【書籍情報】
タイトル | ルディア国・軍人女王記(1)~敗戦処理~ |
著者 | 日南れん |
イラスト | |
レーベル | ヘリアンサス文庫 |
価格 | 200円+税 |
あらすじ | 小国ルディア国に、火の手が上がった。楽に攻め落とせるはずだったのに攻め入った大国ヒューゴー国は苦戦を強いられた。どうやら優れた将がいるらしい。王に同行していたファルシはその将に興味を覚える。その一方、ヒューゴー王はルディア国の王女を捕らえた。どうやら王女は二人いるらしいが……。苛烈な王女が憎悪にまみれた女王になるまで、あと僅か。シリーズ第一話。(毎月一話配信予定) |
【本文立ち読み】
ルディア国・軍人女王記①~敗戦処理~
[著]日南れん
:登場人物:
ガブリエル王女…第一王女、将来即位し国王になることが決まっている。白銀の長い髪にライトブルーの瞳を持つ。将軍であり軍人王女と呼ばれる。
ファルシ…ヒューゴー王の息子。黒髪に薄茶の瞳。ヒューゴー国立騎士団長。普段はわたしと言うが素は俺。ガブリエルにいろいろな面で押され気味。
アレクシス王女…第二王女。銀色の髪に薄紫の目の美女。ヒューゴー国へ嫁ぐことが決まっている。
ヒューゴー王…筋骨隆々の無骨な男。明るい金髪に空色の瞳を持つ。野蛮で傲慢な王。
ルディア王…白金の髪に赤い眼の穏やかな王。王妃、皇太子一家とともにヒューゴー王に斬り殺された。
目次
第一章 あさぎとマコの小さな冒険スタート
「ぐ、きついな……指が食い千切られそうだ……本当に、処女か」
痛みと異物感、そして怒りと恐怖で頭の中がグルグルする。顔を思いきり顰めたアレクシスは、一か八か、体をぐいっと捻った。
いかにがっしりした成人男性といえども、不安定な姿勢で抱えていた人間が予想外の動きをしたのだ。大きくバランスを崩し、アレクシスを取り落としそうになった。が、ギリギリのところで抱きとめる。
「う、うああ、何をする! 危ないだろうが!」
「お、お、落としてくださって結構です。わたくしの体を許可なく触る無礼者に助けて頂きたくはございません」
「なんだと? 生意気な娘だ、許せん。俺にひれ伏して、どうか抱いてくださいと言うように調教せねばならん。王命だ、今すぐここで股を開け!」
「なんと下品な! お断りします。わたくしは、嫌だ、気持ちが悪い、やめて、と再三申し上げました。わたくしが嫌がることをする人のいうことを、なぜ聞かねばならないのですか!」
想定外も想定外、ここまで小娘に逆らわれるとは思わなかったヒューゴー王は、怒りで顔を真っ赤に染めた。
「ええい、小賢しい小娘め! 今すぐその首刎ねて、城壁に晒してやる。行くぞっ」
どこへですかっ、と怒りの混ざったアレクシスの悲鳴が石造りの城壁に響いた。
そのまま、アレクシスが連れていかれたのは玉座の間だった。
重厚な石造りの広間には緋色の絨毯が敷き詰められ、部屋の最奥は一段高くなっていてひじ掛けつきの石造りの椅子が置かれている。父王が数時間前まで座っていた玉座だ。飛び散る血痕を見ていられず、アレクシスは目線を逸らした。
硝子がはめ込まれた大きな窓が四方にあり太陽光が降り注ぐ。この太陽光の下で、母である王妃はよく民や城で働く人たちと談笑していた。
母も、兄も兄の妻も、もういない。
「……さぁ、城の見納めだ。両親の後を追うがいいぞ」
どん、と背中を押されてよろめきながら玉座の間に入る。
「おっと、待て。先客がいたようだ」
言われるまでもなく、アレクシスの目は床に釘付けになっていた。
ヒューゴー国の面々と、衣服がボロボロに破れてあちこちに傷が出来た若い女性が転がされていた。両手両足は鎖で戒められ、猿轡も噛まされている女性は、長い白銀の髪を一つに束ねている。
アレクシスは、スカートの裾が乱れるのも構わず駆け寄った。
「ああっ、なんてひどい……」
アレクシスの声に、閉じられていた瞼がゆっくり開いた。明るいライトブルーの目がまっすぐアレクシスを見る。
「おいファルシ、この娘は? この髪の色は王の娘だろう?」
「は、この者がルディア兵を指揮していた将軍でした」
「なんだと? では、王女ではなく軍人か」
「いえ、第一王女でありながら軍人、ルディアの兵士曰く、軍人王女とのことです。剣の腕も相当に立ち、捕らえるのに苦労しました」
淡々と報告するファルシの顔や腕に新しい傷がいくつもついていることに気付いた王は、ぎょっとした顔で床に転がる娘を見た。
アレクシスより4つ、5つは年上だろうか。手足がすらりと長く、軍人王女と呼ばれるだけあって引き締まっている。指にも立派な剣だこができている。
しかし、豊満な胸や縊れた腰は、見事なものだ。しかもそれが破れた衣服の隙間からちらちら見えるせいででヒューゴー国の男たちが落ち着かない。それに気付いたヒューゴー王が、己の剣の切っ先で軍人王女の服を切り裂いた。
はちきれんばかりに豊満な胸がふるりと飛び出す。
「おう、美味そうな乳」
ヒューゴー王が、無造作に乳房を掴むが、軍人王女は声をあげるでもなく、まっすぐに無礼な男を見る。強い視線に、男たちが思わず後退る。
「ちっ、姉妹揃って可愛げのない……! ええい、今すぐ切り捨てる! 両親の元へ行くがいい」
「何をなさるの!」
アレクシスが姉に覆いかぶさるが、無骨な腕が伸びて引きはがす。びりびりと衣服が破られる音がし、いやああ、と悲鳴が上がって男たちがはやし立てる。
「……父上、御戯れもほどほどに。お前たち、仮にも他国の王族に対して無礼だ、慎め」
不快感をあらわにしたのは、ファルシだ。アレクシスを軽々と引き起こす。
破られた服の胸元を掻き合わせて姉の元へにじり寄ったアレクシスは、ぺたんと姉の横に座り込んだ。
「お姉さま……皆は、城下町へ逃がしました」
アレクシスが囁くと、姉王女は小さく頷いた。
二人並ぶと、よく似た美しい面差しだ。アレクシスの方が全体に色素が薄く、儚い印象だ。姉王女は覇気と怒気を纏い、今にも飛び掛かってきそうですらある。
「……さて、お前ら、この娘たちだがな、今日中に首を城壁に晒すつもりだがその前に」
好きにして良いぞ、と王が言いかけた時、城の外で爆発音がした。と同時に、謁見の間に兵士が駆け込んでくる。
「陛下! ルディアの民の反撃です! 捕らえた王族を解放せよと、城への砲撃を繰り返しています」
「なにぃ?」
にやり、と軍人王女――ガブリエルが笑った。
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【シリーズ続話】
ルディア国・軍人女王記(2)~怒れる王女~