも信頼されており、彼さえ説得できればミヤギ王以外にも一人はこちらにつく可能性が高い。
ロウバイはそんな師の考えを引き続き代弁する。
「七王のうち四人以上の支持があれば、大陸の半分以上の国々も味方になります。そうなれば三柱教内部で燻っているヒメツルへの恨みも抑え込めるはず」
「な、なるほど」
「そこで、ご両親にも協力していただければと思っています」
「あたしたち?」
「それは、どういう……」
ようやく話を飲み込めて来たところで予想外の招聘。再び驚く養父母。これにはスズランも驚かされる。
「お父さんとお母さんも?」
「はい」
もちろん理由は説明された。
「スズランさんの人格とそれが形成された過程を語る上で、育ての親であるお二人の証言もいただきたいのです。彼女が育ったこのココノ村の代表という形でも、ご同行いただければと」
「あ、なるほど……」
「そういうことでしたら、はい。行きます」
娘のためならばと承諾する二人。何よりもまずスズランの身の安全を確保して自由に外の世界へ出て行ける権利も与えたい。それは彼ら夫婦の共通の願いだった。
「ありがとうございます」
「いえ、僕たちもこの子には、より多くの選択肢を与えたいので」
「村に残って欲しいし本人もずっとここに住むと言ってますけど、まだ子供ですし、大きくなったら気が変わるかもしれません」
苦笑し、間に挟まっている我が子の頭を撫でるカタバミ。スズランは唇を尖らせて否定する。
「ここに住むの」
そして両親の腕を掴み、両方自分に引き寄せた。
そんな家族の姿を見て目を細めるロウバイ。
「素晴らしいお考えです」
優秀な教育者としても知られる彼女に褒められ、両親は照れ臭そうに笑う。
「いや、そんな……」
「恐縮です」
――その後、ロウバイは宿屋の一家にも同じ説明を行った。モモハルは特に何もしなくとも神子と認められるだろうが、スズランのため協力して欲しいと。
当然のようにサザンカたちも二つ返事で了承。
結果、雑貨屋と宿屋の両家族は初めての家族旅行へ出発した。しかも国外旅行で旅費はロウバイの負担。
なので、実は結構楽しんでいたりもする。

【続きは製品でお楽しみください】

 

【シリーズ既刊紹介】

最悪の魔女スズランシリーズ本編『part1三悪集いし小さな村』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『 part2 夏の雪解け 秋への旅立ち』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『part3 故郷を想いて歩む秋 三つの試練と再会の紅葉』

最悪の魔女スズランシリーズ本編『Part4 冬の始点 孤独の終点 』

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