恋巡り ~英国貴族の新社長に甘く微笑まれて溺愛されてます~

【書籍情報】

タイトル恋巡り ~英国貴族の新社長に甘く微笑まれて溺愛されてます~
著者朝陽ゆりね
イラスト黒百合姫
レーベルフリージア文庫
価格400円
あらすじ侯爵家の御曹司である竜と英国で優雅な一週間を過ごす香織だが、ライバルから身の程知らずだと罵られてしまう

新社長に就任した竜は英国で侯爵の称号を持つハワード家の御曹司。香織は彼の身内が病気と聞き、快復を祈って『東京十社巡り』の願掛けを行う。手術の結果は成功。一緒に喜ぶ香織に竜は感動し、香織の優しさに心惹かれる。一週間後、香織を祖父の誕生日パーティに誘う竜。そこで素晴らしく優雅な時間を過ごす香織だったが、竜のいとこが現れ、身の程知らずだと罵られてしまう。事実に胸を痛めた香織は、身を引くことを決めるのだが

【本文立ち読み】

恋巡り ~英国貴族の新社長に甘く微笑まれて溺愛されてます~
[著]朝陽ゆりね
[イラスト]黒百合姫

目次

第一章 新社長は英国貴族
第二章 パワースポットで祈願を
第三章 タマコさんの正体
第四章 場違いなヒロイン
第五章 恋は実るもの

第一章 新社長は英国貴族

その瞬間、社内は騒然となった。私も驚いて目を見開いた一人。
一番広い会議室に召集された私たち『ベリーズライン日本法人』のスタッフは、社長がいきなり交代すると告げられ、現社長の挨拶を聞き、たった今、新しい社長を紹介された。
「早乙女《さおとめ》竜《りゅう》です。ご存じの通り、MBAを取ってまだ数年で、理論で経営を考える状態です。これからは実践の中で、経営とはなんたるかを学んでいこうと思います。未熟者ですが、責務を果たすべく全力を尽くします。どうぞよろしく」
拍手が起こる。私も手を叩く。
だけど……頭の中ではいろんなことが巡っていた。
ベリーズラインはロンドンを拠点とするファッションブランド。オーナーは英国貴族のハワード侯爵。現CEOのシュン・S・ハワード氏は、本名、早乙女隼《しゅん》という純粋な日本人だけど、ハワード侯爵に見込まれてマーガレット夫人と結婚した人。そのマーガレット夫人は我が社のデザイナーでもある。
私の記憶では、息子の名前はリュウ・ジャック・ハワードだったはず。サオトメリュウって……どういうこと? 日本にいる間は父親の姓を名乗るってこと?
挨拶を終えると解散になり、自席へと向かう。
そこで改めて社長の挨拶を聞くことになった。社長室に集まったのは秘書室スタッフの六人。そう、私は入社二年の下っ端秘書だった。
改めて至近距離にて社長を見る。
ロンドン本社が発信しているWebサイトで何度か紹介されていたから顔は知っていたのだけど、写真と実物は別人のように違っていた。
なんというか……無愛想?
あ、いやいや、見惚れるくらいかっこいいのよ。ウットリするくらい整った顔なのだけど、目つきが鋭いというか。
「本名はリュウ・ジャック・ハワードですが、郷に入れば郷に従え、日本の文化をこの身で感じつつ働こうと思って、父方の名前で参ります。早乙女竜として働きますので、そのようにお願いします」
改めて聞いても完璧な日本語だ。
日本へは旅行程度でしか来たことがないと聞いていたけど。
秘書室員全員で頭を下げる。続けて永田《ながた》室長が自己紹介を促した。先輩方の挨拶を聞きながら、自分の挨拶を素早く考える。そして私の順番が回ってきた。
「三澄《みすみ》香織《かおり》と申します。入社二年の未熟者ですが、よろしくお願いいたします」
やはり簡素なのが一番いい……とか思ったけれど、当の社長はスタッフの挨拶などどうでもよさそうな表情で、私が終わるとみんなに「よろしく」と言って、顔を背けてしまった。
あら? なんだか、その……やっぱり、無愛想?
永田室長に促され、私たちは秘書室に戻った。
先輩方が雑談を交わし始める。もちろん新しい社長の話題。下っ端の私は先輩相手に相槌を打ちながら仕事に取りかかった。
そう、仕事、仕事。どんなに社長がイケメンで御曹司でも、私の仕事が減るわけではない。それに私如きがお近づきになどなれるはずがないもの。
それからすぐにお昼を示すメロディが流れた。すぐにというのは語弊があるかな。集中していたから、あっという間だったのだ。だっていきなりの社長交代劇に、入っていたアポの変更と、新旧それぞれの社長の挨拶回りのアポ取り、これら全部、下っ端の私の仕事なんだから。
ランチはいつも利用しているパスタ専門店に入った。ここはオフィスビルの中にあるので移動も楽だから。
「素敵よねぇ~」
同期で友人の石川《いしかわ》愛美《まなみ》がウットリしたような表情でそう言った。
主語がなかったけど、誰のことを言っているのかくらいわかる。
確かに素敵だと思う。私もそう思う。不愛想だけど。
