ぼくの彼女は人造人間―神々の陰謀―


【書籍情報】

タイトルぼくの彼女は人造人間―神々の陰謀―
著者水城優
イラストi-mixs
レーベルペリドット文庫
価格500円+税
あらすじ二十二世紀末、人類の環境汚染によって、絶滅に瀕している亜種等(人間以外の種の総称)たち。彼らは、生き残りをかけて神々に新たな救世主を求める。神の命によって召喚された天を衝く怪物トールマン(長身族)が人類粛清に動き出す。時を同じくして、狂気の科学者ドクターΣによって生み出された世界最強兵器、人造人間ΣI号も秘密研究所で覚醒する。
最大の見どころは、人類に替わる種として、対峙する両者の攻防戦が最大の見どころです。
物語自体はかなりシリアスですが、人造人間ΣI号を取り巻く人間関係を、ときにはユーモアを、ときには切なるない思いをちりばめながら作品に深みを与えて行きたいです

【本文立ち読み】

ぼくの彼女は人造人間―神々の陰謀―
[著]水城 優
[イラスト]i-mixs

目次

プロローグ
一章  過去の記憶
二章  マドカトラズの監獄
三章  神々の刺客
四章  潜入
五章  世界を滅ぼす少女
六章  思い出の地へ
七章  召集令状
八章  神の刺客 対 世界最強兵器
エピローグ

プロローグ

種族間による死闘の末、永きにわたり食物連鎖の頂点に君臨し続けた種族がいた。この星(地球)では、総称して覇者(人類)と呼ぶ。
風は、種に新たな息吹を吹き込む。
水は、渇きを癒し、命を紡ぐ糧となる。
火は、闇夜を照らし、癒しと温もりを与えてくれる。
大地は、命が生まれ、いつしか帰るところである。
そう、この星にあるすべてのものは、あらゆる種に平等に分かち合わねばならないのだ。
それが今ではどうであろう。
産業革命を経て急速に発展してきたこの世界では、工業化の進展や自動車の普及に伴い、街の大気は汚染され、伐採された森林地帯では酸性雨が激しく降りしきる。
また大地や海に目を向ければ、窒素やリン、有機物を原因とする富栄養化で、土壌や水質は自浄作用の域をはるかに超え、汚染にまみれていった。
そして二酸化炭素を主とする温室効果ガスの爆発的な広がりは、両極の永久氷壁を融解し、海面温度は上昇の一途をたどっている。
こうした覇者による『開発という名の度重なる侵略行為』によって、生き物たちは住処を奪われ、育まれた命の灯までが吹き消されようとしている。
二十世紀末で一千万種類近くいた種もこの二百年たらずの間でその大半が絶滅に瀕している。
例えば、ピンタ島のゾウガメ、西アフリカのクロサイ、カリブのモンクアザラシ、ピレネーのアイベックス、セントヘレナ島のハサミムシその他、数多くの聖なるものたちの命の灯が……。
覇者らの関心事、それは自らの理想郷を追い求めることだけ。そのためには、他の種がどうなろうと構わないのだ。
覇者たちの侵略行為は地上だけに留まらない。
最先端の超科学により、海や地中そして空までもその支配下に置こうとしている。
やがてはこの星を飛出し、その先にも勢力圏を広げていくことになるであろう。
彼らの飽くことのない欲望は、あらゆる種が絶滅するまで蜿蜒(えんえん)と続くのだ。

〝地上を蹂躙する蛮族のためにわたくしたちの命の灯が消されようとしています〟
〝どうか我々を愚かな者たちの手からお救いください〟
〝新たな救世主により、この星の浄化を望みます〟
どの声も切実ではあるが、皆声としては届かぬ心の声ばかり。
この星では彼らの声なき声を聞きとめる者などだれ一人としていないのだ。
だが、しかし……。
「汝らの願い、しかと聞き届けた」
他を圧倒する威厳ある声が覇者を除く、この星の生きとし生けるものたちに響き渡る。
それは天空の彼方より、虐げられた者たちを静かに見つめていた。
〝罪深き種族よ、これより先、汝らの罪業をとくと思い知るがよい……〟
覇者たちはまだ気づいていない。
まもなく、自ら犯した罪業により、滅びの道をたどることになろうとは……。

