月灯りの絆 君と永遠に (三)隆二の愛執で監禁される守と、瑠璃に想いを寄せるアキト

【書籍情報】

タイトル月灯りの絆 君と永遠に (三)隆二の愛執で監禁される守と、瑠璃に想いを寄せるアキト
著者かにゃんまみ
イラスト尾張屋らんこ
レーベルフリチラリア文庫
価格350円+税
あらすじ隆二に監禁され続ける守は魅来に婚約を迫られ、瑠璃は守が誰かと関係していることに傷つき――
シリーズ3巻です。

【本文立ち読み】

月灯りの絆 君と永遠に (三)隆二の愛執で監禁される守と、瑠璃に想いを寄せるアキト

[著]かにゃん まみ
[イラスト]尾張屋らんこ

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※この作品は横書きでレイアウトされています。
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。

愛執

耳元で守が体を震わせ、声を殺して泣いている。
深く深く、俺は温かな守の中に身を沈めた。今までで一番近くに、一番傍にいる。
互いの肌から熱が伝わりあう。俺はこれ以上ない位力いっぱい抱きしめた。
そんな小さな声で泣いてたら森に迷った時誰も気がつかないぞ。
もっと大声で泣かなきゃ。そう、あの時のように。

「えーん。えーん、ぐすっ……」
小さな少年が、森の中で迷っていた。兄弟でお父さん達の狩についてきた時のこと、ブランドのシャツに、可愛いネクタイ、半ズボンはサスペンダーで吊り上げている。ブラウンのストレートの髪がさらさらしていた。つぶらな瞳が不安気に周囲を見渡し、人を呼んでも、その声は森の奥に吸い込まれていった。誰もいないとわかると、震えた手でスェードのベストの裾をぎゅっと握りしめる。ぽろぽろと小さな涙の粒が頬に落ちる。

五月某日 晴れ

ぼくの家に新しい家族が来る。
本当なら生まれてすぐ神咲の家に来るはずだったのに、色々と親のつごうで来るのがおそくなったらしい。
弟は五さいなんだって。
神咲家の家族として早く えりーと になれるようにお父さんは早いうちから引き取りたかったらしいんだけど。
弟のお父さんが変わった人で、なかなか弟を手ばなさないらしいんだ。どうしてなんだろう。
ぼくは弟の話をずっと物心つくころから聞かされていたので、楽しみで仕方なかった。
だってぼくらはお母さんが一緒で、血がつながっているそうなんだ。

僕のお母さんもお父さんも早くになくなったそうだ。
だからうちのお父さんはぼくの本当のお父さんじゃない。
ぼくをひきとってくれたお父さんはきびしい人で、なんだか恐い。
でも、でもね、感謝はしているんだ、ぼくは大きなお屋敷に住めるんだもの。

お父さんはお兄ちゃんとは血がつながっているらしくて、ずいぶんぼくとはあつかいが違う。
大好きなホットケーキもなんだかお兄ちゃんのほうが大きい。
だからぼくにとって本当の弟が来ると聞いただけで、心臓がとくんとくんと鳴ったんだ。

そして、ついにその日が来たんだ!
君は知らない人に連れられて、ドアの前で恥ずかしそうにしていたね。

「おにいたん? ぼく、まもるといいます。あえてうれしい」
君が頬を染めながら恥ずかしそうに言ったとき、僕はうれしくて仕方なかったよ。
ぼくも君に会いたかったんだ。ずっと会いたかったんだ。

六月某日 曇り

また道に生えている草花に興味を示したのか、弟が行方をくらましてしまった。
僕は必死になって探した。
けれど、聞きなれた泣き声が聞こえて、すぐに見つけられたんだ。
弟は僕の姿を見つけると おにいたん! とさけんで走ってきた。
僕の体にしがみついた小さな頼りない体。
仕方のない子だなぁ。
こんなに体を冷やして。僕は着ていたカーディガンをすぐにかけて冷えた丸い頬に僕の頬を寄せて温めた。
「だめだよ。色々興味を持つのは大事だけど、道に迷って誰かに連れて行かれでもしたらどうするんだい」
「ごめんなさい……おにいたん」
涙で赤くなったつぶらな目が潤みながら僕を見上げている。
小さな手が、僕の服のすそをつかんで離さない。
僕は守の頭をなでてやった、キレイな髪はつるつるしていて、触れるととてもきもちいいんだ。

