【書籍情報】
タイトル | 偏愛彼氏からの溺愛3―結婚するにはハードルがありすぎる― |
著者 | 如月一花 |
イラスト | モルト |
レーベル | ヘリアンサス文庫 |
価格 | 300円+税 |
あらすじ | 守也からプロポーズされた久美。しかし会社では守也がピックルの社長ではと噂になって、久美と付き合っていることまで噂になってしまう。守也はあっさり全てを認め、久美を社内でも求めてくる。 すぐに結婚かと思っているのだが、守也の元ストーカー癖が治らず、戸惑うことも。それなのに守也は両親に挨拶に行くことを決めてしまい、実家に行くことになるのだが――。守也と久美のシリーズ、完結編です! |
【本文立ち読み】
偏愛彼氏からの溺愛3―結婚するにはハードルがありすぎる―
夢のようなバンコク旅行から帰ると、久美は部屋でぼんやり守也のプロポーズを思い出す。
サプライズで用意されたケーキには花火が飾られていて、火花がパチパチ煌めいていた。そしてそこから見える風景はまだ頭に焼き付いている。
そして信じられないのが守也のプロポーズを受けたことだ。
(もともとはストーカーとはいえ、私のことを大事に思ってることは間違いない)
久美はそう思うと、彼との複雑な経緯を思い出してしまう。
道端で倒れていたこと、部屋に突然あがりこんできたこと、そして単なるコンビニ店員かと思っていたら、ピックルの元社長だったこと。
思わずため息を吐くと、久美は守也とのこれからのことを考える。
まだ帰国したばかりで、荷解きは何もしていない。
彼も忙しいのか、現れる様子がなかった。
またスマホかどこかに仕込まれたカメラで覗き見でもしているのかと思わず辺りを窺うが、分かるはずもない。
静まり返った部屋に取り残された気分だ。
(守也、どうしたんだろ?)
不思議に思いつつ、自分から連絡するのだけはやめておいた。
子犬のように嬉しがって飛びついてきそうだからだ。
それに、なんの理由もなく連絡がないとも思えない。
久美は自分のことを考えなくてはと頭を巡らせた。
まずは会社に結婚することを伝えないといけないことだが、その点、後輩と仲良くなってしまったことを上手く言えばいいだろう。
そして、次に久美の両親への挨拶だが、守也が元々社長であるなら、その点を説明すれば問題ないかもしれない。
ただ、久美と守也の接点が今ひとつ説得力に欠けることだ。
今でこそ会社の後輩だが、彼は入社してまだ半年も経っていない。
しかも後輩に久美が手を出したことになるから、報告する時には気を付けないといけないし、両親にも付き合いが浅いことを説明するのは気が引ける。
仕事を熱心にする彼に惹かれた、守也は仕事が出来るので安心してしまった、そんなことを言って両親や課長をごまかすしかないだろう。
元々ストーカーで偏愛的に愛されてしまい、そのあまりの欲望に、失恋の隙を突かれて好意を抱いた、などとは到底言えない。
とはいえ、きちんと説明すれば幸せを手に入れられそうだ。
(嫌なこともあったけど、幸せになれるなら)
ぼんやり思いながら、久美はシャワーを浴びて、明日に備えて眠った。
翌日、仕事に行くためにシャツとタイトスカートに着替えて化粧を施し、髪の毛をハーフアップに結くと、久美はいつにも増して緊張していた。
上手く上司に切り出せるか心配だ。
職場に向かうが、守也からまだ連絡が何もないことにハッとする。
とはいえ、お互いにもう他人ではなくなるのだからと、久美は電車に揺られた。
職場に到着すると、久美はすぐに女子の視線が絡みついてくることに気が付いた。
なんだろうと振り向くと、クスクス笑われる。
(一体何?)
不思議に思いつつ、デスクに座ると女子たちは久美に聞こえるような声で言ってくる。
「守也くんって、ピックルの元社長って噂本当?」
「ええ、でもそれはあり得なくない?」
「でも私、異業種交流会で彼に会ってるんだよね」
久美はその言葉を聞いてハッとする。
(ピックルの社長時代を知ってるの? それは、まずい)
久美は嫌な汗が出てきた。
過去を知られると、守也への詮索が止まらなくなるし、なぜこの会社にいるのか、という疑問が自然に湧いてくる。もちろん、彼女たちはそのことが気になってわざと言っているのだろう。
そのまま聞き耳を立ててしまうと、女子グループは楽しそうに喋り出した。
「守也くんってピックルの元社長に似てるなって思ってたんだよね。中吊り広告で写真出てたことあったから」
「ああ、あったよね。まさか渋谷さんが知らないとは思えないけど」
言われて、久美は顔を引き攣らせた。
(知らなかった)
電車の中では、音楽を聞いたり本を読んだりしている。
下を見ていることも多いせいか、気が付くこともなかった。
情けない思いになりつつ、彼女たちの言葉がさらに耳に飛び込んでくる。
「ていうか、有名だよね! ピックルに限らず、IT系の社長って!」
「わかる〜! 必ずいるよね! 友達の友達の友達くらいにっ」
(それって、つまり私にマウントとりたいだけよね?)
久美は呆れたと思い、仕事を再開しようとした。
しかし、彼女たちのおしゃべりは止まらない。
「私、もしかしたら名刺交換してるかも!」
「見せて!」
「待って、明日持ってくるから」
女子たちは興奮気味に話すと、久美をまたチラ見してくる。
(はあ、どうしよう。ピックルの元社長だってバレたら、どうしてこの会社にいるのか詮索される。それに常に話のネタにされるのは勘弁してほしい)
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