カゼマチ【kissofLife】


【書籍情報】

タイトルカゼマチ【kissofLife】
著者青樹凛音
イラスト
レーベルアプリーレ文庫
価格400円+税
あらすじ2007年、都内でCADオペレーターとして働いていた「葉山 裕二」は、実家の商店を継ぐために島へと戻る。そこで子供の頃に少し係わりのあった「千歳 澪」と再会する。千歳が商店に通うようになり、裕二もまた千歳に惹かれていく。しかし、千歳は過去の手術により子供を授かれない体であり、裕二の父親は、二人の関係を頑なに認めようとしなかった。古い価値観の残る島を舞台にした二人の純愛を描く。

【本文立ち読み】

カゼマチ【kissofLife】
[著]青樹凛音

目次

「カゼマチ(Intro)」
「カゼマチ(KissofLife)」
「――Outro」

「カゼマチ(Intro)」

離島は2000人に届かない、今も昔も。
今日は天気もよく晴天で、青い海に白波。連絡船で波に揺られて一時間、島の港につくと出迎えがあった。
「久しぶり、裕二」
今日に俺が戻って来ることを伝えていた昔の友人たちだ。
同い年の女子、相田(あいだ)ゆき、と上田潤一(うえだじゅんいち)。
小学校の時はよく遊んでいた、同学年の3人。相田は色気のない黒のロングTシャツを着ている、上田は短髪で紺色の作業着ですっかり大人の男の体格。二人とも見ていないうちに大人になっていた。
「ああ、久しぶり。迎えてくれるとは思っていなかったよ」
「そんな冷たい人間じゃないよ」
相田は俺をマジマジと観察してから一言。
「随分とお洒落だね」
「え、そうか? 別に普段着だけど」
言われて自分の服装を見る、Rivi’sのジーンズにグラフティーのTシャツ、向こう「横浜」では別に「特別お洒落」とも言えないような服装だ。
上田が「服の話は置いておいて」と話を仕切りなおす。
「結局は、裕二もこっちに戻ってきたな。まあ、収まる鞘に収まることは良いことかもしれないな。また仲良くやろうよ」
嬉しいことを言ってくれるものだ、本当に。
「ま、今はそれぞれにやることもあるけれど、な」

俺、葉山裕二(はやまゆうじ)はこの島の「葉山商店」を継ぐために横浜から戻ってきた。相田は漁業組合の事務と実家の手伝い。上田は畑仕事、数年前から都会へ向けた「高級蜜柑」の栽培を始めたという。もともと蜜柑は島の特産品だったこともあり、気候的には問題ないと言った。
二人はどちらも俺が継ぐ商店経由で仕事で使う「容器」を買っている。
「それで、家まで送っていくけど」
「ありがとう、じゃあお願いする」
相田の家の少し汚れた白のミニバンの助手席に乗った。相田がマニュアルのこの車を運転して後部座席に上田が乗っている。
「それで横浜で何をやっていたの?」
「CADオペレーターって職業をやっていた」
「ふーん、それはどんな職業?」
「パソコンで図面を描くお仕事」
車に乗っている間に俺のことを話しながら島の風景を眺めている。ノスタルジーを感じた、小さい頃遊んだままの島の中だったことがやけに嬉しい。
心が少し癒やされて、良い気持ちになる。
家に送ってもらった後「じゃあまた」と二人は帰っていく。

「ああ、なっつかしー」
瓦屋根、別に広くも狭くもない家だ。
木造二階建てで造りだけはしっかりしている。
雨風に耐えてきたことで風格みたいなものは確かに感じ取れる。
「ただいま、帰ってきた」
「――おう、帰ってきたか」
家の中では親父が俺の帰りを待っていた。夏場なので灰色の作衣着を着たガタイの良い漁師だ。これから秋漁へ移っていく。
「それで、向こうではどうだったんだ」
何を言うにしても「島より良かった」みたいなことを言うことはここではタブーだと流石に分かっているから適当に濁すことにした。俺は予め考えておいた特に意味の込めない中身のない言葉を伝えた。
「普通かな。特別なことは何もなくて仕事ばかりしていた」
「そうか、真面目にやっていたなら別にいい」
それだけ、後は商店について説明を受ける。

