激愛 わたしを選んで 第三章 デート講習

【書籍情報】

タイトル激愛 わたしを選んで 第三章 デート講習
著者時御翔
イラスト
レーベルレグルスブックス
価格200円+税
あらすじ実業家の娘・百目木佐穂、高校生。彼女の通う高校は、レディを育てるためにあるような学校である。
一風変わった授業に、一風変わった友達、そんな中で福望に相応しいレディになることを改めて決意する

【本文立ち読み】

激愛 わたしを選んで 第三章 デート講習
[著]時御 翔

目次

■デート講習

●4

佐穂の住む京橋から公的機関のバスに揺られながら三十分ほどかかる楔芽高校は、付属中学、付属小学校と、エスカレーター式で進学できる学校だ。佐穂はこのルートをもう十年通っている。
しかし十年も経つと町の景色も様変わりしていく。家や店が二階までしかなかったものが、三階、四階と、しかも広範囲に渡って大きく改築されている。
都市が発展しているのだ。町おこし、つまり土地の開発事業をお偉いさん方が企画し、国内のみならず海外からの集客を得ようと貿易や輸入輸出にも力を入れ、日本経済を盛り上げることに一役買っていた。
佐穂は一切なんのことかわからないまま成長しているが、光堂 福望のような優れた頭脳を持つ男子は、次世代のアイデアを求める官僚や議員らの輪に参加させられるようになる。
その点、女子は気楽なものである。だが女子は女子なりに凌ぎを削る思いで、素敵なレディーになるために日夜、勉学に励んでいるのだ。
とくに佐穂が通う楔芽高校はお嬢様学校として名を馳せていた。その名に恥じぬ振る舞い、気品さ、気丈な精神、言動の正しさ、乱れない感情などを身につけるため、高校で学ぶ毎日が花嫁修業なのである。
学校を卒業してすぐにでも豪華絢爛な社交界の舞台に出ることが可能なレディ、美しく装い人々の目を惹くような存在になることを目指しているのだ。
「歩き、踏みとどまり、一礼、すかさずまた歩く!」
二学年主任の土居捺美(どいなつみ)が校門のところで力強い声の号令を掛けた。この高校の教育方針だ。
校門の出入りには一礼が必須。しかも迅速に。
人生は歩くしかない。だが踏みとどまることは選択肢に直面した証拠でもある。「よく考えながら、姿勢を伸ばし、隙をみせない厚みのある心と笑顔を習得し、決して転ばずの人生を生きよ」というものだ。
その積み重ねにより自然と必要なシーンで体が動くようになる。勉学よりもその姿勢を望むものである。
つまり最高の奥方となるため作法や礼法を身に付けることを強く推している高校である。だから高校ではめずらしく化粧、ウォーキング、体幹を鍛えるヨガとまさに一風変わった授業がある。
そしてこれを“育法”と呼ぶ。
設立当初の学校長が掲げた風潮でもあり創立百年この風向きは変わっていない。
生徒も先生も女性しかない。女としての作法を徹底的に修練すること。男がいなければガサツになる傾向があるが、ここではそういった振る舞いに対しては厳しく叱咤する傾向がある。
常に同じ女性が見て厳しくすることを義務付けている。
しかし、感受性の強い乙女にも、いや、乙女だからか、やや困惑する授業がある。
「今日ってさ、あの授業でしょ」
佐穂のクラスメイト、匙浜叶(さじはまかなえ)がうんざり気味でいった。
髪の毛が茶髪でロング。スレンダーでファッション性が高く、学業の傍らモデルをしている。読者モデル、いわゆる「読モ」だ。将来は芸能界に進出するつもりでいる。
美人で校内でもトップに入る美貌の持ち主。小柄で低身長の佐穂が憧れ誇れる友人の一人。家柄は中流二家庭なのが、叶は嫌悪感をにじませていた。それを払拭させるために独自の道をすでに歩みだしていた。
「そうね、あの授業はちょっと、ある意味セクハラ授業でしょ」
「けっ、イケすかん男がきたら蹴散らしてやる」
口の悪いのは、仲がいいもう一人のクラスメイト。冬泉霙(ふゆずみみぞれ)。
セミロングの金髪。痩せ型で、とにかくIQが高い。幾分そのせいで淑女となるための作法が身につかない。
あぐらはかくし、芝生に寝転んでいたり、スカートが捲れても気にしない男勝りな態度で活発な女子である。
でも、不思議なことに作法の試験はクリアしている。
そのときはしっかりと偽装しているのだ。
一流のご令嬢に変貌してみせるも終わった瞬間に足を開く。当然レディにはあってはならない態度で、普段の霙を知っているクラスメイトたちは笑いをこらえている始末だ。
そんな調子なので校内では別の意味で浮いている稀有な存在だ。

佐穂はいつも霙のなぐさめ役になっている。
家柄は中流二家庭なのに、こんな高校に通っているのが不思議でしかたがない。両親が上流家庭の世界で生きてもらいたいと願っているから仕方なく入学した。
佐穂の父が経営している百目木グループの飲食店の全国チェーン店舗の都内西エリアを任されている主任でもある。
中流二家庭を超えるのは容易ではない。その身分の差で風紀を乱す霙は佐穂には頭があがらないのだ。
階級の差など感じさせずに佐穂はいつもやさしく接してくれるから霙は佐穂が大好きなのだ。
三人は中学一年のときに出会い、そこからクラスがずっと同じだ。
高校でも同じクラスになって、まるで運命の友と出会った仲だと誇示している。
人生にはそういう出会いは少なからずある。
それぞれがまったく異なるタイプであるから成立しているともいえるが、それ以上に、それぞれが格差社会に身をおいて格差社会を自覚しているからこそ、互いに信頼しあっている。
「霙、またそんな言葉遣いをして怒られるよ。ほら佐穂がにらんでる」
むすっと腕組をして佐穂の視線が霙をとらえていた。
「そんなことないよな」霙は佐穂の肩に腕をまわし斜めの機嫌に寄り添った。
「もう」
「だいたいうちらには必要ないことだろ。佐穂は必須だけどな」
「そうね。業界にもいるわ。へたにべたべたと馴れ馴れしくしてくるやつ。もうこれよ」
叶はこぶしをかたく握りしめていた。
めずらしく粗暴な叶の姿に佐穂はむすっとした。
「そのこぶしはなに?」
「これは……あれよ、演歌を歌うときに歌手がよくしているものよ」
叶はたまにわけのわからないことを言う。

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