【1月新刊】部室の不思議な扉をくぐったらタイムトラベルがはじまります―行き先は幕末1―

【書籍情報】

タイトル部室の不思議な扉をくぐったらタイムトラベルがはじまります―行き先は幕末1―
著者日南れん
イラスト
レーベルレグルスブックス
価格200円+税
あらすじタイムトラベル講習を受けてタイムトラベラーとなった高校生のあさぎとマコ。
二人でいろいろな時代を巡って楽しんでいる。今回そんな二人が向かったのは幕末。しかしちょっとした手違いからいきなり壬生浪士組の屯所に行ってしまい…!
シリーズ1巻です。

【本文立ち読み】

第一章 あさぎとマコの小さな冒険スタート

 

!PB

午後一番のつまらない授業をぬけだした、あたしと幼稚園からの幼馴染のマコ。
二人揃ってA棟の五階にある吹奏楽部の部室にやってきた。
美術室と音楽室が手前にあって、特別活動室や和室、何に利用するのかよくわからない空き教室を利用した文系の部室が並ぶこの階は、あたしたちのお気に入りだ。
この時間は、どこの教室も授業や活動をやっていないので、本当に地域で一番のマンモス高校なのかと思うほどに、静かだ。
マコが扉を蹴飛ばしつつドアノブをがちゃがちゃとやる。すると、カチリと小さな音がして、錠が外れた。
「よし、あさぎ、入れ」
「相変わらず直してないのね、コレ」
「直したって、オレは開ける。マコさまに開けられねぇ扉はねぇんだよ」
マコの、タレント顔負けの端正な顔に不敵な笑みが浮かぶ。この顔をしたら、マコは絶対にやり遂げるんだよね。
しかし、こんな場面じゃなくてもっと他の場面……例えば勉強とか部活の本番とか、そういうときにこそして欲しい。
そっとため息をつきながらも、あたしは部屋にするりと入る。
これで内側から鍵をかけてドアから離れれば、あたしたちが中に居ることはバレない。
世間では、高校二年生の男女が密室に籠ったらナニをシていたのかと疑われるんだろうけど――残念ながら、あたしたちはそんなことはしない。
この部室には、椅子と机、その他活動に必要な物がきちんと整理整頓されて置いてある。それほど広くはない。けど、二人でくつろぐには十分な広さがある。
壁際に据えられたロッカーには、漫画にお菓子にジュース、そしてちょっとしたお泊りが出来るグッズが常備されている。もちろん、全てマコが無断で持ち込んだもの。
「さて、と……やりますか、マコ」
「おう」
あたしが鍵をかけたのを確認したマコが、それらのグッズをごそごそと引っ張り出した。同じくロッカーの中に置いてあるリュックを引っ張り出して一つにまとめる。
あたしももちろん、同様に。
それぞれ『必要な道具』をバッグにつめて肩にかけると、マコが爽やかに笑った。
「あさぎ、用意はいいか?」
「うん」
「忘れ物、ないな?」
「大丈夫!」
「よし、いくぞ」
マコの日に焼けて茶色い指が壁の一部を探り、ポイントを見つけると軽く指先で叩いた。
ぴょこんと飛び出てくる、取っ手と小さなタッチパネル、そしてモニター。
ウィン、と小さな音がして目の前にシルバーの扉が出現する。その扉をくぐって、エレベーターのような箱に入る。
何やら機械に全身スキャンされ、タイムトラベルをしても大丈夫かチェックされる。

