年上幼なじみ社長は恋に一途 ~相手が私って本当ですか~

【書籍情報】

タイトル年上幼なじみ社長は恋に一途 ~相手が私って本当ですか~
著者にけみ柚寿
イラスト藍川あずみ
レーベルヘリアンサス文庫
価格600円+税
あらすじ麻志絽が出会った青年は、十年以上会っていなかった幼なじみ、槙瀬 夏希!?
夏希の求愛に戸惑う麻志絽だったが、しだいに彼のひたむきさに惹かれていく。幼なじみから恋人になった二人の甘い日々。けれど麻志絽は夏希の過去が気になってしまう。彼が告げた意外な真実とは――。
(※本作品はWEBで公開していた『年上幼なじみ社長は恋に一途 ~相手が私って本当ですか~』を加筆修正し、さらに本編完結前のエピソードを書いた番外編SS『これからも二人で』を収録したものです)

【本文立ち読み】

年上幼なじみ社長は恋に一途 ~相手が私って本当ですか~
[著]にけみ柚寿
[イラスト]藍川あずみ

~プロローグ~
◆第一章 ~再会は突然に~
◆第二章 ~動揺、かくすことできてる?~
◆第三章 ~あふれる想い~
◆第四章 ~恋人になってからは初めての~
◆最終章 ~今夜、私たちは~
【書き下ろしSS】番外編 ~これからも二人で~

~プロローグ~

「夏ちゃんっ……」
二人しかいない寝室に、私の声がせつなげに響く。
(いつもの私の声とちがう……。息が乱れて苦しいのに……気持ちいいなんて)
普段とちがうのは声だけじゃなかった。
私の体は、どこもかしこも、とっても熱くなっている。
耳元に夏ちゃんの息がかかるだけで、ヘンな声がでちゃいそう。
あえぎ声を聞かれるのが恥ずかしくて、キュッと唇をむすんだのに――。今度は、吐息だけじゃなくて、彼の低い声が私の耳をくすぐる。
「本当は、ずっとふれたかった。ここも……ここも、ぜんぶ――」
甘くささやきながら、夏ちゃんは、いとおしそうに私の肌をなぞっていく。骨ばった長い指で、ゆっくりと。
「麻志絽《ましろ》……」
「夏ちゃんっ、夏ちゃ……っん」
広いベッドの中。
気づけば、私は自分の体におおいかぶさっている男性の名を、昔からの呼びなれた愛称で何度も口にしていた。
意識して閉じたはずの唇から、彼への想いがあふれるように。その名を呼んでいた。
そんな私を、夏ちゃんは熱っぽい瞳でみつめている。まばたきもせずに、じっと。
(……今の姿をみつめられるなんて……恥ずかしくてたまらなくなっちゃうよ。こんなこと、初めてなのに)
私と彼、夏ちゃん――槙瀬 夏希《まきせ なつき》――は、数ヶ月前、再会することができた。
(もしあの日、会うことができなかったら……心がしめつけられるような、やるせない思いをすることも、こんなに胸が熱くなることもなかったはず)
私の脳裏にふと、夏ちゃんと十数年ぶりに会えた日のことがよみがえってきた。

