掌編集 流星マエストロ

【書籍情報】

タイトル掌編集 流星マエストロ
著者山田太朗
イラスト彩華
レーベル詠月文庫
価格200円
あらすじ誰かが見つけるショートショート集。タイトル先行で書いた掌編たち。ある意味エピタフ。そこに刻んだ銘は「tu fui ego eris」あたり――掌編3篇を収録。

【本文立ち読み】

掌編集 流星マエストロ
[著]山田太朗
[イラスト]彩華

目 次

黄昏ユニオン
群青コントレイル
透明ヒロイン

 

黄昏ユニオン

――我ながらベタだよなぁ。
そう思いながらぼくは軋む音を出す扉をしっかりと閉める。
どこにでもありそうな、ビルの屋上。仕事の帰りに何となく入り込み、何となく屋上に向かい、何となくドアのノブを捻るとびっくりするほどあっさりと開いた。たかだか十階建てのビルなのだが、周りに同じくらいの建物がないので、思ったよりも綺麗に夕日が見えて何故か泣きそうになったので笑ってしまう。泣きながら笑うというのは、これがなかなか難しいものでちょっとした技術が必要なのだ。
そんなベタな青春ごっこを一人でしていると、これもまた何となく、寄りかかっていた手すりを乗り越え、下を見た。思ったよりも高い。当然、ここから落ちてしまえば何かを考える前にこの世界から消えてしまえるだろう。
不思議なことに死んでもいいかなという気持ちになってくる。
断っておきたいのは、ぼくは別に死にたいとか思っていない、ってことだ。仕事は順調だし、来年には付き合っている彼女と結婚もする。
いや、足から落ちてミニチュアのように見える植木に飛び込むことが出来れば命くらいは助かりそうだな、などと益体もないことを錆びが浮いた手すりに寄りかかりながら考えていると、扉が開く音が聞こえた。身体が震え、その拍子に落ちてしまいそうになり心臓が暴れまわる。
そんなぼくを、制服を着た少女が眉根を寄せて見つめている。何故、こんなところにいるのか? というのが半分、残り半分はへっぴり腰で柵にしがみついているぼくを嘲あざけっている。読心術の心得はないが、何となく理解できた。
それはそうと、制服――そう制服だ。短いひだスカートに、それと同色の紺色をしたブレザー。臙脂えんじ色をしたタイが控えめな胸元におさまっている。左胸には、何かをモチーフにしているであろうエンブレムが縫い付けられている。どこかの高校の制服、そう見える。それよりも、彼女が頭に乗せている制服と同じ色をしたニット帽に目がいった。首には大きなヘッドフォン。

「何してるの?」
「そういう君こそ」
「あたしはここから見える夕日が好きだから見に来ただけ」
「じゃあ、ぼくもそういうことにしておく」
「自殺?」
「……そう見えるのにわざわざ言うのって性格悪いと思うよ」
「ふぅん。まあどっちでもいいけど。あたしが帰ってからにしてね」

少女はぼくとは離れた手すりに頬杖をついて、帽子の上にヘッドフォンを乗せた。あからさまな拒絶。まるで儀式かのようにそのまま動かない。目深に被っているニット帽が長い睫毛に触れて、そこから下にはいかないようにしているようだ。小さな顔に似つかわしくない大きなヘッドフォンからは、ぼくが産まれる遥か昔のアイドルが歌う歌謡曲が漏れ聞こえてきた。

「あのさ」
ぼくは、彼女の意思を無視して曲が終わるタイミングを見計らって声をかけてみた。
「何?」
不機嫌そうながらも彼女はヘッドフォンを外してぼくを見る。いや、睨みつける。
「話しない?」
「嫌だ」

そう言うと、ヘッドフォンを付け直し視線を戻す。取り付く島もないとはこのことか。

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