――オールクリア、モニターで注意事項を確認後、目的地を設定してください

アナウンスが流れ、画面が切り替わる。
それを、繊細な手つきで操作しながら、マコが心底嬉しそうな笑顔をあたしに向ける。
「あさぎ、今日はどこ行きたい? あー……ヴィクトリア朝と大航海時代、平安時代はダメだ、満員」
いったい、何人タイムトラベラーがいるんだか。
「そうねぇ……戦国時代は、織田信長怒らせたところで逃げてきちゃったんだっけ」
「そういやそうだったな。うーん、あっちはオレらを忘れてるけど、オレらはなんとなく気まずいんだよな。あっちで死ぬことはないってわかってても、やっぱ信長は恐ろしいよな」
「だよねぇ」
目を剥いて刀を抜かれたときの恐ろしさといったら筆舌に尽くしがたい。部屋の温度が一気に下がったとか、血の気が下がる音がするとか、そんなことを感じるゆとりもなかった。
マコと二人でこけつまろびつ逃げ出して、わけも分からず安土城の中を駆け回って、たまたま飛び込んだ部屋が、濃姫の部屋だった。
濃姫は時代と時代を繋ぐ『時空の回廊』を管理している『タイムキーパー』の一人だから、安土桃山時代で困ったときは彼女の元へ行けばいい。
案の定、濃姫はすぐにあたしたちを現代へと転送してくれたため、事なきを得た。
「んー……マコはどっか気になる時代《とこ》、ないの?」
「先週行った戦国時代でさ、瀬戸内で海戦あったよな。あれどうなったかな」
「ああ、あたしたちがうかつに浚われたから、海賊同士の戦になっちゃったんだっけ」
「そうなんだよ。歴史書のどこを見てもそんな戦いの事載ってないからさぁ……」
ちなみにあたしたちは、小勢力の若様夫婦という設定で戦国時代の海辺の生活というものを楽しんでいた。傍観者としてその時代を訪れた――はずだったのに。
釣り舟が転覆して海に投げ出されて、気がついたら海賊に攫われていた。
「まさか勘違いから人質にされちゃうとはねぇ……」
互いに、間者を送った送らぬ、そんな人物は知らぬ存ぜぬの言い争いから海戦に発展し、ブチ切れた海賊のお頭があたしたちを海に突き落としたため、緊急避難的に現代に連れ戻された。
戦の結果が知りたくて、こっちへ戻ってきてすぐ歴史の教科書を開いてみた。けど、どこにもそんな記述はなく、あらゆる歴史書をひっくり返しても、小勢力の若夫婦をめぐっての海賊同士の戦なんて、どこにもなかった。専門家に聞いても、返事は同じだった。
ついでに、あたしたちの目の前で死んだ海賊の大将が、後に大名になっていた。
つまりあの海戦は、『歴史の流れ』が強引に『なかったこと』にした戦というわけで、現代に居る限り、戦の顛末を知ることは出来ない。
けど、自分が死に掛けた場所へもう一度行きたいとは、正直思えない。それは、マコも同じらしい。
「あ、オレさ、幕末へもう一度行きてぇな」
「ああ、新選組?」
「おうよ。あさぎはどうする? 新選組、オレは男だから面白ぇけど、女だとつまんねぇんじゃねぇか?」
「そんなことないよ? もしかしたらあたしだって新選組に入れるかもしれないじゃん。いろんな時代に行ってる間に、なんだか滅茶苦茶、剣が強くなっちゃったし。明治維新をリアルに見るってだけで楽しいでしょ。それにさ、誰かのオンナになるってのも面白そうだしね!」
「オンナ? って恋人のことか?」
「……まぁね。ただのオンナで居る気はないけどさ。あたしの会いたい相手が相手だし……」
よくわかんねぇがたくましいな、とマコが笑う。あたしもマコに笑いかえす。じゃあ幕末で決定な、と言いながらマコの指が華麗に動く。
すぐにモニターに、時代説明と警告が出る。
もっとも時代説明なんかなくても、ちっとも困らない。タイムトラベル先では何をやったって構わない。歴史が大きくゆがむことはない。各時代に配属されている『タイムキーパー』が強引に修正するし、彼らの手に負えないときは『歴史の流れ』が干渉する。
ウィン、と小さな音がして、真っ黒な扉が目の前に出現する。マコが勢いよくそれを左右に押し開く。
「さって、行くぞ!」
「うん」
マコが飛び込むのにあたしも続く。
この瞬間、現代の時間は止まる。あたしたちが、この時代へ戻ってきたとき、再び動き出す。ホントによく出来てる。このタイムトラベル。
「マコ、今回のトラベルの対価はなに払ったの?」
タイムトラベルには、当然、対価が必要だ。何か、自分の持ち物を一つ『歴史の流れ』に渡すと宣言すればいい。
それは、現金でもいいし、物でもいいし、なんなら「数学のテストの点数」などでもいい。
「……ミサキとのデート一回」
「はぁ!? また!? これで何回目?」
ミサキというのは、マコが去年の文化祭で告白されて付き合い始めた隣のクラスの子だ。
一年生の時から美少女として有名だった彼女は、同じく入学してすぐイケメンだと話題になったマコをターゲットにしたらしい。
彼女はせっせとアタックし文化祭で派手に告白し、マコは(半ば周りに押し切られた形で)承諾し、付き合うようになった。
「ミサキちゃん、マコにベタ惚れじゃん。大事にしなきゃ……」
「オレはぁ……メスの塊みたいな女子は苦手なんだよ」
メスの塊……!? なんじゃそら!
そうこうしているうちに、エレベーターが微かに揺れた。

――時空の回廊に接続しました。揺れるのでバーにお掴りください

ぐるぐると回転するこの空間が、時空の回廊だ。回転したあとは、暗闇を駆け抜ける。
そしてあたしたちの行き先は。
幕末の京都。

――到着しました。よい旅を!

【続きは製品でお楽しみください】

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