【書籍情報】
タイトル | 詩集『詩の花束 ― a Poetic Bouquet ―』 |
著者 | 横尾湖衣 |
イラスト | 猫田苺 |
レーベル | 詠月文庫 |
価格 | 200円 |
あらすじ | 言葉を詩に編み、一編一編の詩を花のように束ねていった詩集。 美しい花を花束にするには、水揚げや下葉取り、棘取りなどが必要。 詩も復然り。 花に当たる詩もあれば、葉に当たる詩もある。 花束は花と葉の調和でさらに匂いたつ……。 |
【本文立ち読み】
※この作品は縦書きでレイアウトされています。
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。
― 目次 ―
・詩
◆「背中合わせ」
◇「白い花赤い花」
◆「昼顔」
◇「おもかげ」
◆「紅花」
◇「戦争写真」
◆「秋雨」
◇「人形」
◆「サーカス」
◇「つくしときのこ」
◆「手仕事」
◇「空き地」
◆「二人静」
◇「小紫陽花」
◆「待宵草」
◇「柿欄」
◆「毛氈苔」
◇「愛地球博」
◆「風鈴」
◇「桜には」
***
◇「君とわたしの相似条件」
◆「ピタゴラスの定理」
◇「水底の村」
・あとがき
背中合わせ
穴が開いたような
感 じ で
毎日が何となく
過ぎ て ゆく
おとずれ が あり
うつろい が ある
紫陽花に
おもかげが
ゆれている
懐かしい気持ちと
いとおしい気持ち
知らなかった
淋しいと恋しいが
背中合わせだったなんて
(初出「玉鬘」第二十八号)
◆◇◆
白い花赤い花
白い花も
赤い花も
どちらもきれい
白い花も
赤い花も
両方とも好き
白い花は
赤い花の気持ちを知らない
赤い花も
白い花の気持ちを知らない
白い花も赤い花も
別々のものだから
白い花も
赤い花も
それでいい
でもわたしは……
思いやりという言葉の重さ
白い花と赤い花を活けながら
気持ちを考えてみる
花の気持ちはわからない
推し量ることはできても
白い花と赤い花
窓辺の風にゆれている
(初出「玉鬘」第二十八号)
◆◇◆
昼顔
知らなかった
昼顔がこんなに朝早くから
咲いているなんて
橋の上でそんな声がした
きっと昼顔は
日中の薄桃の花が印象的で
昼の顔となったのだろう
あの生命力の逞しさ
真夏の日中の暑さに負けず
やさしい姿で
ときどき風にゆれている
小さく首をふるように
(初出「HP(閉鎖)」)
◆◇◆
紅花
紅花は
オレンジ色のような花
なぜ紅なのだろうか
朝露を含んだ紅花を
摘む娘たちの手が傷ついて
花にその血の色が
滲んだためだとかという
紅花には鋭い棘がある
摘まれた紅花は
紅餅となって京へ送られる
そこで紅屋の手によって
真っ赤な紅へと生まれ変わるのだ
京女の唇を鮮やかに彩り
美しい衣装を染め上げる
紅という
神秘的な色の美しさ
いつの時代でも
女性のあこがれの色だろう
「紅一匁金一匁」
紅花を摘む
娘たちとは無縁のものだった
京の娘は唇に
紅花を摘む娘は指先に
はるか遠くエジプトの方から
シルクロードを経てきたという
紅花の歴史を思いながら
紅花をひとつもんでみる
(初出「玉鬘」第二十九号)
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