ここは大都市から離れた郊外にある森の一角である。
この場所は、時間がゆったりと流れていて、忙しい日々の生活から解放してくれる唯一の空間であるといってもいい。
陽光が天高く輝いている。
大地を彩る草花は陽のさす方向へと元気に背丈を伸ばし、美しい花を咲かせている。
空を自由に駆け巡る鳥たちも、ぴよ、ぴよ、ぴよと、のどをふるわせ元気に鳴いている。
吹き抜けるそよ風や流れる川のせせらぎも、自然のハーモーニーを奏でている。
ここでは動物も植物も自然も、精一杯今日という日を生き延びている。
『そうだ。ここは自然を愛する者たちにとっての最後の楽園なのだ』
今そこに、一人の少年が緑あふれた小高い丘の斜面にその身をあずけている。
年のころは十八歳かそこらであろう。肌の色は白いほうだが、純粋な白ではなく、この星では東洋系の人種にあたる。髪は赤みがかかった茶髪、目鼻立ちは整っている。
だが木製の、大きな丸縁眼鏡をかけているせいで、遠目からみると、年より一つ、二つ幼く見える。
背丈は一七〇センチ前後であろう。身体つきは筋肉質というよりかは、学者のように小柄でこぢんまりしている。
少年の名は南条サトルという。
彼はある特殊能力をその身に宿している。
万物の声が聞きとれるのだ。
目をつむっているようだが、眠ってはいない。
意識を一点に集中すると、周りからいろんな声が流れ込んでくる。
最初は彼が身をあずけている草たちからこんな声が聞こえてきた。
〝どうだい、草のじゅうたんの寝心地は?〟
「ぼくの身体を優しく包み込んでくれていてとっても心地いい。それでいて新芽のほのかな香りも気分を落ち着かせてくれる」
サトルは思ったことを言葉で草たちに伝えると、一言お礼をいった。
次に、空たかく飛び交うひばりたちに話しかける。
「ひばりさんたち、さっきから三コーラスも美しい声で歌ってくれてどうもありがとう」
〝へえ、きみって不思議だね。覇者なのに、ぼくたちの話す言葉がわかるんだね。不思議だねえ、とっても不思議〟
彼は生物以外の声も聞き取れる。
「小川さん、さっきからきれいなせせらぎと優しい川のにおいを届けてくれてありがとう」
半身を起こすと、そばを流れる小川にもペコリと頭を下げた。
この万物の声を聞くことができる能力は、この少年の生まれつきの能力ではない。
彼は十八歳になるまでいくつかの悲しい別れを経験している。
最初は七歳のとき、妹のユリを病気で、その五年後、海上事故で大好きな両親を亡くしている。
死とは、サトルにとって決して遠いものではない。
むしろ身近な存在といってもいいであろう。
人の死、特に近親者の死を目の当たりにすると、たいてい激しい頭痛におそわれ、ある声が心の中に流れ込んでくる。
〝あなたもどう、皆のところに逝きましょうよ〟
心の声は、善ではない。といっても完全なる悪ともいえない。
何者かがサトルの意識に入り込み破滅へと導こうとしている。
すると、何かの呪文にかかったように自ら命を断とうと行動する。
入水自殺、飛び降り自殺、首つり自殺……。
数えたらきりがない。
死の直前、これも決まってどこからともなく別の声が聞こえてきて、サトルを救わんと呼びかけてくる。
〝主よ、死んではいけない。あなたは生きてこの時代を見届けなければなりません〟
その声は死を留まらせ、生きるようサトルに強く訴えかけてくる。
何者かは心の中から消え去り、気づけば見知らぬ場所にただ一人で佇んでいる。
当時のサトルには、死を誘う者の声や自分を救ってくれる者の声の正体は分からなかった。
その後、解明の糸口をつかもうと、領立アカデミーで生物学、自然学、心理学、生理医学、宗教学など学び、ついに自分を救い、導いてくれるこの不思議な声の正体がなんであるのかを突き止めた。
それは自然界に存在する万物の声であった。