◆第一章 ~再会は突然に~

「ようやく来ることができたな……」
私は誰に言うともなく、つぶやいた。
耳に響いた自分の声は、非常にしみじみとしている。
ここは私が住んでいるアパートからそう遠くないエリアにある公園。入口から園中に入ったばかりの場所だ。
私、伊筒《いづつ》 麻志絽が現在の住居である賃貸アパートに引っ越してきたのは、およそ一年前の春。
だけど、私がこの公園にやってきたのは、今日が初めて。
この一年、会社の仕事はそれなりに忙しかったけど、近所の公園に行けないほど多忙をきわめていたわけじゃない。
(それでも園内に入るのは、今日が初めて……)
この公園は緑ゆたかで広々としていて、休みの日となれば、わりと遠くから訪れる人だっている。
家族づれだけじゃなく、カップルも多い。
……と、同僚の女の子から事前に聞いている。特に犬を飼っている人たちにとっての人気のスポットだということも。
緑にあふれ、なんというか『自然を感じられる空間』は、私もすき。
日頃の仕事の疲れを癒すのに、もってこいであろう場所に私がこれまで足を踏み入れなかったのには、理由があった。
(似てるんだ、この公園は……。私が前に住んでいた町の公園の雰囲気にとても――)
以前暮らしていた町の公園も犬を飼っている人たちがよく利用していた。
そして、私もその一人『だった』……。
そう、過去形。
私は大すきだった愛犬マロンを一年六ヶ月前に亡くしている。
(……マロン……)
マロンは長寿だった。最後の日、苦しむことなく眠るように息をひきとったマロン。
私がものごころついたときから、マロンは私のそばにいてくれた。
マロンの大きくてあたたかい体。ふわふわの毛なみ。
高齢になってからのマロンは、昔のように公園を駆けまわることはなくなってしまったけれど、私にとって実家のそばにあった公園はマロンとの楽しい思い出がたくさんつまった場所。
その公園に似た外観を持つこの場所も、マロンを失った私は、ずっと避けていた。
通りすぎただけでも似た雰囲気の公園だってわかるほど、今住んでいる町の公園と以前住んでいた町の公園は感じが似ている。
だから『公園の中に入ったらきっと……私はマロンとの思い出をあれこれ回想して、せつなくなってしまう』と、この町に越してきた私は考えていた。
マロンは私に素敵な思い出をたくさんくれたのに、その記憶が頭によみがえってくるのは私にとって気持ちの沈む、つらいことだった。
私の元からマロンがいなくなって、一年以上の時が流れて、ようやく――。
マロンとよく行った公園と似た公園に遊びに行っても落ちこんだ気持ちにならないと思えるようになれた。
(こんなふうに考えられるきっかけになってくれたのは、会社の休憩室にあった一冊の雑誌なんだよね……)
その雑誌を買った人は、「読みたい人がいたら、休み時間にでもどうぞ」と言って、休憩室のテーブルの上に置きっぱなしにしていった。
その日、会社で私と仲のいい子は有給休暇をとっていて、休憩室にいたのは、私一人だけ。
テーブルに置かれた雑誌の表紙には『特集・春のおすすめスポット!』の文字。
なにげなく、本当になにげなくパラパラとページをめくってみると――。
そこには、この公園も写真つきで紹介されていた。
写真でみても、たしかに私とマロンがよく行った公園に似ていて……、私が落ちこんでいると、そっとよりそってくれたマロンの存在を瞬時に思いだす。
だけど――そのとき私は、なつかしくあたたかな気持ちで、マロンの記憶を受けとめることができて……。
それで、私はこの公園に足を踏み入れても、もう大丈夫だって思えた。
(――というわけで、私はこの公園に来たわけだけど……)
やっぱり、そっくりだ。
私が以前マロンとでかけた公園に。
園内に屋台の車があって食べ物を売っているところも同じ。
それに、きれいに植えられた園芸品種の花だけじゃなくて、野草の花々もたくさん咲いているところも。
(もう春だものね。花は色とりどり。白に黄色にピンク……、みんな可愛い)
やわらかな芝生の上を歩いていく私の頬《ほほ》をなでるそよ風が心地よい。
ひとしきり公園内を散策したあと、私はベンチに腰をおろした。
あたりを見渡せば十メートルほど先に、小型犬をつれている人と中型犬をつれている人がいた。
(愛犬家同士の交流の場となっているのも、私の実家のそばにあった公園といっしょだな)
私の前方にいる中型犬は引っ込み思案なのか、この場に慣れていないのか、飼い主のうしろにかくれている。
小型犬のほうは自分よりも大きな犬を威嚇するでもなく、中型犬に興味津々という雰囲気。
体の大きさこそ違えど、好奇心旺盛そうな小型犬を見ていると、ありし日のマロンの活発な姿がはっきりと脳裏によみがえってくる。
元気いっぱいに跳ねまわるマロン。それだけじゃなく、寝ているマロン。甘えるマロン。