英国貴族のお家柄である新社長、早乙女竜様のことだ。
身長はおそらく一八〇センチを超えているかな、と思う。残念ながら、私の周囲には長身と分類される比較対象が少ないから正確にはわからないけど。
明るいブラウンの髪の毛。軽くウェーブがかかっているのか、見るからにふわふわで、手触りよさそうとか思ったりして。
立ち姿が優雅だった。これが英国貴族、英国紳士なのかとつくづく。
そこにいるだけでその場の空気を変えてしまうような優美さ。後光が差しているとまではさすがに言わないけど、気軽に近づけない感じがする。
気品って、こういうことを言うんだ……みたいな。
着ていたスーツも光沢があって、滑らかそうな生地や落ち着いた色味から、素人が見ても高価だとわかる。今どきの日本の若者はダブルのスーツなんて着ないよーと言いたいものの、社長が着るとこれから流行りそうな気がするくらいだ。
そしてもっとも女性スタッフの心を鷲掴みにしているのは、甘いマスクだろう。
頬から顎にかけたシャープなライン。彫が深く鼻が高い、鼻筋が通っている。日本人とイギリス人の血を受け継ぐダブルの顔立ちは神秘的で、吸い込まれそうなほど澄んだ青い瞳は宝石みたい。
「香織、いいなぁ」
「なにが?」
「秘書室」
愛美は総務だもんね。でもね、社長がどんなにイケメンであっても、私はお近づきになりたいとか思ってないから。手の届かない人に恋をするのは悲しすぎるじゃない。
それに私は急いでいるのよ。結婚を。
「羨ましすぎる」
はいはい、そうでしょうとも。
「だけど、あの人、本店じゃ無愛想で有名だそうだよ」
ふいに隣から声がした。
横の席に人事部の近藤《こんどう》主任と、彼の同期で営業の西岡《にしおか》主任が座っていた。
この二人もなかなかのイケメンだけど、残念ながら既婚者で、西岡主任には先月生まれたばかりの愛娘がいる。ということで、恋愛対象外。
「ホントですか?」
近藤、西岡、両主任は頷いた。
「CEOが『隼』って書いてシュン、だろ。新社長もリュウは『竜』だって言ってるそうなんだ。向こうのスタッフたちはそれをもじって『ドラゴン』って呼んでいる。東洋じゃ『竜』は神だけど、西洋じゃ魔物だからな」
「悪く言われてるんだ。なんかショック! ねぇ、香織、思わない?」
愛美ってば、すっかり社長のファンだな。
「さすが貴族の家系だから、身のこなしや礼儀作法は完璧らしいが、無愛想で人つきあいが悪く、特に女性はあまり好きじゃないみたいだ」
「それって同性が好きって意味ですか?」
「さぁ、そこまでは。でも、必要以上に女性スタッフを置かないし、パーティなんかの出席も最低限らしい。決まった人がいるのかもね。まぁ、いてもおかしくないし」
確か、社長って三十歳だったはず。確かにいてもおかしくない。
「残念~」
愛美の能天気な声が小さく響いた。
その後、店を変え、セルフカフェの一角に腰を下した。
「この街コン、いいと思わない?」
街コンの紹介がされているスマホの画面を見せながら愛美に問いかける。愛美は愛らしい童顔を突き出すようにして覗き込んだ。
「グルメ系じゃ後々大変だと思うよ。不発だった時、食い気に走っちゃうじゃない。太るよ」
「不発だった時、食い気に走れるから救われるんじゃない」
「えー!」
愛美と親友なのは同期というだけじゃない。婚活仲間という別の、そして強い繋がりがある。朝コン、街コン、合コンに参加する同志なのだ!
マッチングアプリも使ったことがあるのだけど、どうも性に合わなかった。
結婚本気度高いなら、一対一のマッチングアプリのほうがいいと思ったのだけど、ふと、この人、私の知らない場面では、どういう態度を取るんだろうと疑問に思ったのだ。
誰だってよく見せたい。私だってよく見せようと改まった態度を取る、あるいは無意識に取っている。だけど、自分のいない場所での態度が、もし私と相容れなかったら……そう思うと、コンパとかで様子や態度、あるいは複数人で会話できる場で知り合うほうがいいんじゃないかって思った。
それを愛美に話したら、彼女も同じことを考えていたそうで、だったら一緒にコンパに参加しようってことになったのだ。
「じゃあさ、バーでのカクテルパーティはどう?」
「参加費は?」
「男女一律一万円」
「うーん。私、お酒弱いしなー」
誰が、お酒、弱いって?
「ワインの会は?」
「一緒じゃん」
なかなかうまくいかないわね。ガックリと肩を落とした私に、愛美はまたまた能天気な声で言い放った。
「スイーツ・コンってどう?」
ガクッ。
たった今、食べ物はダメって言ったくせに、スイーツだなんて。
ああだこうだ言いながら、私たちは合コンに参加すべくスマホにかじりついていたのだった。

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