だが、常人には聞き取れない声がなにゆえ自分だけには聞こえるのかは今をもってしても謎のままである。
破滅へと導く声については、両親の事故死以後、サトルの中に現れることはなかった。
当然、覇者の中でこの種の能力を持つ者は異端児とされており、もしもその存在が明らかとなれば、政府の管轄する研究施設に送られ、希少性の高い実験生物として利用される公算が高い。だから少年も人前ではこうした発言は慎むようにしている。
ただ、隣でいぶかし気に少年を見つめている相棒を除いては……。
「サトル、わかっちゃいるけど、はたから見るとなんだか不気味に感じるよ。あんたのそれって……」
そうぼやくサトルの相棒は、彼より一つか二つ年上の少女である。ショートカットの金髪にダークブラウンの瞳をもち、その均整の取れた肢体はまるで雑誌のモデルのように見目麗しい。
彼女の名はサッチという。
二人を見れば、仲の良い姉弟のように見えるのだが、実はそうではない。
彼女は、妹ユリとの別れに際して、落ち込むサトルのために両親が買い与えた人工生命体であった。
二十二世紀初頭、アーミーフレンドと呼ばれる友だち用のアンドロイドが販売された。
それは従来のロボットとは異なり、人間に極めて近い外見と知性を兼ね備えた人工生命体で、自分で考え、行動する。その中でも優先されたのが、所有者の命を守ることである。
これは従来では考えられないことであったが、アンドロイドの中枢神経にあたるMACアイというマイクロチップによって、利他的に所有者の命を遵守するようプログラムされている。
MACアイの機能は、そのほかに無限の愛しみと幸せを際限なく与え続けられることも可能とした。
ゆえにアーミーフレンドは二十二世紀の最大のヒット商品として大流行したのである。
サトルは、テクノピアの工科学専修学校を優秀な成績で卒業し、奨学金を得てテクノピアの最高峰とされるテクノイド工科大にすでに入学を決めている。
その卒業記念にと小旅行を計画しサッチを連れ、祖父母の暮らしていた故郷カントリーに向かう途上であった。
「ごめんよ。ついこう自然と触れ合うと心が弾んで、いろいろな友だちと話がしたくてたまらなくなっちゃうんだよ」
「そういうものかねえ」
サッチが肩をすくめていると、何者かがサトルの心に語り掛けてきた。
〝だれかわしを助けてくれえ……〟
声が聞こえるのは森の北西の方角から、その声から察するに緊急を要するのは明らかであった。ただ、それを感じ取ることができるのはこの場でサトルひとりだけである。
サトルは、草花やひばり、小川に一休みをさせてくれたお礼をいうと、立ちあがり急ぎ踵を返した。
「おい、どこへ行くんだよ、サトル」
サッチはサトルの行動をいぶかしむ。
「この森の北西の方角から、だれだかよくわからないけど助けを求めているんだ。だから今から助けに行く」
そういうと、サトルは公道に止めてある古びた茶色のホヴァーモービルに駆けて行こうとする。
ホヴァーモービルとは、この時代のメインの移動手段で、二十世紀の自動車のようなものである。
見ためはタイヤのない車といったところであろうか。
その原理は、簡単に言うと、磁場を利用し、地面(磁気レール)とホヴァーブースター(自動車のタイヤに相当するもの)にそれぞれ磁石が付いており、反発し合う同極(S極またはN極)を利用して浮かす仕組みになっている。
従来のガソリンエンジンや電気エンジンとは異なり、低燃費で高馬力の出るジェットエンジンを搭載したことにより、時速一五〇~三〇〇百キロの走行を可能とした。
とはいっても、このホヴァーモービルはメカ好きのサトルが廃材処分場からかき集めて造ったもので、性能は新品と比べると可哀そうなくらいお粗末なものであった。

【続きは製品でお楽しみください】

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