偏愛彼氏からの溺愛2―彼の秘密―

 


【書籍情報】

タイトル偏愛彼氏からの溺愛2―彼の秘密―
著者如月一花
イラストモルト
レーベルヘリアンサス文庫
価格300円+税
あらすじ守也が元ピックルの社長であることが分かり、尻込みする久美。しかし守也は相変わらずマイペース。互いにデートをすればギクシャクしながらも関係を深めていく。
そんなとき、ピックルから守也が呼び出されて、当時の不祥事について問いただされることに。

【本文立ち読み】

偏愛彼氏からの溺愛2―彼の秘密―

街中の喧騒を歩く中、久美はぼんやり服を見つめながら一緒にデートに来た守也のことを考えていた。先ほどまで隣を歩いていたが、いつのまにかはぐれてしまい、一人道端で服を見ているのだ。
彼のことだから、ネットを駆使して来るだろうと思っているのだが、守也らしき男性はまだ来ない。
(ピックルの社長だったとは。でも、世間と外れてるところなんかは社長っぽいのかな)
ぼんやり考えていると、がしりと肩を掴まれた。
なんだと思い振り向くと、守也が汗をだらだら垂らして目に涙を溜めて立っている。
「どごにいっでじまっだんですが! ざがじだんでずよ!」
「落ち着いて! 泣くことないじゃない」
久美は守也の背を撫でると、守也は息を整えながら久美を恨めしそうに見つめてきた。
その眼差しにぎくりとしながらも、守也ならスマホの位置情報でどうにか見つけ出すと決め込んでいたので、まさか泣き出すとは思わなかった。
「僕を置いてどこかに行くなんて信じられません!」
「でも、ほらっ! 守也はパソコン得意だから、適当に見つけてくれると思って!」
「ここでそんなことをしたら怪しいだけですっ! それに機材もありませんからね。僕を置いてどこかに行くなんて、信じられない」
ふいっと顔を背けるので、久美は頭を撫でた。
すると守也は頬を赤らめて嬉しそうな表情を見せる。
「まあまあ、落ち着いて。ほったらかしたつもりはないの。守也ならどうにかすると思って。ごめんなさい。ところで、この後どうする?」
「そうですね」
そう言って、スマホを取り出してすぐにカフェを見せてくる守也。
「ここはどうですか? 以前から気にしている店だったと思います」
「え? ええと、そんな店言ったっけ?」
そう言って、スマホを覗くとそこには会社の同僚と盛り上がって行きたいと話していたカフェがある。女子が好みそうなアフタヌーンティーが目当てだった。
季節商品も豊富で、楽しめそうだと言っていたのだが守谷には聞こえていないはずだ。
「あの、このことは仕事でしか話してないと思うけど」
久美が顔を引き攣らせて言うと、守也はにっこり微笑んだ。
「その後久美が、楽しそうにスマホをいじっていたので、僕はこっそりスマホ履歴を見ました!」
楽しそうに言われたものの、久美は嬉しくなかった。
以前の癖は全く直っていない。
もう二人の時間も出来たのだから、こそこそする必要はないと思うのだが。
「今日のデートも、久美が以前から行きたいと言っていた……」
「は、早く行こうか!」
久美は腕を引くと守也は「え?」と不思議そうな声をあげる。
薄々気がついていた。
今日行くところは人類の不思議という博物館で、人体模型だけでなくホモ・サピエンスから現在までの歴史が説明されていたり、学者の見識などが丁寧に書かれていたり、そこでしか見られない出土品があったりと、珍しい博物館なのだ。
とはいえ、人類の不思議がテーマなので女友達を誘うわけにもいかないと悩んでいたところ、守也から行かないかと誘われたのだ。
こんな偶然あるかと思っていたが、この調子だと調べて知っていて、以前からタイミングを見計らっていたと思える。
(結局、二人の気持ちが通じてもこんな調子じゃね)
寂しく思うと、守也がスマホをすっと見せてきた。
「今日の帰宅はこのくらいになると思うので、帰ってきたら連絡ください」
「これ、帰りの電車?」
「はい!」
(軽く束縛気味なところも心配なのよね)
顔を引き攣らせてすっとスマホを避けると、久美は博物館に向かって歩いて行った。
博物館では隣でピッタリくっついて守谷がいて、集中して見られない。
しかも、その後に行ったカフェでも、彼がアフタヌーンティーを何度も写真に撮るので恥ずかしくてすぐに食べて帰ってきた。
守谷が提示していた時間よりも早く帰宅すると、久美はアパートで一人ほっとため息を吐いた。
(なんか落ち着かないデートだったな)
そう思ってベッドに寝転がると、守谷からメッセージが届く。
『疲れたと思いましたので、今日の晩御飯届けさせました』
『えっ』
『カオマンガイが好きですよね。ちょうどいい店が見つかりましたので』
いつの間にと思っていると、ドアフォンが鳴る。
まさかと思って出ると、オンラインフード配達の宅配員が息を切らせて立っていた。
「お待たせしました」
(いつ頼んだの!?)
久美は信じられないと思いつつ受け取ると、宅配員は帰っていき品物だけ手にして久美は立ち尽くした。
冷めてはもったいないとすぐに部屋に戻ってローテブルで広げると、そこには美味しそうなプリプリのお肉がのせられたカオマンガイがある。
思わず生唾を飲み込み、ソースをかけて食べ始めると今までで食べてきたどの店のものより美味しい。
いつの間にリサーチしているのだろうと思いつつ、久美は疲れていたせいもあって黙々と食べてしまった。
お腹がいっぱいになると、ベッドへ寝転がり寝そうになる。
するとまた守谷からメッセージがきて目を擦りながらスマホを取った。
メッセージには『お風呂に入ってください』と書かれている。
(なんで私がお風呂に入ってないことが分かるの)
不審に思いつつ、起こされて風呂に入ると目が覚めてしまいぼんやりスマホをいじった。
すると守谷からまたメッセージだ。
『入浴後はストレッチをするといいですよ』
(守也!)
明らかにおかしいと思い辺りを見回すが、特に変わったことはない。
だが、ふとスマホのカメラが起動していることに気がついて、久美ははっとして守也に電話をかけた。
「ちょっと! 守也!」
「なんですか?」
「スマホのカメラから覗き見してるなんて最低!」
「ですが、僕の知らないところで何かあってはいけないので」
「そんな心配いらないのと、ご飯だって一人で食べられるから! じゃあ、おやすみ!」
すぐに電話を切ると、久美はすぐにスマホのカメラにテープを貼って、電源を完全に切って防御する。周りから見たら不自然に見えると思いつつ、守也はきっと懲りずに夜中も覗き見してくるだろう。
困り果ててしまうものの、久美はそのままベッドに潜り込んで眠りに落ちた。

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