九月某日 晴れ

「ごほんをよんでほしいの」
およそ本人とは似つかわしくない大きな厚い本を抱えて、守は僕の部屋に入ってきた。
父が宮殿からお土産でもらった女性用の子供のパジャマはシルクのネグリジェだった。
お手伝いさんたちが面白がって着せたらしい。
守はまるで異国のお人形さんのような可愛らしい姿で、僕のベッドに滑り込んだ。
僕は難しい漢字が書かれた本をそれでもなんとか読んで聞かせた。
守は興味を示して、色々載っている写真を僕にあれこれ聞いてくる。
(ふぅ。僕だって最近覚えたことばかりなんだぞ)
本を読んであげている最中にやはり子供なんだろう、守は気がつくと僕のベッドで丸くなって寝ていた。
僕は微笑むと、そっと頬に手を当てた。
守は安心して小さな体を預けてスースー寝息を立てていた。
綺麗な顔立ちをしているね。日本人にほぼ近いけれど、君の整った顔はどこか違う国の色が入っている。
君は将来綺麗な人になるね。
寝顔を見ていたら僕も眠くなってきた。
守のまだ子供独特のミルクのような香りに、僕も吸い込まれていった。

五月某日 晴れときどき曇り

僕が小学生高学年になると守の優秀さが日に日に目立ってきた。
もうこの頃には僕と同じ学力になっていただろうか。
それでも僕はそんな守が誇りだった。
そして何よりもそんな彼が僕の後をいつも追い掛け回すのだ。
「兄さん、待ってよ!」
「なんだ?」
「どこにいくの?」
「ちょっとシャワーを浴びに行くだけだよ」
「僕も行く!」
ほらほら、お手伝いさんたちが笑っているよ。
でも君は何処に行くのも僕と一緒じゃなきゃ嫌だと言って傍から離れようとしない。
けれど僕は迷惑だと言いながら内心は嬉しくて仕方なかったんだ。
二人でシャワーを浴びながら、バスタブにお湯を張った。
庭にある綺麗な白ばら園から持ってきたのだろうか、浴室に飾ってある白いばらの花が大きな花瓶に挿してあり綺麗だった。
いい香りがして……。
今にも溢れそうなお湯の中に花びらが何枚か舞った。

六月某日 晴れ

屋敷の庭にある小さな丘の上。
白い薔薇の花束をトゲが刺さらないように、摘んで君にあげた。
「あのね、僕らは将来『女性』の側近になって、その人と結婚するんだよ」
「結婚?」
「そう、その人を愛して、結ばれ。子供を残すんだ」
「いやだ!」
君は拗ねてそっぽを向いたね。
僕が不思議そうな顔をすると、君は恥ずかしそうに振り返る。
「僕はお兄さんと結婚したい!」
僕は軽い衝撃を受けた。そして微笑む。
「何言っているんだ? 僕らは選ばれた人間になれる。だから女性と結婚するんだよ」
「しない! 男のお手伝いさん達は、男の人と結婚しているよ! だからぼくもお兄さんと結婚するの!」
馬鹿だなぁ……。
でもそんな君が可愛くて、僕はいけないことだと思いながら、君を抱きしめたよ。
その拍子に、白い薔薇の花びらが少し散ってしまった。
僕の手にトゲが刺さって、折角の白い薔薇の花びらについてしまったよ。
「ああ、これはもうあげられないな……」
僕がそう言ったら、君はその薔薇の花束を見つめて言う。
「ねぇ、お兄さん、僕らは何歳になったら結婚できるの?」
「うん? それはね、十八歳になってからだよ?」
「それじゃ、その時にその薔薇の花束を受け取るから。僕が十八になるまで待ってて。だから約束して、僕と結婚するって……」
君は約束するまで僕の傍を離れなかったので、小さな小指を絡めて約束したよ。
「わかった、将来、結婚しようね」
「うん!」

七月某日 晴れ

季節は暑い夏になった、ここ毎年紫外線が強く僕は庭の木の日陰で涼んだりした。
君は結婚を約束した日を境に何かに夢中になりはじめた?
屋敷に来てから何日かに一回は君はどこかへ出かけていたね。
でも最近は特にその頻度が高い。
君は何かに夢中になっている。
急に僕を見なくなったね?
いいや、僕は別に構わないよ。
少し早かったけど、とうとう兄離れの日が来たんだね。
君は年中家を留守にしていたね。
僕は少し、いやだいぶ淋しかったよ。
「兄さん! ……あのね、僕にとっても大切なモノが出来たの!」
僕の心にチクリと小さな針が刺さったようだった。
「そのうち兄さんにも教えるね!」
今まで見たことのない笑顔に僕はショックを隠し切れなかった。
でも、兄さんもお前に執着してたわけじゃない。
いつかはこんな日が来ると思っていたから、安心したくらいさ。

 

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