激愛 わたしを選んで 第四章 涙で濡れた月光の一夜

【書籍情報】

タイトル

激愛 わたしを選んで 第四章 涙で濡れた月光の一夜

著者時御翔
イラスト
レーベルレグルスブックス
価格200円+税
あらすじ実業家の娘・百目木佐穂、高校生。今日は、彼へのプレゼントの下見に友達と渋谷へやってきた。
しかしライバル令嬢に遭遇し口喧嘩をして思わずその場を逃げ出してしまう。しかしサホを追いかけて来たのは意外な人物で――。運命が動く第四巻。

【本文立ち読み】

激愛 わたしを選んで 第四章 涙で濡れた月光の一夜
[著]時御 翔

目次

■涙で濡れた月光の一夜

●5

 

青というより深みのある藍い空がひろがっている。
呉服屋の叶《かなえ》はこの深みのある藍は反物でも見たことのない色あいだといっていた。
佐穂《さほ》と霙《みぞれ》は感心するように「へえ」と口を開きながら上空に顔を向けていた。
邪魔なのは建築工事の足組みや現状五階建てくらいのしかできていないがのっぽの建物、それらが視界を阻んでいた。
近代文明にあわせて発展しようとこの町も変わろうとしている。
見渡すかぎりの青い空ではなくなる日も遠くはないかもしれない。
叶は家業を誇らしげに話した。
佐穂はとても嬉しかった。
呉服店を営んでいる叶が家業の話をすることはめったにないからだ。
この日も叶は「アッパッパ」という藍色の涼し気なワンピースを着ている。
休日のため着物と袴の恰好ではなく、洋風文化が日本にも入ってきたためカジュアルで軽装な服装に移行しつつある。
佐穂たちも敏感に飛びつき、普通よりも多めのおこづかいでそのファッションを一揃えしている。
頭には簪から大きなリボンに、ミディアム丈のスカートにブラウス姿だ。
パッと視線を走らせあたりを見渡すと、まだまだ袴姿の人たちが歩いているが、足もとはブーツから革靴に変わり歩きやすくなっている。
霙はあまり服装にこだわりはなく、外出用の袴と着物。そして下駄だった。
「さて、今日は甘い物をいっぱい食べるとしよう」霙が色気よりも食い気を主張した。

この日は光堂《こうどう》福望《ふくみ》の誕生日プレゼントの下見をしにきた。ふたりにとっては目的がちがうため早めに目的のものを探そうと心に決めた。
わざわざ原宿まで足を向けたのだ。
福望が気に入ってくれる物――目ぼしいものをみつけておく。
しかし、ふたりは佐穂が何しにきたのかをわかっていたはずだが、アイスクリームやワッフルにエクレアなど道さながら食べ歩いていた。
きっとご令嬢としてこれほど行儀の悪い食べ方はないだろう。
佐穂はふたりの欲望の合間をすり抜けては目ぼしい店に入り紳士物のプレゼントを探していた。
目に入るすべてが購入できるほどのおこづかいはない。この日みつからなくてもいい。親友と一緒にいる時間はなんだかわからないものの方がとても楽しい。
ひさびさの繁華街に目をきらめかせて首を左右に振っては「あれがいいかな、これがいいかな」と自問自答を口走っている佐穂に付き合わされているふたりはあきれ果てていた。
優柔不断な子であると買い物のたんびに耳たこになっていた。
苦笑しながらも叶と霙は佐穂がしあわせになるためなら、と気のすむまで付き合うつもりだったが、息抜きは必要だった。
「佐穂、次パフェ食べたい」
「またなの、もうかなり食べてるよ!」
ふたりは意地悪そうににやにやしていた。
しかし、そこへ予期せぬ高飛車な声が飛び込んできた。
「あっらー、佐穂さんではありませんか」
艶やかな赤の日傘を差す女子が現われた。洋風の白いドレスを着用した齋明寺 美夜が立ちはだかったのだ。
「美夜さん、どうして――」
「偶然ね。あなたは――何? 買い物かしら?」
「はい、美夜さんは?」
「わたくしはただのお買い物よ。アクセサリーが欲しくて、いきつけのジュエリーショップに向かうところよ」
「そ、そうですか……それはそれは……では、ごきげんよう」
佐穂は踵を返した。叶と霙もつられて美夜に背を向ける。颯爽とその場を立ち去ろうとしていた。
「お待ち!」

【続きは製品でお楽しみください】

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