自分でリードをくわえてきて、私に散歩をせがむマロン。
次から次へと思いだしてしまう。
(……あれ……私、もう大丈夫だと思ったのに……)
私は公園にいるのに、マロンはここにいないという事実。
この公園は、かつて私がよく行った公園に似ているだけで別の場所だってことは、ちゃんとわかっている。
わかっているのに――目頭がやたらと熱くなってしまい、自分が今、じんわり涙ぐんでいることに気づいてしまう。
その瞬間。
巨大な『何か』が私に近づいてきた。
(わわっ! ……な、何っ!?)
突如として私の前にあらわれたのは、とても大きな毛のカタマリだった。
ツヤツヤとしたクリーム色の毛。
このモフモフぐあい――。
まるで、若いころのマロンのよう……。
マロンとよく似た大型犬は私をみつめ、やさしげな声で鳴いた。
「ワゥッ、ワゥーン」
この声! ……声までマロンに似てる!?
仰天する私の目の前にいるのは、マロンと同じ犬種だけど、マロンではない別の犬。
似てるけど、ちがう。
ちがうけど、似てる。
マロンの顔つきは可愛い感じ。
今、私の目の前にいるワンちゃんはどちらかというと、りりしい感じ。
とはいえ――。
マロンとよく来た公園に似た場所で、マロンそっくりな犬 (顔つきがちがうことは、さっきすぐに気がついたけど)が、あらわれるなんて……。
目を見開いて、おどろきまくっていると。
「すみません!」
周囲からよくとおる声が聞こえてきた。
声のしたほうに目をやると、一人の青年が私の目の前に立っている。
この男性の握っているリードは、マロンによく似たワンちゃんの首輪とつながっていた。
(――この人が飼い主さん、……なんだよね?)
「うちの犬がおどろかせてしまったようで、申し訳ありません」
私の耳に響いたのは、真面目で誠実そうな声。
やたらと私がおどろいてしまったのは、マロンそっくりなワンちゃんに会ったからであって、飼い主と思われるこの青年のせいじゃない。
この人は、ちゃんとリードを持っているんだし。
私は彼に告げた。
「いえいえ。……えっと、私のほうは全然大丈夫ですので、その……お気づかいなく」
平静をよそおって告げたつもりなのに、声に動揺がにじんでしまう。
だって。
『マロンそっくりな犬があらわれた』
このことひとつとっても私には充分おどろきなのに。
目の前にいる青年ときたら――。
(ものっすごいイケメン……。ちょ、ちょっと、どうしよう。こんなかっこいい人に、いきなり話しかけられたら、あわてちゃって、うまく会話なんてできないんだけどっ)
そう思いつつも、私は彼の美貌にクギづけになってしまう。
黒くてサラサラの髪に整った目鼻立ち。背が高くスラリとしていて手足も長くて……。
身につけているのはラフな私服なのに、なんというか品のよさのようなものをかもしだしている。
私が知らないだけで、モデルか何かやっている人なのかも? さわやかなムードをだしつつも芯のある雰囲気が私にこの青年は一般人じゃないんじゃないかな、と思わせた。
(異性とか恋愛とかに興味のうすい私が、こんなにドキッとするなんて……)
私は魅入られたように、彼をみつめた。
すると、彼も私をじっとみつめはじめる。
そして青年は……。
「あ! ――もしかして」
信じられないという声色で、私に向かってつぶやく。
(私がいったい、どうしたの?)
穴があくほど私を凝視する男性。
数秒たったのち、ようやく彼は言葉の続きを口にした。
「もしかして――麻志絽、伊筒 麻志絽さんじゃ……」
えっ?
この人、私のフルネームを言いあてた!
私、自分の名前を言ったりしてないのに――。
どうして?
「……たしかに私は伊筒 麻志絽です。ですが……あのぅ……」
そういうあなたは、いったい誰なのでしょうか?
私の考えが伝わったのか。青年は自分の名前を告げた。
「槙瀬 夏希だよ。おぼえてるかな? 昔、きみの家に招待されたとき――二人でいろいろ話したりしたのだけど。ほら、きみの両親と俺の両親が知りあいで――」
……え!?
槙瀬 夏希。
槙瀬さんのおうちの夏ちゃんといったら。
十年以上前に知りあった二つ年上の男の子。
たしかに彼の両親と私の両親は親交があって、おたがいの家に両親とともに遊びに行ったものだ。
夏ちゃんが一家で外国へ引っ越してしまうまで、何度も二人で遊んだ。
私たちは、『昔、仲がよかった幼なじみ』といって差しつかえない関係になるはず。少なくとも、私はそう思っている。
(……夏ちゃん、日本に帰ってきていたんだ!)
おどろきつつ、彼に問いかける。
「夏ちゃん……なの?」
今の彼は立派に成長した若者だけど、気がつけば、私は彼の子ども時代の愛称を口にしていた。
彼は、ぱっと顔をほころばせ、笑顔をみせた。

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