家の隣の似たような木造建築、今は相続人の親父の持ち家。
その一階部分を島民向けの「店」としている。
亡くなる前に親戚が住んでいた。実際の店としての広さは広いとはお世辞には言えなく。実際、店としても営業しているが「本土の問屋の繋がり」として成り立っている、島においての「消耗品の問屋」のようなもの。
漁業組合や農家は「ここを経由して」消耗品を購入している。
店の中や、住居の使っていない部屋に「メタルラック」があり、そこに様々な形状のプラ容器が積まれている、後は緑色のバランや蜜柑用のオレンジ色のネットも。これが相田の漁業組合や上田のような農家などへ行く。本土と直接やり取りをするより「葉山商店で買った方が楽だから」というあたりだ。理由の一つに島に「パソコン」がほとんど普及していないことがある。
本土とのやり取りは連絡船のみ、島の事情が絡んでいる。
「この店は本当は『閉める』つもりだったが、色々な取引先から『無くなると困る』と言われてちまってな。まあ、お前がこの店を引き継いで、ここを継いでいくのなら『葉山商店』の歴史は受け継がれていくってわけだ」
言われて悪い気はしなかった。
それを「よし」とする道徳で育ってきたからだ。
「早速、今日から『店』も営業してくれ。あまり客が来ないから退屈だろうけど、それでも店が無いと島民が困るってことだな」

・・・・・・・・・・

親父は帰って、俺は商店の中に居る。
「店の中も大して変わっていないのな」
商店の中は商品棚に商品が置かれている。
洗剤や、石鹸、歯ブラシ、などの消耗品と日用品、それと日持ちする菓子類が僅かに置かれている。駄菓子を昔ここで買った記憶があって、どうやらその頃から商品は大してアップデートされていない。
まるで「時間が止まっていたかのような」心地良い錯覚を起こす。
「レジ使えるのかな、釣り銭とかどうなっているんだろう」
レジを確認すると、かなり古い機種のようだけど使い方はコンビニやスーパーのバイトの経験があるから分かる、釣り銭が不安なレジの中の硬貨枚数だけどなんとかなりそうか。棒金の本数などを確認していると早速お客さんが来た。
「――いらっしゃいませ」

俺の店長としての初めてのお客さんは女の子だった。少し訝しそうに俺を見てペコリと挨拶をした彼女は商品を選ぶふりをして、窺うように俺を見ていた。
さっぱりと切ったショートヘアーの女の子、背は小さい、150くらいで体の線が細い。瞳は綺麗な黒色。中学生には見えなかった、歳は高校生くらいだろう。商品棚を挟んで向こうから俺のことを見ている、バレバレ、でも、まあ気付かないふりしてた方が大人なんだろうな、と努めて気にしていないふりをした。
レジに店内の駄菓子を一点持ってくる。
そこで話すことになる。
「あの、お久しぶりです、裕二さん」
「あ、ああ。えっと……」
「小さい頃に何回か遊んでもらいました澪(みお)です」
「ああ、またよろしく、みおちゃん」
その日、彼女は大して欲しくもないだろう駄菓子を一個買って帰っていく、店を出た姿を目で追っていると、彼女も少し歩いた先でこちらを一回振り向いた。どうやら今日は「俺を見に来た」という感じだな。

・・・・・・・・・・

その後も店に来る人は俺が戻ってくることを知っていて声をかけてくる。その島ならではのそのコミュティーが少し嬉しかった。
夕方に商店の中に入ってくる女子高生。
「兄貴ー、久しぶり」
「おー、海美(うみ)大きくなったな」
「本当に全然帰って来ないんだもん、冷たい兄貴だよ」
妹、葉山海美(はやまうみ)は髪は後ろで縛った、俗にいう「ポニーテール」でスポーティーな印象の妹だ。商店の中に入って店の中にあった缶のお茶を飲む。
「だけど、兄貴が戻ってきてくれて本当によかった」
「お前も未だにお兄ちゃん子だな」
「話相手として、だよ」
「親父と話しても詰まらないよな、そりゃそうだ」
海美と会話、さっきの女の子を思い出して聞いてみる。
「今日、ショートヘアーの『みおちゃん』って子が来たんだけど、俺は若干記憶が薄れてて覚えていないな、どんな子だったっけ?」
「ああ、千歳澪(ちとせみお)ちゃんかな」
名前を聞くと、すぐに誰のことか分かることは島の住民ならではのこと。だけど横浜に居た俺はフルネームを聞いてもいまいちピンと来ない。
「彼女に悪いんだけど思い出せなくて、どんな子だったっけ」
「いや、兄貴とは昔もそんなに関わっていなかったと思うよ? 今は17才だから兄貴と5才違うことも含めて。昔からずっと体が悪くて、何年か前に本土の病院で手術しているよ、高校には来ていないけれど」
手術というと「体が弱い」あるいは悪かったのか。
島で一年中外で遊んでいた俺が彼女のことを忘れて、逆にそれほど外で遊べなかった彼女が、当時は、僅かと思われる「外で遊んだ日の出来事」や「そこに居た俺のこと」を覚えていることは不思議でもないのかもしれない。
「手術って、澪ちゃんは今も何か具合が悪かったりするのか?」
「それは澪ちゃん本人に聞いてみてね」
そういう言い方をするということは、海美からして言いにくい何かあるってことだろう。今度聞けそうな時に彼女本人に聞いてみるか。

【続きは製品でお楽しみください】

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